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【万年筆】WANCHER「誠エボナイト」のレビュー

このたび、WANCHER(ワンチャー)の万年筆「誠エボナイト」を入手したのでレビューしたい。

ワンチャーってなに?

まず、「ワンチャーってなんだよ」と思っている方もいると思うので説明。

ワンチャーは大分県に本社を置く、筆記具・腕時計の製造および卸業を営む会社である。名前の響きや漢字で「萬佳」と書くことから、中国の会社か?と思われるかもしれないが、実は日本の会社なのだ。
しかも、大分でも割と外れたところに本社がある。地方ベンチャーといっても差し支えない。ぜひ応援してあげよう。

ワンチャー万年筆の特徴は、伝統工芸にスポットをあてているところ。各地の職人と手を組み、その伝統を保護・継承しながら万年筆に落とし込んでいく形をとっているようだ。

サイトを見てもらうと分かるが、今では珍しいエボナイト軸や木軸の展開が多い他、螺鈿(らでん。貝殻)や伝統的な漆塗りを施しているものもある。これらは職人がひとつひとつ手間暇かけて作っているため、それぞれ模様や太さも微妙に異なる。高級感と芸術性を備え、ひとつとして同じものがないプレミアな軸がワンチャーの強みだ。

じゃあお高いんでしょ、と思われるだろう。
そりゃ高いのは高いが、「これだけ技巧を凝らしてるのに、このお値段!?」と逆に驚くくらいには安い。

その秘密は、ペン先にあると思っている。
ペン先はデフォルトだとスチールだ。Jowoというドイツの会社のものを使っている。つまり、ペン先に金(きん)を使っていないから軸に全振りできるのだろう。

ただ、Jowo社のニブもかなり良い。あたりは硬いのだが、書き味は驚くほど滑らか。これなら別に14金でなくてもいいと思える。
スチールじゃ嫌だぜ!という方には、18金などのラインナップがあるほか、「渓流」という特殊ニブもある。ぜひ色々試してほしい。

私は大分出身なので、ワンチャーのことはだいぶ推しているし、すでに「カレイド」をお迎えしている。

現代の万年筆にない独創性と所有欲を満たしてくれる。最高の一本だ。

動機

長くなったが、私が誠エボナイトを買った理由を述べたい。

これはもう単純に、エボナイト軸に興味があったからである。
かつて多く使われたエボナイトだが、現代の生産ラインにおいてはほぼ使われなくなった。プラスチックの方が使い勝手が良いからだろう。ただこれは企業としての合理性においてのことであり、エボナイトがプラスチックに完全に負けているわけではない。ペン芯はエボナイトの方がインクの乗りが良いと聞く。

私もペン芯がエボナイトのものは持っているが、軸までは持っていない。
しかし、話を聞くに「しっとりしている」「吸い付くような感触」「保存性に優れる」というではないか!これはぜひ試したい。

で、タイミングよく誠エボナイトがお安く出ていたため迷わず購入。元が2万円なのだが、その半額くらいだったと思う。ラッキー。

見た目

それでは、レビューに移りたい。

まずは見た目から触れていこう。

開封してみて思ったのが、デカい。
比較してみたら…なんと、マイスターシュテュック149と同じくらいの太さだった!高さに至っては超えている。
149といえば、超高級で太めのラインである。太けりゃいいってものでもないが、エボナイト軸でこれだけ迫力あるのは贅沢だなぁ、と思ったりした。逆にいえば太いのが合わない人には向いていない。ワンチャー製ならば、世界樹か禅を買った方が幸せになれるかもしれない…。

重量は見た目以上に軽い。これがエボナイトの質量ってやつ…?意外にも取り回しの良さを感じる。

感触

そして気になる感触。
誠エボナイトはシガータイプと呼ばれる、丸みを帯びたデザインだ。オプションをつけなければクリップさえもないため、まんまるツルツルのエボナイト100%軸となる。机を転がり落ちるリスクはあるが、余計な金属部に触れることはない。素材の味をフルで感じられる作りだ。

で、エボナイトってなんぞや。
エボナイトは生ゴムに多量の硫黄を加えたもの。要は、めちゃくちゃ硬いゴムである。以下のリンクに詳しい。

素材からして、プラスチックと一線を画しているといえよう。
エボナイトは強度に優れており、100年経っても磨けば健在のものがあるという。メンテナンスを怠らなければ、ジジイになっても使えるかもしれない。

そして、感触なのだが…これもまた、プラスチックとは異なる。
質感や見た目は滑らかで、プラスチックと似ている。しかし、触ってみると全然違う。エボナイトは素材の「あっし、実はゴムでござい」という主張があって、独特のコシがある。スベスベのプラスチックと異なり、持つ手にしっかりフィットしてくれるのだ。もちろん、プラ並にめちゃくちゃ硬いので凹むとか指がめり込むとかではないのだが、この「ゴムでござい」の主張が握った時に心地よい。

また、どなたが書いていたのだが触った時にひんやりしない。これがまた、温もりとか優しさにつながってきて、ちょっとだけキュンとくる。ゴムと硫黄でこんなに優しさを生み出せるのが不思議だ。

書き味

誠エボナイトの書き味というか、Jowoニブの書き味になるのだが…一応レビューしておこう。
私は中字を装着している。「装着」というのは、Jowoニブは取り外しができるからだ。気が変わったり、破損したりすれば取り換えればよい。軸の耐久性は折り紙つきなので、軸やペン先を自分で修理できるのはありがたい。

対応しているのはJowo#6だ。これがまたデカい。比較してみたところ、ペリカンのスーべレーンM800相当のサイズだった。こうして見ると本当にマイスターシュテュックにも劣らぬ存在感だ。

さっきも書いた通り、鉄ペンかつ量産型っぽいのに書き味が良い。あたりは硬いが滑らかな筆記ができる。

私は中字ニブにパーカーのクインク(ブルーブラック)を飲ませているが、少しふわふわした感触が楽しめ、意外と悪くない感覚で書ける。普通に実用ラインだ、これ……

誠エボナイトの重心は中心寄り。キャップポストできなくもないが、本当に先端しか入らないため、落とすのが怖くて基本的にはしていない。
また、軸がデカいので、中字以上が取り回しが良いと思う。私の個体を見るに国産の字幅とそう違いはないので、舶来ニブだからといって細字を選ぶ必要はない。もし間違っていたら最悪ニブを買い直せば大丈夫。ワンチャーのショップでも売っている。

終わりに

駆け足となったが、誠エボナイトのフィット感、デカい軸がもたらす安定感は快適な筆記体験を与えてくれる。
Jowoニブもスチールながら滑らかで、文句のつけようがない。

量産型の万年筆に飽きている方、贈答用の万年筆を考えている方、エボナイト軸を愛用してみたい方は、ぜひこれを選んでみてはいかがだろうか。


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