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【短編】 月面着陸

中学最後の夏休み、僕たちの小さな田舎町に月面探査にまつわる展示会がやって来た。。
町の図書館に展示された月面探査機の模型や資料に心を奪われた僕、直人と幼馴染の彩香は、2074年のこの夏を特別なものにしようと決意した。

「直人、私たちも月に行こうよ!」彩香が瞳を輝かせて言った。

「僕ら子供だけで月に行くなんて無理だよ。でも、せめて模型とVRで探検しよう。」僕は笑いながら答えた。

彩香は考えることを止めなかった。彼女は町の図書館で熱心に月の地形や探査機の仕組みについて調べた。やがて、僕たちは自分たちで月面探査機を作ることを思いついた。

「直人、これ見て!」彩香が図書館で見つけた2038年発行の古い雑誌を見せてくれた。そこには、簡易な月面探査機の作り方が載っていた。

「これなら僕たちにも作れそうだね。」僕たちはワクワクしながら材料を集め始めた。

夏の終わりが近づく中、僕たちはようやく探査機を完成させた。
それはFRPとチタンで作られた小さな模型だったけれど、僕たちにとっては立派な探査機だった。庭の芝生を月の表面に見立て、探査機を動かしてみると、まるで本当に月を探検しているような気分になった。

「やったね、直人!私たちも月に着陸したんだ!」彩香は歓声を上げた。

その夜、僕たちは庭に寝転び、星空を見上げながら将来のことを語り合った。僕はずっとこの町で暮らしていくのだと思っていたけれど、彩香はもっと大きな夢を持っていた。

「私は宇宙飛行士になるんだ。いつか本当に月に行くよ。」彩香の瞳は星のように輝いていた。

「彩香ならきっとできるよ。」僕は心からそう思った。

夏が終わり、僕たちは中学最後の学期に戻った。
勉強や部活に忙しい日々が続く中で、僕たちの探査機は忘れ去られていったかのように思えた。しかし、心のどこかで僕たちの冒険心は消えることなく燃え続けていた。

卒業式の日、彩香は僕に手紙をくれた。

「直人、私たちの夏の冒険は忘れないよ。これからも一緒に夢を追いかけようね。」手紙にはそう書かれていた。

それから数年後、僕は大学で宇宙工学を学び始めた。彩香は本当に宇宙飛行士を目指して猛勉強を続けていた。
僕たちはそれぞれの道を歩んでいたけれど、あの夏の日の思い出は常に僕たちの背中を押してくれた。

そして、ついにその日が来た。彩香が宇宙飛行士として選ばれ、月面探査のミッションに参加することが決まったのだ。僕はそのニュースを聞いて、胸が熱くなった。
僕が設計した探査機で、彩香が月へ行くんだ。

「直人、私、月に行くよ。」彩香の声は電話越しに興奮に満ちていた。

「すごいよ、彩香。本当に月に行くんだね。」僕は涙をこらえながら答えた。

月面着陸の日、僕はモニターの前で彼女の姿を見守っていた。彩香が月の地表に一歩を踏み出した瞬間、あの夏の記憶が鮮やかによみがえった。

僕たちの小さな田舎町から始まった夢は、ついに現実となったのだ。
これからも僕たちはそれぞれの道を歩んでいくけれど、あの夏の日の思い出は永遠に僕たちをつなぐ絆として輝き続けるだろう。


しかし、動画の再生回数が予想よりだいぶ少ない。
時は2089年。今や、ある程度の財力やノウハウがあれば個人でも月へ行く事は出来る時代だ。
みんな勝手に「宇宙飛行士」を名乗り、勝手に飛び立っていく。

月面自体も、もう探索され尽くしている。NASAだって、もう月への興味を失っているという噂もある。

僕と彩香は計画の変更を余儀なくされた。
「やっぱり、月面に降りるだけっていうのはインパクトが弱かったな。全然再生回数が伸びないしな。地底探検の方がバズったかもな。宇宙より地底の方が、まだ分かっていない事が多い、なんていう話もあるぐらいだ」


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