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龍の背に乗れる場所

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特別なんかじゃない。寧ろ普通より劣っている。 生産性も金も運も無いが、自由に生活してきた女が見つけた最高にふさわしい自分の居場所。
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#小説

龍の背に乗れる場所 8

 アナルゥと言うのが、彼女の渾名だった。  何処か卑猥で、中途半端な呼称と同じく、彼女自身の立ち位置も現状、どこか卑猥で中途半端な物だった。  十四歳で芸能事務所にスカウトされ、二年ほど地下アイドルとして跳ねたり飛んだりしていた。地下アイドルというのはテレビに出演せず、ライヴ・ハウスなどを中心に活動する人達の総称で、バラドル(バラエティーアイドル)に比べると一本芯の通った印象を与えやすい。  彼女、いや穴井留美《あないるみ》は、そんな中でも頭一つ飛び抜けた存在だった。往々

龍の背にのれる場所 9

 数年前、田端カオルと出遭ったあの日。穴井留美の中に、これまで想像すらした事のない情感が宿った。  この落ちぶれて死にかけの女は、何を思って生き続けているのだろう。この女に餌を与えたらどうなるのだろう。  それより何より、この薄汚い女に陵辱される事こそ、今の自分に相応しい事なのではなかろうか。  穴井留美は並べられてあった色紙を全て買い上げ、たかだか五万ちょっとの出費で、田端カオルの時間を拘束する事に成功した。  家に誘い、酒でもてなし、食事(と言ってもツマミ程度だが

龍の背に乗れる場所 11

 自分の居場所を確認する作業は大変だ。しかし見方を少し変えれば、そんなに難しくないのかも知れない。 「木炭って網の上で良かったのか?」 「ミキ、おやさいならべるよー」 「うわっ、皿が飛んで行く! 紙製品はこれだから駄目なんだ!」  結果から言えば、このメンバーの誰もがバーベキューをした事が無く、誰もが他人任せにしようと目論んでいたのだと思う。  かく言う私もその一人で、慎吾辺りが多分知っているので丸投げしようと思っていた。  もうすぐ九月が始まると言うのに猛暑日は

龍の背に乗れる場所 12

 楽しかったバーベキュー大会から数日経ち、私は家で色紙に詩を書き続けていた。あの思い出が霞む前に、出来るだけ多く『文章として』残すのだ。  おかしなもので、あれから酒に手を伸ばす事が減った。但し、私は正真正銘のアル中なので、酒を断つには至らず、日々必要に迫られ《《適量》》を呑み続けはしているけれど。  色紙に向かい、無心で筆を走らせていると、携帯電話の着信音が鳴った。アナルゥからだ。 「もしもし」 「カオル、ネットニュース見た? 大変よ!」 「暫くパソコンは弄ってい