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WEBクリエイター夫婦は、消滅可能性都市で野菜を売ることにした。

「手に入れられるチャンスは今しかないねん。」
「どうするかはあとから考えるとして。」

すべての元凶であり、今へとつながる最大要因は、毎回夫のこの「とりあえず手に入れてから考える」言動のせいだ。

そして同時に「その話にとりあえず乗っかってみる」という私の言動のせいでもある。

どうみても負け戦

20年近く、夫婦でホームページ屋さん。それしかできないし、それしか輝ける道がないと信じ続けた不器用な夫婦。

現在、私たちは消滅可能性都市と認定された「大阪・豊能町」で、地元産の野菜を地元の町民に売っている。近頃は、大阪府の中で4つしか認定されていない「過疎地域」としても認定されたらしい。

「砂漠で水を売れ」はマーケティング界で有名な勝ちパターンだという。「地元で採れた野菜を地元民に売る(しかも人口少ない土地で)」だと?これを機に自分で整理してみたが、やはり負けパターンに思えて仕方ない。

  • 売るもの…地元で採れた野菜

  • ターゲット…地元民(人口少ない)

  • 立地…人口少ないので人通りも少ない

誰も選ばないルートだと思う。

じゃあ、なんで野菜売ってるの?

ホームページ屋さんがなんで野菜を売ってんの?ってよく聞かれるのだが、経緯だけをお話しすると「なりゆき」でしかない。

野菜に囲まれ、せっせとコードを書く

野菜のことを何もわかってない我々が、なりゆきで野菜市をスタート。地元の方々からは、WEBクリエイター、ホームページ屋さんだとはほとんど認知されておらず、当たり前だが八百屋だと思われている。そういえば、こないだも自社のインターン生に「ずっと八百屋だと思ってました。」と告白された。悪いことをした気分になったが、結局そのまま働いてもらっている。

なりゆきまかせの経過報告

そんななりゆきな3年間を今回記事にしてみたい。

自分達にはこれしかない、と信じ続けているWEB制作業ではあるが、ここ数年で、ガラリと環境が変わった。

そのきっかけは私の地元である、豊能町への移住。
ちなみに、私の実家をはじめて訪れた時の夫の第一声は「見てみ!あんなとこにも人住んどるで!」だ。それ私の実家や。

豊能町で法人化

20年間のフリーランス期間を経て念願の法人化。それと同時に今までのやり方を見つめ直し、これからの発展を考えてみた。

これまでは睡眠と余暇を犠牲に、夫婦で2つの歯車を必死に回してきた私たち。しかも当時アラフォーで出産&育児。このやり方では後がない、軌道修正は必至だった。

私たちだけで2つの歯車を回すのではなく、これからはもっとたくさんの歯車が必要なんじゃない?小さなことからお願いできる仲間がいるんじゃない?という仮説を立てた。

この人と働いてみたい。何してもらうかは、後で考えよっか。

社員採用でも夫の「とりあえず手に入れてから考える」の発展バージョン、「入社してもらってから考える」が発動した。

ひとりめの仲間探し

声をかけまず入ってくれたのは、近所に住むWEB未経験のママ、Yちゃん。
これから何しようかまだ全然考えてなくって……の段階にも関わらず「やります!」と言ってくれた。

椅子がまだ届いてないので、意地で仕事する。
社長も膝。

その人ができることを新たな職種にしちゃお

だがほどなく、WEB未経験のスタッフに、WEBを手伝ってもらうのはやっぱり無理があるわな……と結論。じゃあ、その人ができることを会社の新しい職種にして広げちゃお!という思考へ自然と落ち着いていった。

Yちゃんの得意なことや今までのことを聞いてみたら、文化祭の実行委員会を数年にわたってやってたとか、大学で新しいサークルを作った経験があったとか、みんなの話を聞くのが好き、ということがわかってきた。
Yちゃんには、地元ママに喜ばれるようなイベントの企画・運営を数々手がけてもらい、今では地域コミュニティづくりにも挑戦してもらっている。

ママもゆっくりしてってね、クリスマスイベントの様子。町の子どもたちがぎゅうぎゅう詰め。
業務用の20kg重曹を使って人工雪で遊ばせた。もうあんまやりたない。
「パパにも図書館利用してほしい」というオーダーで、町の図書館とのコラボイベント

ふたりめの仲間

Yちゃんが企画した地元ママ向けイベントを毎回率先して楽しんでくれるママがいた。Sちゃんである。

スマホを使いこなし、写真や動画がうまい。「こないだ撮ってくれたバーベキュー会の動画、すごくよかった!今度撮影の仕事があるんだけど、撮影スタッフとして入ってくれない?」と声をかけ、そこからスタッフに。

ほんわかとした癒し系の印象にも関わらず、鬼のように手先が器用なSちゃん。店頭POPや黒板アートを書くのもめちゃくちゃうまい。
私たちが思いつきで考えた、ぼんやりとしたオリジナル商品でさえも、ぱぱっとモックを制作し目の前に具現化してくれる心強い味方である。癒し系3Dプリンターと言ってもいい。

思いつき①「オーガニックぽい感じのオリジナル風呂敷が作りたいなぁ。」
コーヒー染めしているところ。
思いつき②「米袋バッグって見よう見まねで作れそうじゃない?」
思いつき③「今度たまご売るんだけど、パッケージは安価に抑えつつ、そそるやつにしたいな」

私たちが、ありがたくも恵まれているのは、入りたい!と言ってくれたスタッフはみな、自分の価値観で面白がってくれること、チャレンジしてくれること。

今まで夫婦2人でやってきた私たちとしては、一緒に悩んでくれる、考えてくれる仲間がいるっていうのが、めちゃくちゃ新鮮でなにより心強い。

ヤッター!夢の事務所。
あれ?なんか1階がもったいなくない?

