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深淵なる翻訳者の世界

自動翻訳、がこんなに進歩しているのは正直驚きだ。そして個人の仕事・勉強の範囲でなら結構時短に役立つ。

けれど、やっぱり・・・というものがある。なんだろう、言葉にしづらいがアナログな優しさというかココロ配りというか。

み・カミーノさんはプロの(それもかなり専門特化した)翻訳者だ。
その方の文章に「え、時代って今そんな風になってるの?」と驚くとともに、深く色んな事に頷いた。

私のオットは専門分野で自分で書く本も出しているが、訳本・翻訳監修本というのも出している。そして・・・「訳本」「監修本」の仕事を抱えているときは大抵、年中頭を抱えている。

正直、英語の教科書や専門書をそこまで読み込んだことがない私は愚痴を聞くだけで何も出来ないし多分オットの言うことの半分も理解していない。ただ、確かに出来上がった原稿を読めば分かる。

オットが自分で書いたものは専門分野のものでもすらすら頭に入る。決して身内の欲目ではなく、こんなに当たり前なことだったのかと理解出来た、という評価も受けている。
一方、翻訳本は日本語としてするする読めるけれどオットの本の独特な読みやすさとは違う。自身が「良い本だ」と認めているからその熱は充分伝わっているが、オットの本でありながら彼自身は3歩下がって著者の姿と声がきこえそうな気がするのだ。
そして監修本。もうオットの文章の雰囲気は感じられないが全体としてまとまっている。読んでいて違和感がない。

ただ、それらが本になる前をみているので、「行間を付け加える」「章と章(違う翻訳者同士)の言葉や流れを揃える」などの作業がどれほど膨大かはよくわかる。時に手入れのために翻訳した方を怒らせてしまうこともあるらしいが、この地面を均(なら)す、ではないが「字面を均す」作業がどれくらい深いかは 実際にやるか間近でみないとわからないことかもしれない。

翻訳として間違ってはいない。けれど大意がビミョウにずれている。
構文解釈はOKかもしれないが、日本語としてオカシイ。
意味を汲もうとして落ちてしまっているところがある。

人間でもこうなのだ、AIが進んで自動翻訳ができてもまだまだ、一冊の本そのものがもつ「筆者の思い」みたいなものまでをちゃんと翻訳するにはアナログな感性が必要なのかもしれない。

「脳が活動するチャンスを、機械翻訳が奪ってしまう。」

これも み・カミーノさんが書かれていた。その例えとして知らない街を歩くとき機械の地図機能をつかうか使わないか、が示されていて とても頷いた。

私は旅先で街歩きをするのが好きだ。で、必ず街の地図を手に入れて読み込んでから出かける。目印となりそうな建物が目前にみえると、頭のなかの文字だけの地図が立体地図になる。

そうやってあるいた街のことは、不思議と覚えていることが多い。

ケータイにはいった地図機能は、歩くべき方向まで最近では示してくれるが、頭の中に地図が浮かばない。そういう街歩きをすると、記憶に残るのは本当にごく一部になる。


再びオットの話だが、普段から車を運転するときgoogle mapを多用するからか、この10年以上住んでいる町の道路をあまり知らない。運転免許をもって2年くらいの娘に「次の高速出口ででたら○○に近いよ」なんていわれて「なんで知ってるんだ」とかいう。もちろん、街を移動する必要の無い生活だからとも言うけど、使う必要の無いメモリ領域はどうあっても使われないのだなぁと変なところで感心してしまう。

翻訳だってそうなんだと思う。だから、カミーノさんの言葉が、色んな意味でとてもよくわかった。

AIの進化は素晴らしいし夢がある。30年前翻訳機能のついた小型の電子辞書に音声が付いただけで話題になったのに、今では画面をかざすと自分の知っている言語・・・英語や日本語にそのままカメラの画像のなかで翻訳される時代だ。

それでも本や論文などという、著者の思いや深い知識が 文字通り行間に埋め込まれたものは、なかなかAIの追いつくところではないのかもしれない。AIがだめだ、というのではない。私達の「思考の仕組み」「思考のウェブの辿りつく先」までをプログラム言語化できなければAIに行間が読める日は当分こないのではないだろうか。

もちろん学習能力をつける、という手はある。というか、そのうちそうなっていくんだろう。そのとき、「翻訳者」の仕事の半分は助手AIを育てること、とかになるのかな。

・・・・でも、「そのひと」の思考癖を学ぶことができても、連想、ということを学ぶ事はできるんだろうか。

・・・うん、いつかはね。


そのいつか、まで、やっぱり私達の社会に翻訳者は絶対必要なんだと思うし、なんだったらそのいつか、が出たときには「翻訳者に追いつけないAI」とかいう本がばんばんでているかもしれない。



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