見出し画像

MSワラントをゆるっと考える

みなさま、こんにちは。「もこもこ」です。

初めてましての方も、いらっしゃるかもしれませんが普段はTwitterで情報発信させて頂いています。

Twitter ⇒ mokorpho3653

仕事柄、ファイナンスの勉強や株式投資もやっておりまして、このコラムを読んで、ちょっとでも参考になったなぁと思っていただければ非常に嬉しいです。

2020年は新型コロナの猛威、そしてニューノーマル時代への変わる、きっかけとなった年であり、多くの会社で資金調達の必要が出てきました。

上場企業における資金調達(増資)の傾向が

「MSワラント:転換価額修正条項付き新株予約権」が増えている
誰が名づけたかわかりませんがMSワラントが【悪魔の増資】と呼ばれることにより、非常に不評を買うケースが増えています。

MSワラントは仕組みが複雑・不確定・長期間に渡るため、MSワラント企業=株主軽視の極悪企業とひどいアレルギー反応を起こしているのですが、それなのに、なぜMSワラントが無くならないんでしょうか?

理由は簡単で「機動性が高く、便利」な増資方法だからです。

今後MSワラントは、なくなるどころか、今後ますます増える資金調達方法です。MSワラントって何なのか、いざMSワラントに遭遇したら、MSワラントに遭遇しないようにするにはどうするか、これを参考にゆるっと考えていただければと思います。


(1)資金調達・増資の種類と特徴

各資金調達方法について機動性、調達金額の確度、希薄化、マーケットインパクト(MI)についてそれぞれ紹介していきます。

①銀行借入・社債:銀行から借りられれば一番楽ですが、B/Sが悪くなるほど多額の借入は信用低下など逆効果を招く可能性も

機動性:高い、金額:確定、希薄化:なし、MI:ほとんどなし、備考:借金なので返済義務がある

②新株発行(公募もしくは第三者割当):新株を時価で発行します。

機動性:低い(制約があり頻繁に新株発行できない)、金額:確定、希薄化:あり、MI:規模によるがマイナス、ただし第三者割当の時は資本業務提携等の思惑が絡むためプラスになるケースが多い、備考:規模が大きいと、マーケットバランスが崩れ暴落の引き金に、ただしMSワラント、MSCBよりはバッファは効く(発行された新株が全てマーケットに流れるわけでないため)

③CB(転換社債):①と②のいいとこ取りに設計された社債。転換価格以上の株価になった場合、社債(借金)が新株に変化するため、発行企業の立場では、転換が進むような株価政策をする傾向にある。ただしデフォルトリスクもあるのと時代にそぐわず、最近はあまり発行されていない。似た商品で転換ではなく新株予約権がついたワラント債もあるが、こちらも最近は見かけません。

機動性:低い、金額:確定、希薄化:転換されればあり、MI:昔はCB発行が大相場になるケースもあったが、最近は希薄化が嫌気される様子。備考:昔の新発CBは転換促進の株価政策まで織り込むため、ほぼ間違いなく儲かる商品としてIPO公募株並みの人気でした。

④MSCB(転換価格修正条項付き転換社債):転換価格が変動できるように設計したCB、赤字バイオベンチャーが好んで使用したため、マーケットには非常に悪いイメージがついてしまい、【悪魔の増資】と呼ばれるきっかけに。MSワラントと混同している人が多い。

機動性:低い、金額:確定、希薄化:空売りとセットになるのが一般的でで、希薄化の影響は大きい。MI:暴落がほとんど、備考:通常の資金調達ができないような赤字会社が行う手法ですが、株価が下がりすぎると転換できずデフォルトするリスクがあるため、最近はMSワラントを使うケースがほとんどで、時代遅れの手法に。

⑤MSワラント:行使価格を変動できるように設計した新株予約権。最近は様々な制限、条件を付けることにより、マーケットへのインパクトを最小限にするよう設計されていますが、発表後はMSCB同様、過剰反応により株価低迷となるため、すぐに市場に新株が流れないケースもしばしばあります。

機動性:様々な制限、条件を付けることができるため機動性は高い、金額:行使価格が変動するため、株価が低迷すると希望の金額の資金調達ができない可能性もある、希薄化:あり、MSCBと違い株数は固定、MI:暴落がほとんど、備考:新株公募増資と比べるとワラント割当先は行使前提=全量マーケットに新株が流れるため、バッファが効かない。(それがMSワラント暴落の一因とも?)逆に、行使促進のため株価政策を行う会社もある

※行使制限措置、トリガーについて

①過度な行使がないよう、ほとんどの場合は1回の行使が割当日の発行株式数の○○%(10%が多い)を超えないようにしています。(行使制限措置)

