見出し画像

ジュエリーアイ ⑥

 いつもの通勤の途中に、ぶるぶると認識アラームが震えた。急いで確認する前に、少し離れたところで声が聞こえた

「おはようございます。ホルテスさん」

リアンだった。私は少し緊張する。

「おはようございます。リアンさん」

「良かった会えて。実はホルテスさんにまた会いたかったんです」

 私が戸惑っているうちに、リアンが続けた。

「僕が突然掲示板から消えたことを、謝りたくて......。あの頃、いろんなことが一気に押し寄せてきて、ある日突然、全てが嫌になったんです。良いことも悪いことも全て。だから何も言わずに消えてしまった」

リアンはそう言うと、黙ってしまった。

私はなんと言って良いのか言葉を探していたが、ふと掲示板に貼ってあったリアンの詩を思い出した

「リアンさんの詩の一節に、

楽しかった過去と美しくなるはずだったこれからが、足元に横たわっている

ひざまずいて救おうとしても、薄暗闇の中では救えない

やがて私は薄暗闇に飲み込まれていく

と、ありましたよね」

「覚えていてくれたんですか?」

「実は覚えているのは、その一節だけなんですが......」

私が申し訳なさそうに言うと、リアンがくすりと笑うのが伝わってきた

「リアンさんが、薄暗闇に飲み込まれなくて良かったです」

前回感じた気まずさが、薄暗い中でも消えていくのが分かった

 私たちは、その後ときどき通勤途中に会話を交わすようになった

短い時間でもリアンとの交流が、暗闇の魅力から私を遠ざけてくれていた

 

この記事が参加している募集

#眠れない夜に

69,462件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?