虐待防止のために私たちができること
ニュースで報道される虐待事件。
小さな命が冷酷・冷淡・残虐な扱いを受けたことを聞くたびに、心を痛めている人も多いのではないでしょうか。
私は ITエンジニアとして働きながら子育てもしている母親です。子育て支援とは全く異なる業界にいながら、虐待被害を少しでも減らすために何ができるのかずっと考えていました。
そこで、約20年間、虐待防止を目的に活動されている「キャプネット・みやぎ」さんに虐待の現状や活動について話を伺い、自分に何ができるのかを考えてみました。
キャプネット・みやぎ http://capnetmiyagi.org/
虐待の現状
—— 虐待の現状をどのように見ていますか?
キャプネット・みやぎ(以下:キャ):私たちが活動を始めた約20年前と比べて何も変わっていません。むしろ悪くなっている気すらします。
—— 悪くなっている、とは?
キャ:虐待事件の悲惨さだけではなく、行政との関係性や、社会からの関心の薄さも深刻になっているように思えます。行政との係りについては児童相談所(通称:児相)の存在が大きい。
—— 児相はどういった意味で存在が大きいのでしょうか。
キャ:児相は「要保護児童」や「特定妊婦」を把握しています。虐待の深刻度をもとに優先順位を決めて対応するのです。仙台市各区と県内の市町村には、要保護児童対策地域協議会(要対協)が設置されており、キャプネットは民間団体唯一の構成員として参加しています。要対協では、要保護児童と特定妊婦について特に気になるケースについての報告を聞き、話し合います。私たちは、いつも虐待事件が起きるたびに「要対協で把握されていた子だったのだろうか」「何年もの間苦痛を強いられてきたのだろうか」と残念な気持ちになります。虐待される可能性があると分かっていながら、被害にあう子どもを直接的には救えない。とても悲しいことです。
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テレビでも報じられているように、虐待防止のためには行政との関わりが重要であることが分かりました。
児童相談所との厚い壁
「虐待事件」が起きるとすぐに問題視されるのが「児童相談所(児相)」の存在です。キャプネット・みやぎでも虐待を防止するためには児相と連携をしたいと考えていますが、簡単には取り除くことができない壁があるそうです。
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—— 児相は人手不足と言いますが、連携することは有りますか?
キャ:直接連携することはありませんが、困っている親御さんにキャプネットを紹介して下さってはいます。ただ児相は人手不足というより問題解決へのモチベーションが低いように思えます。
—— モチベーションが低い理由をどのように考えますか?
キャ:児相の職員は公務員なので、異動があります。専門性が培われる前に異動になったり、最初はやる気があっても困難なケースを1人で何十件も抱えるうちに疲弊してしまうことが考えられます。組織として何としてでも虐待を食い止める、という意思が低いように感じます。
—— 児相と対話する機会は有るのでしょうか?
キャ:ほとんどありません。
—— 歩み寄ったことは?
キャ:仙台で起こったある事件について、過去の事件の反省や知見を踏まえた改善策を市長に(児相の上位組織である子供未来局を通じて)提出したことがあります。市長からの返事がありましたが "検討します" や "努めます" など曖昧な返答のみ。具体的な施策はありませんでした。行政は自分たちの殻に閉じこもっており、これ以上叩かないで、といった態度を取っている印象です。そういった意味では、児相や行政も社会に虐待されているように思えます。
—— 児相と民間とが連携できれば良いですね。
キャ:そうですね。私たちも児相と協力したいと思っています。役割は違えど、目指すべき目標は同じはず。
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テレビでも報じられるようになった「児童相談所」の問題点。どうやら人手不足や専門性の欠如だけが原因ではないことがわかりました。
議員の 「虐待は票にならない」 という本音
児相を変えるためには、もっと上位の組織での変革が必要。そう判断したキャプネット・みやぎでは、議員との直接対話も行なっています。
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—— 議員さんに虐待防止活動について話すことはあるのでしょうか。
キャ:あります。が、ある市議会議員さんからは「虐待は票にならない」と突っぱねられてしまいました。児相が変わるためには、もっと上の組織が変わらなければなりません。ちなみに、その議員は今年度選挙の公約に「子育て応援」を打ち立てて当選しました。残念なことですが、男性議員で虐待問題に本気で取り組んでいる方は少ないです。女性議員さん達は党を問わず私たちと懇談してくださり、対策を考えて下さいます。
—— その他はどのような活動をしているのですか?
キャ:参議院の参考人としてキャプネット・みやぎより事務局長が意見を述べたことがあります。子供が健やかに育つことや、虐待防止活動が必要であることを行政に発信しています。また、キャプネットは週に一度、子供との間に問題を抱えるお母さん達の「母親グループ」という集まりを開いています。同じような立場の人達と、誰からも批判されず悩みを話すことによって、自分の気持ちが整理されていきます。悩みを抱えている方がいたら、ぜひ参加して頂きたいです。
虐待防止のために私たちが出来ること
1. 身近な人の弱音を聞いてあげる
虐待の加害者になってしまう親御さんは、一人では解決できないほど深刻な悩みを抱えていることが多い傾向にあります。そのため、虐待に至ってしまう前にその悩みを軽くしてあげる、または解決させることが必要だと思いました。
もし身近に困っていそうな人がいたら、話を聞き、寄り添ってあげましょう。また悩んでいる親が弱音を吐けるような雰囲気のコミュニティを御近所など身近なところで作ることも、虐待防止に繋がるのではないでしょうか。
2. 通報する
意外と知られていませんが、通報は国民の義務です。恥ずかしながら私も今回のインタビューで初めて知りました。
昨今、夜泣きで通報された、男親が育児しただけで通報された、など「通報」に関して過敏になっている風潮があります。ただし、通報を躊躇してしまうことで、被害に遭っている子供を見過ごすことになる可能性があります。誤報を恐れることはありませんが、常日頃から御近所などの子育て中の方と、人となりの分かる関係を築いておくことが有効なのではないでしょうか。
3. 選挙に行く
虐待防止に熱心な議員を応援することが、児相が変わるきっかけに繋がるのではないかと感じました。行政への関心を持ち、投票に行くことも虐待防止活動の一つに成り得るでしょう。
4. 虐待防止活動団体に協力する
今回のインタビューで虐待防止のためには、高い専門性と正しい知識、絶対に虐待を食い止めるんだ、といった熱意を持った組織が必要と感じました。
キャプネット・みやぎでは、電話相談や母親グループを始めとした様々な方法で虐待防止のための活動を行なっています。普段、子供とは関わらない仕事をしている人でも、虐待防止活動をしている団体に資金を寄付したり、活動内容や団体そのものについて口頭やSNSでシェアすることが、虐待防止に繋がるのではないかと思います。もちろん、講義の履修が必要ですが相談員として協力することも出来ます。
さいごに
キャプネット・みやぎでは虐待防止を目指して、電話相談や母親グループを始めとした様々な活動を行なっています。
普段の会話やSNSで、虐待事件を悲観したり非難したりするだけでは何も変わりません。虐待を社会全体の問題と捉え、私たち一人一人が自分事として「子供が健やかに育つ環境」を作るという意識を持つことが虐待防止につながると感じました。
関連リンク:キャプネット・みやぎ http://capnetmiyagi.org/
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