法人化からほどなくして、念願の事務所を借りるべく物件探し。
第一候補のそこは、町のかつてのランドマーク的な建物、もと高級和菓子屋さんの跡地だった。

バブル期に建てられた高級和菓子屋跡。
店の横には人工の小川や、庭石で作られた手水鉢が2つもある。

本業のWEB業務は1部屋もあれば足りるけれど、夫、物件にそそられて契約。借りたはいいけれど、和菓子屋さんならではの全面ガラス張りの1階がもったいない、何か売るもんないかねぇってみんなでずっと考える日々。

野菜ならすぐに販売できるのでは、という無知

「『野菜が売るところがなくて困ってる』って聞いた」
風の噂レベルの話を引っ提げて、知り合ったベテランの農家さんに無知をさらけ出して頼み込むことにした。たしなめられたり、教えていただいたりしながら、最終的には野菜を卸してもらえることに。

ここでは紆余曲折を割愛しましたが、農家さんは種も苗も畝も、年間計画で管理されてるので、急に「卸して欲しい」と切り出すのは結構無茶なお願いです。

最初はおそるおそる玄関先だけ、2週間に一度しか開かない無人販売スタイルでスタート。しかも売ってるのは、春菊、ほうれん草、こんにゃくだけ。 この写真、トリミングしてるわけではなくてほんとにこれだけだった。

今見ると、売る気あるのかという規模

なぜか勝負に出る夫。このタイミングで?

私たちの店舗は、駅から離れた住宅ばかりが並ぶエリア。高齢化・人口減少と言われてる場所だから、もちろんだーれも歩いていない。やる前から分かり切ったことだったのだが……。

そんな状態なのに、夫が勝負に出た。
隔週だったのを毎週火曜、よる8時まで。仕入れも3倍、5倍と増やすという。
そしたら山盛りのピーマン、なす、見たことないようなたくさんのレタスがずらーーーーっ!と売り場を埋め尽くした。

農家さんのご協力のおかげで、デパ地下レベルのめちゃくちゃ上質な野菜が
サクッと畑から直送される

大充実の野菜市になったはいいけど、この量をどうやって売るの!?とざわめくスタッフ一同。私たちは野菜の初心者だった。

やっぱり誰も通らない日が無情にも続く。

情報の暴力となりつつある店舗のようす

苦労すればするほど、おじさんが美肌になる現象

言ってしまえば、この頃のわたしたちは「なけなしの資産を野菜に変えて、だれも通らない店の前に、新鮮な野菜たちを1日並べて鮮度を落とした後、冷蔵庫に詰める作業」を毎週繰り返していた。

夫は、最後の閉店作業で売れ残りを直視するため、この頃のストレスは相当だったはず。

そんな日が続くと胃に穴が開きそうなものだが、売れ残った野菜をもったいないと毎食必死に食べまくるため、やたら肌ツヤが良くなって以前より健康になってしまった。お肌ツヤツヤなので、全然苦労してそうに見えない。体も軽い。

肌ツヤ良すぎて「あの人絶対ドーラン塗ってるよね!」と噂が立った

ちなみに、我が家は野菜が売れて繁盛すると、売れ残り野菜がないから適当な食生活になってしまい、肌が荒れたり口内炎ができたりする。

この後、事務所移転、せっかくできた何人かの常連さんとの別れなどを経て3年目。「ここの野菜でなくては」と考えてくれるお客さんに買い支えられ、継続できるだけの体力はなんとか付いてるようだ。

野菜市の名前は「とよのていねい野菜市」と言います
Instagram  @toyono_teinei_yasai

WEBクリエイターが野菜市を兼業するメリット

野菜市を兼業するメリットは案外たくさんあった。こんなホームページ、チラシ、ロゴつくりたいんだけど、と野菜市に気軽に来てくれる。

  • アポなしで気軽に来れる

  • 野菜を買うという目的がある

これって、身構える必要がない分、お互い気楽ということがわかってきた。
「あ、なんかちがうな」と思ったら野菜客のふりしてスッと帰ることもできちゃう。

決して「いい感じ」ではない

現在、野菜市は営業日も火曜と土曜の週2回に強化したが、ほとんど利益は出ていない。

今の店舗の様子

だが、たった週2回の野菜市が、生産者さんにも、お客さんにも、確実に喜んでもらっている。そのことは、店に立つ度に毎回肌で感じている部分だ。町内で小さな循環を生み出す事業として、今では野菜市に使命さえ感じている。

野菜市は利益を追求してはいけない、野菜市は利益追求じゃなくて《縁を繋ぎ続ける場所》なんだから、と自分に言い聞かせ、気を落ち着かせている。

夫による「すべて計算通り…!」な野菜市秘話サイドBはこちらをご覧ください。
「地元の野菜を地元で売る愚行、やってみた」https://note.com/masamunet/n/nb5eb54820fac

野菜市は、縁を繋ぎ続ける場所

「縁」などという大袈裟な言葉を使ってしまったが、たしかに来店1回単位では、ふたこと・みことを交わすだけの関係。でも毎週毎週「こんにちはー!」と顔を合わせて会話と笑顔をかわすお客さんたちがいる。

これって、たとえば大学時代つるんでた友人たちよりも、見方によればよっぽど距離が近いよなと。
もし何か困ったことがあったらぜひ駆け込んできなよ!と関わってくれた方に対して、そう思ってしまう。

それくらい愛おしく思う人間が、自分が暮らす町にたくさんできた。このことを豊能町へ越してくる前の過去の私たちに話したら驚くだろうな。いやがるかもな。


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