②割当先が行使する前に発行会社に申請、会社側の承認を受けないと行使ができませんという制限もあります(行使許可条項)

③期間を区切って、行使不可(制限)とすることも可能です。

④逆に期間を区切って必ず行使させることも可能です。

⑤条件(トリガー)を設定することで、条件を満たさない限り、行使できないようにすることも可能です。トリガーに応じ、一部だけ行使可能という設計も可能。トリガー条件は、業績面や資金用途の進捗具合など様々。

・MSワラントが発行された際、必ずこの制限措置、トリガーをチェックすること、つまり発行会社が『ワラント行使の主導権をどの程度握っているか』を分析することが肝要です。

例として5つ上げてますが、これらの制限がない場合、MSワラントとMSCBはさほど変わらない構造になります。(MSワラントの引受側が早急に利益を上げたいのであれば、価格度外視で空売りや行使を進めるため暴落する)

(2)MSCBとMSワラントの違い

MSCBは増資金額が確定、株式へ全転換が前提、転換価格が変動するため株数は決まりません。証券会社サイドでは空売りと転換をセットにすることにより利鞘を稼ぐことができるため、強烈な売り圧力により株価が低迷するのがほとんどでした。

※500円で10億円のMSCBを発行、下限200円とした場合、500円で転換した時の転換数は200万株ですが、200円で転換した時の転換数は500万株となるため、500万株の空売りを行い、200円で転換し現渡することで利鞘が生まれます。(説明のため極端な例にしてますが、実際には空売→転換現渡しながら進めていきます)

株式全転換が前提となっているため、株価が暴落しようが転換制限はなされない。

株価が500円だろうが200円になろうが発行会社には10億円の資金が入り、引受側は10億円払う。引受側は投じた10億円に対しどれだけ稼げるかなので、積極的に空売りして利鞘を稼ぎにいく=株価は下限に限りなく近づく

この場合、引受側の最大利益は利鞘500-200=300円×最大転換500万株=15億円-10億円=5億円。実際はマーケットの動きに左右されるため、10億円を投じ20%の2億円も稼げれば上出来、10%以下というケースもありえるのでは?デフォルトリスクも考慮すれば、引受側にとっても美味しい話とは言えなかったようです。

引受側も大金を張ってるため、株主無視で株価を下げないといけない。これやられた株主にとってはたまらないですよね。そりゃ悪魔の増資と呼ばれるわけです。

MSワラントの場合、株数は確定していますが増資金額は行使価格に応じて変動するため未確定です。ケースバイケースですが、想定より低い資金調達を防ぐため、下限行使価格は設けるものの、行使数や行使許可等様々な制約をつけることが多く、即座に全量権利行使できません。株価が下がると収入が減るため、引受サイドも空売りするメリットがありません。

※大抵行使価格の90%前後で新株取得可能。株価が1000円であれば取得900円で利益は100円だが、下限が50%500円とした場合、下限で行使すると取得450円となり、利益は50円に減ってしまう。株数固定であるため、引受側の立場としては株価が上がってから権利行使するほうが嬉しいことになります。

引受側はまず激安でワラントを引受けるのですが、行使している間にこのコスト分は楽勝で稼げるため、引受側はほぼノーリスクで儲かります。

MSワラントでノーリスクで8~9%も儲かるなんて怪しからん!と思っている方が大半ですが、2020年マザーズ銘柄で流行?した海外向け公募増資のディスカウント率(利益)って同じくらいですよ。海外向け公募ならOKでMSワラントならダメって矛盾していません??

(3)なぜMSワラントで暴落するの?

仕組みが複雑であるのと、ファイナンス期間が長期に渡るのが嫌気されます。希薄化も一つの理由ですが、信用買いのロスカットや資金拘束を嫌がる現物株の売りが出る一方、材料がなければ積極的な買いは入らないため、『需給要因で下げるケース』がほとんどです。そのため、売りがオーバーシュートしてしまうと、希薄化されていないにも関わらず下限行使価格を割り込んだり、理論外の価格まで暴落することもあります。

新株公募は発行会社⇒証券会社⇒投資家(バッファ)⇒マーケットという流れで、引受投資家全てがマーケットに新株を売却するわけではないためバッファ効果(緩衝)がありますが

MSワラントは発行会社⇒引受会社⇒行使(マーケット直売りor空売現渡)となるためバッファ効果がありません。常に大量の売物が出てくる可能性があることから、公募に比べ希薄化を大きく意識させる事になりこれが嫌気される原因となります。

MSワラント=売り・暴落というのがマーケットの総意となっているため材料と抱き合わせ発表する会社もあります

※ホープ(6195)・・・来季の強気業績見通しの発表と抱き合わせ、翌日はGUからS高

※Fringe81(6550)・・・Sansanとの資本業務提携と抱き合わせ、翌日はストップにあと12円となる88円高で寄り付いたがそこが天井で、引けはマイナスに。

(4)なんで新株公募増資しないの?

