北の伏魔殿 ケースⅠ-②

○歓送迎会は実は人間観察の場

 ある年、私は新たな職場に人事異動となり、私を含めた複数の職員の歓送迎会が行われた。                                     

 役職につく前の若手や新人職員であれば、歓送迎会は人を知るいい機会であり、コニュケーションを図るため、仲良く酒を酌み交わし、馬鹿話をするのも今後の人間関係形成に役立つものである。

 一方、中堅や役職者にとっては、仕事そのものやこれから仕事相手となる上司、同僚の性格、仕事に対する知識、考え方を知ることができる人間観察の場でもある。

 直接の上司が仕事する人か、それなりに知識を持っているのか、あるいは人事に興味のある人間なら、人事に力を発揮してくれる上司なのかを見定めようとするだろう。

 また、同様に同僚の性格、能力によっては、仕事ができるか、協力的なのかは、今後の業務遂行に大きな影響があるので、私は、どちらかといえば下戸に近いが、そういう席では人間観察を行うとともに、コミュニケーションを図りながら、協力関係を築いていこうとしてきた。

○要注意人物が二人いた

 私は、名義上その課に配置されていたものの、そこから団体に派遣され、海外事務所の運営支援の業務を市内の団体事務所で行っていた。       

 また、海外の現地には、団体から所長と女性主査の二人が派遣されていた。

 今回の歓送迎会には、その二人はすでに海外勤務しているため、参加していないが、前月まで海外勤務していた女性主査Bが戻ってきており、団体勤務の私と本庁とのつなぎの役割を担っていたため、彼女の言動には注意を払っていた。

   話からすると、彼女は海外勤務以前の担当者時代もこの課に勤務しており、海外先の言語に堪能であることがわかった。そういう面では、この課の業務が初めての私にとっては、頼もしいパートナーとなりそうだと思った。

 しかし、彼女が前任者と話しているのを聞いていると「その仕事はやっておいてくださいね!」とかなりきつめの口調で言い放ち、前任者は何も言わず苦笑いを浮かべていた。どういう業務について言っているのかは不明だが、既に人事発令されており、赴任まで数日の猶予しかない中で、前任者ができることは限られており、だからこそB主査にできなかったことを伝えたのではないだろうか? その程度の日数でできることなら、さほどの業務内容ではないだろうし、こなせない内容であれば、どちらにしろ後任者のB主査の本来業務であろう。面倒な業務を残されたという思いがあるのかもしれないが、こういうタイプの人間は、結局の所、仕事ができない、したくないことが多いので、気をつけなければと考えたが、まさに私の予感は的中した。

 次に、その課の代表係長だが、私とは直接的な指示連絡系統にはないものの、課全体を取り仕切る立場にあり、いろいろと世話になることもあるかと思い、雑談をしていた。その中で私が「どこかでお会いしたことがありませんでしたか?」と聞くと「俺は総務部だから」と答えた。

 私の自治体は、人事も概ね縦割りで、当該部に配置されるとほぼその部内での異動になるので、彼は総務部でない私とは接点などないと言いたかったらしいが、総務部内だけでしか仕事をしていたわけではないだろうに、他の部の職員とは会ったこともない、稀有な存在なのだろうか?

  人事課にもいたことがあり、総務部であることに相当のプライドを持ち、質問の意味も理解できない程度のレベルであることがわかり、この職員には

相当、動向を注視したほうがいいなと判断したが、まさにそのとおりのことが後日、起こった。

 その課の課長とは、私が20代前半の時に同じ課に勤務したことがあり、特に私の係長がサラ金でにっちもさっちもいかず、そのため仕事はしない、私生活の面でも役所に迷惑をかける人間だったので、他係の係長だったが、相談に乗ってもらっていたほどの人格者で、気を使ってくれる人で気心を知っていたので、そういう面では安心だった。要注意の二人を除けば、その他の人々は初対面の人が多かったが普通に話すことができ、新しい

職場での勤務が始まった。

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