しあわせなときは美しいものを買う
小説の舞台は南米ウルグアイ。自殺した作家の妻、愛人とその子供、兄とその恋人がひっそりと暮らしている。そこへ作家の伝記を書きたいという大学院生がアメリカからやってきたことで、彼らの気持ちが、ひいては人生が動き出す様子が繊細な筆で描かれている。
これは作品の冒頭、作家の兄アダムが、恋人ピートの手を借りて外出の支度をする場面である。偏屈な老人として描かれているアダムであるが、昔はシュトゥットガルトのオペラ座の支配人であったこと、オペラ座の大道具係であったピートを養子にして、両親が住んでいたウルグアイに戻ってきたことが後に明らかになる。
「美しいもの」は、不遇を忘れさせてくれることもあるが、しあわせな時を思い出す縁ともなるようだ。しかも後々までしまっておくことができる・・・これは「おいしいもの」にはできない芸当である。 (2016.11)
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