今宵は君に溶け込んで。
まどろみのなかであなたが手を握ってくれた。
そんな気がして少し目が覚めた
午前3時2分。
『君はどうしたい?』
その言葉が孕む2ミリほどの甘さは、
冷静な思考を蹴散らすには十分すぎて。
無言が肯定の意味を示すのは、
恋人同士ではない男女にはとっておきの合言葉で。
気づけば家と反対方向に歩いている自分を
見て見ぬ振りして
そっと、甘い香りのする方へ。
初めて足を踏み入れたその部屋は
2人きりなのに、
いつかの誰かの気配が至るところに漂う
甘美な部屋で。
"今日だけは2人きり"
その事実が、
心を躍らせるような、
踏み込みすぎてはいけない領域に来てしまったような。
期待と後悔が混ざり合った複雑な感情は、
"酔い"という媚薬が
都合よく消し去ってくれたみたいで。
『もうどうにでもなってしまえ』
頬に手が触れる。
さりげなく渾身の上目遣いで見上げる。
キミのまつ毛の長さを頬に感じながら
そっと目を閉じた————————
少し足が触れて目を覚ます。
微弱な頭痛とわずかな後悔をしのばせながら、
隣で寝息をたてるキミを見た。
『何が正解だったかなんてわかるわけがない』
時間が経つほどに忍び寄ってくる後悔を、
自分を正当化することで振り払う。
そっと目を覚ましたキミが起き上がる。
数時間前に目を覚ましてるのを、
下手なあくびと目をこする仕草でごまかして。
『まだ眠たいなら部屋で待っててくれてもいいんだよ?』
そんなことを言ってふっと笑うキミ。
うん、なんて言うわけないじゃん。
眠たげな演技をすっぱりと辞め、
サッと身だしなみを整え2人で家を出る。
ふたりだけだった時間はここで終わり。
つい数時間前に歩いたばかりの道を
1人で歩きながら、
2度と触れることのないであろう
大きな右手の感触を思い出してみる。
〈・・・案外思い出せないんじゃん〉
思い切って飛び込んでみた未知の世界は
あっけないほどあっさりとしていて、
ただひたすらに、アルコールという媚薬の効果を
思い知らされただけだった。
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