公募増資は新株を発行した後、証券会社が株を引き受けます。証券会社の立場は株を引き受けて大株主になるのではなく、売って利益を得ることなので、発行価格を下げたり、リスクを抑えるため、「空売り」を掛けます。

※個人の公募増資や立会外分売狙いの投資家も基本は「空売り」戦略を取ることがほとんどです。

東証1部の大企業は流動性が高く、空売りがしやすいので問題ないですが、マザーズ銘柄の流動性は微妙で日々の出来高が少ない銘柄も多く、空売りでヘッジを掛けにくい点が公募増資ができない理由のひとつかもしれません。

また公募増資は手続きに手間や人員が掛かるため、10億・20億程度のロットが小さい案件では引き受ける証券会社はないかもしれません。(証券会社が引き受けてくれないと公募増資を行うことはできません)

参考:マザーズ企業の国内公募増資は20年はゼロ、19年にPKSHAが198億円(日興)、TKPが243億円(野村)、霞が関C27億円(日興)で3件。さかのぼっても16年2件、17年2件、18年2件と、マザーズ企業の国内公募増資はレアケースです。小型の公募は日興証券・いちよし証券が引受けてましたが、他は調達金額100億円以上の案件ばかりでした。

(5)銀行から借りればいいじゃん?

MSワラントを実施する企業の傾向は現在の財務規模に見合わない規模の資金調達をするケースがほとんどです(注:時価総額ではない)

・M&Aをきっかけに事業規模を拡大

・工場など設備設立をきっかけに事業規模を拡大

・広告宣伝費の大量投下により売上・ブランド性の向上

いずれも非常に多額(十億単位)の資金が必要となります。

仮に10億円の借入をするとして、自己資本100億規模であれば自己資本の10%レベルの借入ですが、自己資本が10億円の企業が10億円の借入を行うと、自己資本の100%、単純に自己資本比率は半減します。自己資本比率が半減するような借入をする経営者はMSワラント発行する経営者よりも、ある意味危険というか、ガバナンスが効いていない会社と個人的には思います。

M&Aは「のれん」を抱え込むことになり、全額借入してM&Aをするということは、金を借りてギャンブルする事と同じようなことです。失敗した場合を考えるとM&Aは基本的に自己資金を行うべきです。

広告宣伝も同様で、広告宣伝の効果がどれくらい上がるかは誰もわからず不確定です。M&A同様、借入して広告するのはリスクが高く、自己資金で行いたいという心理につながります。

(6)MSワラントやった会社って上がらないの?

会社側としては、予定より資金調達額が目減りするため下限の行使価格で実施されることを望んではいません。なので、MSワラント発表後低迷した株価が維持されると困るため、様々な株価対策(=材料提供)を打ってくることになります。

ここで2つ例を取り上げます

Aiming(M・3911)

2/5日に新作ゲーム、ドラクエタクトの開発発表で高値730円まで付けていた直後の2/14にの21億円規模のMSワラント発表。ドラクエタクト向けと既存ゲーム向けの調達用途と明記されていた。発表前終値545円、発表翌終値467円。

引受側が377万株のうち30%近い100万株の行使を3/10に行った結果、安値を付けることとなり、怒った会社側は3/25に4/1~5/15まで権利行使停止を発表しました。

4月下旬までは400~500円で推移、4/28の決算発表でドラクエタクトに言及、ワラント行使停止中の効果もあったのか、以降は相場一変、ワラント売りをものともせず7/13に1164円の高値を付けました。(正式サービス開始は7/16で結局13日に付けたのが高値)

9/10全行使完了、調達額21.1億円

ドラクエタクト発表前の株価は200円台、タクトを発表し吹き上がったところでMSワラント発表。「完全なハメコミ」と当時は言われていたが、結局はこの時点で買った株主でも2倍以上の高値を享受することができました。

※現時点の株価を見ると、ドラクエタクト他ゲームを運営する資金の調達のため、会社側の手のひらの上で踊らされていた感じはありますね。

ツインバード工業(2部・6897)

8/24に13.7億円のMSワラント発表。コロナワクチン向けのFPSC事業に8億円使用と明記。8/24終値771円。翌日は686円寄付の終値は730円。その後は権利行使もあり、ジリ安が続いていくが

