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ジュエリー アイ ②
あれは2年前になる
人々が薄暗闇にパニックになり、楽観視する者、絶望する者、現実逃避する者、人々が一通りの感情を出し切ると、たいていの人は現状を受け入れて逞しく生きていくものらしい
薄暗闇によって太陽光からの電力が得られなくなると、電気は一般的庶民に手が届きにくいものになった。テクノロジーがかつてのように自由に使えなくなり、そのうち昔のように文字を書いて交流しようというブームが起きた
各地域の掲示板に、それぞれ自分の自己紹介や興味があるものを書いて貼っていく。それをみて相手に連絡したい時は、相手が借りている小さなポストのような連絡ボックスに手紙を出す。ほとんどの人は、本名は名乗らず、顔も分からないまま交流していくのだ
私は、リアンと名乗る相手が張り出した美しい詩に心惹かれ、感想を書いてボックスに入れた。
その時にホルテスという名前を使ったのだ
ただ、何度か交流を重ねたのだが、突然リアンは掲示板に詩を張り出すのをやめてしまい、連絡ボックスも同時に無くなった
いつか会いましょう、と認識IDも交換したのに何も言わずにいなくなってしまったので、とても落ち込んだ
早く忘れてしまおうという意識と日々の忙しさが加わり、私の記憶からすっかり消え去っていたようだ
私の記憶の蓋が開いたように、リアンの記憶の蓋も開いたようだった。リアンの気まずさが離れていても伝わってきたので、私は努めて明るい声を出した
「こんな形で会えるとは思わなかったですね」
「......本当に」
言葉が続かないリアンに、仕事に行かないといけないのでと声をかけ、私は歩き出した
自分でも緊張していたのか、勤務先のビルの前に着いたとき、私は自然と大きな息を吐いた
いつものように身分証を首にかけ、警備員の目の前に差し出す。そのあとは、10階までひたすら手すりを頼りに暗い階段を登っていく
苦しい息遣いと、重い足取りだけが響く中、私は余計なことは考えずにただ登ることに集中する。穏やかな光が漏れてくると、10階にたどり着いたとわかる
私は息を整え、口角を上げた
「おはよう」
「おはようエナ」
いつもと変わらず、職場の人たちと挨拶を交わす
私は、自分のスペースにカバンを置き、目を閉じてからデスクライトをつけた。瞼を閉じてもほとばしる明るさが目に染みる。ゆっくりと目を開けて徐々に明るさに慣らしていく
仕事に集中しなければ
私は気持ちを切り替えて、イヤホンを耳に当てた
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