知識0の素人が1からノベルゲームを作ってみたレポ【追記アリ】
きっかけ
迂闊だった。今思えばこの一言に尽きる。
始まりはゼミでの活動プレゼンの時のことだった。先生たちに「なにかそれぞれ体験したいことを体験して、レポートに書こう」と言われた。
他のゼミ生達が色々と自分のやりたいことの候補を先生にプレゼンする。自分ももちろんそれを行った。自分が挙げた候補は『漢検一級に挑戦』『色彩検定に挑戦』『ウェブライターの資格勉強』などだ。その中にひとつ、完全にウケ狙いのつもりで『ノベルゲーム制作』を入れたのだ。
以前からノベルゲーム制作には興味があった。というのも、ゲーム実況をよく見ていたため、薄ぼんやりと「自分もゲーム作ってみたいなぁ」「小説書くの好きだし、ノベルゲーム作りたいなぁ」なんて考えていたのだ。だからあくまでもノリで、それこそ「あ~ハワイ行きて~w」位のノリで書いた。
そしたらなんと、先生方に食いつかれてしまったのだ。予想外の反応に「オァ」「はィ」とRPGの雑魚モンスター鳴き声のような返事を繰り返していたら自分の体験企画がノベルゲーム制作に決まっていた。誠に遺憾の意である。
下準備
ノベルゲーム制作に当たり、自分はまず必要なものをそれぞれ書き出した。
・キャラクター、世界観などの設定
・シナリオ
・キャラクターイラスト(スチル、立ち絵)
・素材集め(背景、BGMなど)
・使用ソフト選び
まず自分は世界観などの設定から詰めることにした。ジャンルは一人称視点の恋愛モノ(乙女ゲーム)、そしていくらかパンチを出すためにある要素を入れることにした。
「キャラクター全員ヤンデレ」というものである。
ヤンデレとは、『好意を寄せている相手に対し病的で過剰な愛情を見せ、時には相手やその周囲に暴力的な好意を働いてしまう』という、現実にいたらかなりハチャメチャだが二次元においてはかなり人気のある部類の属性のことだ。ツンデレ=ツンツンした態度&デレだとしたら、ヤンデレは病的な愛(病み)&デレである。
自分はヤンデレが好きだ。造詣が深いかと言われたらまったくそんなことはないのだが、それでも己でわざわざ調べてまで見るくらいには好きだ。自分のp〇xivの検索履歴やブックマークはヤンデレ関連のものでいっぱいだ。
同じくヤンデレ好きの友人に「ヤンデレしか出ないノベルゲーム作ろうと思うんだけどさ」と伝えると「やる」と返事が来た。まだ作ってもいないのに。
ということでヤンデレノベルゲームを作ることになった。
世界観は現代日本、主な舞台はとある小さなカフェ。主人公(プレイヤー)はそこで働いており、カフェの店長や同僚、常連客や友人などが攻略対象になる。
キャラクターなどの設定を詰め、次にやるのは素材集めと使用ソフト選びなのだが、ここで自分はなぜかシナリオを書き始めた。
今思えば早すぎる。普通は必要なモノをある程度揃えてから書き出すはずだというのに、なぜかこのバカ(己)は最初にシナリオを書き始めた。目も当てられない。
シナリオ制作編
最初にプロット制作に取り組んだ。キャラ紹介も含めた全員が登場する共通ルート、そして各キャラクターを深掘りするために各個人ルートを作ることにした。そして選択肢によって攻略キャラが決まる方式をとった。好感度云々の方法でも良かったのだが、面倒くさそうだったからやめた。
個人ルートではそれぞれハッピーエンドとバッドエンドを作ることにした。つまりキャラクター4人×エンド2つ=計8つストーリーを作らねばならない。
「やめよう」
8つという数に心が折れた。念のために弁明しておくと、当時自分は就活生で、なおかつゼミとは関係なく個人で作品制作を行っていた。ゼミでも他に仕事がある。とても8つ分のシナリオやスチルを作れる気がしなかった。
というわけで、デモ版という形でメインヒーロー・篠塚有臣のシナリオのみを制作することにした。我ながら小賢しいと思う。
腐ってもノベル科である。シナリオ制作に関しては特に行き詰まることもなく、なんなら普通に小説を書くのとは違って難しい表現や婉曲的な言い回しをする必要がないため、存外サクサク進んだ。強いて言えばヤンデレは好きだが大して造詣が深いわけではないのでその加減が大変だった。
シナリオは大きく4つに分けて制作した。『共通シナリオ』『個別共通シナリオ』『ハッピーエンドルート』『バッドエンドルート』だ。
まずは『共通シナリオ』に関してだが、これはデモ版といえどのちのち完全版を出す予定の作品である。どういったキャラが出てくるかをプレイヤーに知ってもらうために、全員が出てくるシナリオを用意した。完成版のために楽をしたかったのもある。
次に『個別共通シナリオ』。これは共通シナリオの最後にどのキャラクターを攻略するか分岐が入るのだが、分岐で入ったキャラクターとの関係性を深掘りするためのシナリオだ。