10/23にFPSC事業の受注状況の発表をきっかけに相場が一変。高値⇒調整⇒高値⇒調整の繰り返しで1/8には2100円。現在も1800円台で推移。

今年1/18に行使完了、相場一変するまでの権利行使はおよそ半分で、残りは高値での権利行使がされたため、想定よりかなり多い金額が調達できた大成功ケースと思われます。

しかし8月から10月後半まで冴えない展開だったので、MSワラント発表で売ってしまった投資家は発表時から約3倍の値上がり益を逃すことになってしまいました。

このように、MSワラントの資金用途が今後の動向の重要なキーポイントとなる情報提供となることが多く、MSワラント実施企業=株主軽視企業と切り捨てることは非常に勿体ない事であることがわかります。

(7)もし所有銘柄がMSワラントを発表したら

①調達規模②行使期間③用途④自分のポジション位置⑤環境(地合いや抱き合わせのニュース)⑥長期で待てるか

このうちどれか1つでも納得できないのであれば即、売るべきでしょう。

MSワラントの発表は、短期では大幅安になります。需給による売り込みのためオーバーシュートとなることもあり、どこが底になるかはわかりません。

なので、MSワラントに懲り懲りと思ったら、そこで終了です。その銘柄の監視をやめるべきでしょう。

MSワラント発表資料を読み、光る物を感じられるのなら継続監視します。

次に1回目の行使発表をチェックします。

1回目の行使発表でほとんど行使されておらず、株価が横ばいであれば打診買いしても良いかもしれません。

以降は適宜権利行使の状況と株価動向を見ながら進めていきます。そのうち、キーポイントとなる材料(M&Aだったり、工場建設だったりなど)や進捗状況が判明します。

これはいきなりのIRだったり、決算短信にその内容が触れられることが多く、結局のところIR芸が達者かどうかもポイントで、その見極めが難しいところです。

個人的な体感ですが、増資⇒用途実行までは早くて半年程度、長ければ1年以上かかることもありえます。特にM&A実施企業に多くみられますが、M&Aにより業績一変もあるため、タイムラグはあるのですが、注目しておいて損はないと思います。

(8)MSワラントを避けるには

①株価が高値圏、もしくは、高値付けてから、やや調整局面

⇒株価が長期低迷局面でMSワラントを出すケースは少なく、出たとしても資金難が理由でMSワラントを発表する可能性がある

②中期経営計画や決算短信で業績を急拡大させようとしたり、M&Aを検討している等と言っている、成長志向が強い(赤字を出しても売上を伸ばす)

⇒MSワラントの資金需要で多いケースは自己資金で実施したいM&Aと広告費です

③PBRが割高(目安は5倍以上)

PBRが割高ということは財務規模と比べ時価総額が高いということで、増資を検討している経営者にとっては後押しの決め手になりそうです。PBR10倍以上の企業はいつMSワラントを実施してもおかしくないと言って差し支えないでしょう。

④IPOの資金調達が少なかった

⇒資金調達(新株公募)局面は、①IPO②指定替えが非常に多いです。IPOの新株公募数が少ない場合は増資を疑っても良いかもしれません。

⑤時価総額が1000億円以下

⇒逆に時価総額が高い企業の場合は、公募増資ができるケースが高いです。

⑥バイオベンチャー、赤字で資金に困ってる企業

バイオベンチャーや赤字で資金に困っている企業はMSCBに非常に近いような制限緩々のタチの悪いMSワラントを出してくる可能性があります。

※参考 2021年1月時点のワラント実施中リリースが確認できた会社は48社。

1部11社 2部5社 JQ10社 マザーズ20社 名証2社とマザーズ企業が全体の42%を占めています。時価総額を確認しても圧倒的に300億円以下が多い為、東証1部かつ時価総額300億円が目安として設定しても良いのかもしれません(例外はMSワラントで100億円調達中のメディアドゥ)

ゆえにIPOから日が浅い、成長ストーリーだけで人気が株価に織り込まれているマザーズ企業のほとんどが、いつMSワラントを実施してもおかしくないように思えます。

ゆるっと説明するつもりが結構な文章となってしまいました。

昔は増資といえば、株価が暴騰する材料のひとつだったのですが、ネット売買が主流となった時期から、逆になったような印象を持っています。ですが

会社が成長するためには「金」つまり、市場からの資金調達は欠かせないわけであり、増資のひとつもできない企業は上場する意味もないのではと感じております。

MSワラントを実施する企業は最低だと罵るのではなく、チャンスなんだと注目してみるとまた面白い発見があるのかもしれません。

読んでいただき ありがとうございます みなさまの応援サポート とても励みになります いただいたサポートは 子供の笑顔になるために使いたいと思います がんばります!