ジュエリーアイ ⑧
歩き始めてしばらくすると認識アラームが震えた。確認する前に、リアンの声が聞こえてきた
「ホルテスさん!この時間帯に会えるなんて」
リアンの声はいつもより明るかった
私たちはいつも少し距離を置いて話している。お互いの顔がよく見えないこの距離が、私にはちょうど良かった
「リアンさん。確かに初めてですね」
「ちょうど良かった。実は来週から美術館で始まる詩の展示会に僕の詩が選ばれたんです。他の人達の作品と一緒にキャンドルでライトアップされるんですよ」
「え!すごいじゃないですか。ぜひ見たいです」
「ありがとう。良かったらチケットを2枚貰えたので、一緒に行きませんか?キャンドルも付いてくるんです」
「もちろん。楽しみです」
思わずそう言って、私は後悔した。キャンドルの灯りは、リアンの詩だけではなく、私の眼も瞳も映し出してしまう
リアンはじゃあ、次に会ったときに予定を合わせましょう、と嬉しげな声を残して去って行った
私はしばらく動けなかった
次の朝、リアンに会いたくない気持ちと、会いたい気持ちが複雑に絡み合ったが、結局いつもの時間に家を出た。そしてリアンと来週、仕事終わりに美術館の前で待ち合わせることになった
思い足取りで仕事場の階段を登り、自分の机にいく。椅子に座り、デスクライトを付けると、眩しい光が閉じるのを忘れた私の眼を刺激した。反射的にぎゅっと眼を閉じたと同時に涙が溢れた
私はゆっくりと眼を開け、認識アラームを取り出した。アドレス帳を開き、リアンの名前を選び、登録解除の項目を呼び出す。クリックすればそれで終わりだ
解除すればもうリアンとすれ違っても、アラームは鳴らない。リアンも私のことを分からなくなるはずだ
私は大きく息を吸った
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