そして『ハッピーエンドルート』と『バッドエンドルート』。これはもうそのままの意味である。キャラクターからの想いを受け入れるか受け入れないかでエンディング分岐となる。ちなみに個人的な趣味でバッドエンドルートの方がキャラの深掘りを行えるようにした。
イラスト制作編
イラストは立ち絵とスチルを用意した。ざっくり言ってしまえばそのふたつだけなのですぐ終わると思われるだろうが、まず立ち絵にも差分が必要になる。表情だけで1人7つでそれを4人分。キャラクターによっては衣装差分もあるため大体30通りの立ち絵を描いた。過程の詳細は(辛くて覚えていないので)省くが世の中のイラストレーターはなんて偉大なのだろうと痛感した。
そうしてスチルなのだが、シナリオ制作を行った自分と実際に絵を描く自分が違うことを失念していたため、なんかやたらとスチルの数が増えたのである。ふざけやがって。
しかも自分は趣味程度でしか絵を描かないため素人の域を超えない。そのため悲しいことに構図やらシチュエーションが似たものになってしまった。結果としてスチルは9つ描く羽目になった。
ちなみに、イラスト制作に関してはアイビスペイントXというアプリを使用した。
だが、スチルを描いていて新しい発見があった。もしかしたらスマホは絵を描くための媒体じゃないのかもしれない。スマホ指描き6年目にして初めて気付いた。
流し込み編
そうしてスチルまで終え、とうとう本格的にゲーム制作を開始した。今回使用した制作ツールは『ティラノビルダー』という初心者向けのものだ。
だが、初っ端から大きな壁にぶつかった。なにせ今までプログラミングなんてものに触れてきたことがなかったため、専門用語がなにひとつわからなかったのだ。変数代入? スクリプト? 生まれながらの文系には意味不明な単語だらけだ。
幸いなことにティラノビルダー公式がホームページやNoteで使い方の説明を載せてくれているため、それらを見たり、欲しい情報が載っていなかった場合は有識者が厚意で載せてくれている情報サイトを巡ってどうにかそれらしくすることはできた。
ちなみに背景や効果音などはそれぞれフリー素材を配布してくれているサイトからお借りした。
背景:みんちりえ 様 (【フリー素材】 みんちりえ 【背景イラスト配布サイト】 (material.jp))
効果音:効果音ラボ 様 (効果音ラボ - フリー、商用無料、報告不用の効果音素材をダウンロード (soundeffect-lab.info))
ちなみにこういった素材を集める際も自分は行き当たりばったりで行ったため、「この素材が欲しいな」と思ってから調べてお借りするという野蛮極まりなく計画性もへったくれもない方法で素材を集めていた。
シナリオからシナリオへのジャンプができねえ、入力したコードが違くて主人公の名前が正しく表示されない、などの壁を乗り越え、どうにか形にすることができた。
そして、自分はあることから目を背けていた。BGM選びである。
もちろんBGMも背景や効果音と同じくフリー素材サイトがある。だがぴったりハマるものがなかったり、著作権表記の方法がわからなくて厄介だったり(これに関しては自分の知能が低いせいだ)と、もういっそBGMなしでいこうかと思っていた。
だがなんと、思わぬところから手が差しのばされたのだ。BGM選びが出来ないと嘆いていると、それを聞いていた兄が「俺が作ろうか」と申し出てくれたのだ。
実は兄は音楽活動を行っている。その一環でBGMも作っており、ゲームのBGMを作ってくれると言うのだ。これは好機である。「お願いします」と一も二もなく返事をし、どういうシーンのどういったBGMが欲しいかを伝えた。
自分「まずは日常風景のが欲しいな。舞台はカフェだからゆったりしたやつが2パターン欲しい」
兄「わかった」
自分「あとは恋に落ちる瞬間のやつが欲しい。○○(アーティスト)のアレとコレの中間みたいな」
兄「おっけー」
自分「あ、あと監禁シーンがあるから」
兄「は?」
自分「それに合ったおどろおどろしいやつもひとつお願いします」
兄「は?」
合計5曲をお願いし、翌々日には全てが送られてきた。仕事が早くて助かる。血が繋がっているとは到底思えない。
こうしてBGMもでき、いざテストプレイを行うことにした。
テストプレイ編
テストプレイには、制作当初から色々と協力してくれた友人Mにお願いした。Mもヤンデレが好きなため、頼んだら快諾してくれた。早い段階でお願いしたせいでどれだけ制作を頑張っても「ネタバレするな」と途中経過を見てもらうことが一切叶わなかったが。
そうしてMを自宅に誘き寄せ呼び出し、テストプレイをお願いした。待っている間、自分の作品が目の前でプレイされていることが気恥ずかしくてMの背後をうろちょろしていたら「うるせえ」と何度か怒られた。
