ジュエリーアイ ⑪
その夜、仲の良い同期10名が、結婚祝いの食事会のためにルルナの新居に集まった。ルルナの婚約者は、大きなキャンドル工場を持つ2代目社長の息子で、家業を継ぐ予定だ。ルルナも結婚後に仕事を手伝うことになる
私たちが広いリビングに入ると、貴重なキャンドルが何本も部屋中に灯っており、幻想的な雰囲気を醸し出していた。私たちは暖かな明るさに感動しながら、ダイニングテーブルについた
食事会とはいえ、食料確保が薄暗闇の影響で難しくなっている。普段の食事は栄養や食べ応えに配慮したものが政府から配給されており、それを各自持ち寄って食べる形になった。それでも気の置けない仲間との食事会は楽しかった。ルルナの婚約者も、にこにことみんなのお喋りを聞いてくれるので、私たちは居心地良く盛り上がれた
「ルルナ、使いふるしたもので本当に申し訳ないけど、これをお祝いとして受け取ってくれる?」
食事が終わり、それぞれがリビングでくつろぎ始めていた。私はルルナが一人になったところで、そっとルルナに紙袋を渡した
「開けていい?」
ルルナの嬉しげな声に、私は黙って頷く。2人でダイニングテーブルに座り、ルルナがそっと紙袋を開け中のものを取り出した
「キャンドルホルダー!もしかしてあの?」
「うん。あの一年中クリスマスのお店のものだよ」
まだ世界が明るかった頃、私はよく1人旅をしていた
キャンドルホルダーを見つけたのは、桜が美しい国だった。ふらっと立ち寄った海沿いの観光地で、立ち並ぶお店をのんびり散策していたところ、あるお店の看板にかかれた店名に惹かれた
「一年中クリスマス」
そのお店は地下にあり、まるでトンネルのような薄暗い階段を降りていくと、暖かな光が視界に入ってくる。店内は、見渡す限りクリスマスの物で溢れかえっており、オルゴールの心地の良い音とオレンジ色の光に包まれていた
私は時間も忘れてお店の中をゆっくり眺めていたが、ふと回転式のキャンドルホルダーに目を奪われた。キャンドルの熱を動力に羽がくるくると回り、羽根のついた金色の天使たちがゆらゆらと揺れていた。炎が黄金色の天使たちに反射して揺らめいているのがなんともいえず幻想的だった
異国の地で出会ったこのキャンドルホルダーは、キャンドルが手に入りにくくなるまで、毎年我が家でクリスマスシーズンに飾られていた。夜は家族で火を灯して天使たちがゆらめく様を眺めるのが日課となっていた
「嬉しいけれど、思い出のある物なんでしょう」
ルルナに以前この話をしたときに、とても興味を持ってくれた。彼女は天使のオブジェが大好きなのだ
「だから贈りたいの」
ルルナの婚約者が小さなキャンドルを持ってきてくれて、火を灯してくれた。火がつくと、すぐに天使たちがくるくると回り始める。光を放つ天使たちは、まるで私たちに祝福を与えているかのように見えた
「なんて美しいの。ありがとう、エナ」
私を見つめるルルナの美しい眼に天使たちのゴールドの光が反射して、彼女の眼はまるで光の泉のように輝いていた
幸せの色だわ、私はそう思って微笑んだ
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