M「全部やったよ! 面白かった!」
自分「やったー!」
M「強いて言えば立ち絵が小さいからもう少し大きく表示してもいいかもって思ったかな」
自分「それは思った。改善しとくわ」
M「あ、あとさ」
M「なんでタイトル画面がないの?」
自分「……」
M「もしかしてできてない?」
自分「………………」
M「できてないんだな?」
自分「……………………………………」
そう、大事なことをすっかり忘れていた。タイトル画面のイラストがゲーム作成チュートリアル用の画像のままなのだ。
端的に言えば、タイトル画面のイラストだけが出来ていないのである。このレポートを描いている今この瞬間も、タイトル画面のイラストは制作真っ最中である。大変申し訳ありません。
タイトル画面が完成し次第、ゲームの調整や最終チェックを行い、リンクを貼ります、ご了承ください。本当にごめんなさい。
ゲーム完成!!!(追記:3月4日)
ようやくゲームが完成いたしました(タイトル画面もしっかり入れました)。
まともに日の目を浴びせることができるとワクワクしながら、ゼミの後輩であるゲーム科のふたりにプレイしていただきました。
~プレイ中ダイジェスト~
Tくん「名前入力のところ、お前(Iくん)の名前でやろうぜ」
自分「念のため言っておくけど主人公(プレイヤー)は女性固定だよ」
Iくん「お前絶対俺の名前入れるなよ」
Tくん「じゃあ……『い〇みピ〇子』でいきます」
自分「恋愛ゲームっつったろ」
黙々とプレイしてくれるふたりを見ながら、緊張で溢れる手汗を拭い続けていました。
Iくん「告白を受け入れるか受け入れないかのところまできました」
自分「お、エンド分岐だね」
Iくん「じゃあ、せっかくなんで受け入れないを選びます」
Tくん「同意。俺も受け入れない選びたい」
Iくん「やっぱね、現実はそう甘くないってのをこの男に教えてやらないといけないから」
自分「何の義務感なのか知らんけども」
彼は恋愛ゲームの攻略キャラになにか恨みでもあるのでしょうか。
そしてバッドエンドルートに入ってしまった後輩たち。まんまと罠にかかってくれた喜びでマスクから口角が飛び出しそうでした。
Iくん「…………」
Tくん「………………」
Iくん「……………………」
無事に終えたようです。
彼らの顔からはウッキウキで告白を断る選択肢を選んだときの笑顔はとうに失せていました。Iくんに関しては無言で机に突っ伏してしばらく動かず、自分は憔悴しきっている彼らの姿に南国にいる怪鳥のような声を発しながら笑いました。最高の気分です。
感想を訊ねてみると「これひとりで作ったのすごいですね」としか言わず、内容に一切触れようとしませんでした。触れてくれよ。
ということで、3月4日、とうとうゲームの配信をスタートさせることが出来ました!
配信リンク → 君は僕らの聖母さま(デモ版) - ぐふとくく - BOOTH
無料で遊べます! ぜひ遊んでみてください!
(※大変申し訳ありませんがWindows版のみの配信となります。あらかじめご了承ください)
ゲーム作りを終えて(あとがき)
長いようで短かったゲーム作りを終え、最初に思ったのは「もう作りたくねえな」でした。
元はといえば自分の軽率さや無計画さが招いた悲劇ばかりですが、自分は本当にタスク管理がまともにできない愚か者だという悲しい現実だけが露呈したような気がします。
とはいえ、イラストの作成に苦しんだりプログラミングのプの字もない簡単な作業に心をバキボキに折られそうになりつつも、この経験は自分にとって大きな成長に繋がったと思っています。
小説でも、今まで短編しか書くことが出来なかった自分が初めて10万文字の長編を書き切った際、この上ない達成感がありました。自分はひとつの世界を作り上げたのだと、心が奮え、走り出したくなるほど嬉しかったことを覚えています。
それはこのゲームを作る上でも同じで、創作以外に関して全くの素人だった自分が試行錯誤を繰り返しながら、どうにかゲームを作ることができました。その中でも、「自分はどんな形であれ、物語を作ることが好きなのだ」と、自分でも気付かなかったことに気付くことも出来ました。
これはゼミの先生方はもちろん、ゼミ生、兄や友人たちの応援や協力があったこそだと思っています。
ですが、この作品はまだ完成しきったというわけではありません。あくまでもデモ版であり、これからもっと大きく広げていくことが出来ると思うと、とても楽しみです。
最後になりますが、ここまでありがとうございました。
Text:3年 中村 倫
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