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「冬のモンスター」退治

かなり寒い晴れた夕方、自宅のバックヤードで私は懸命に熊手レイクを使っていた。
携帯電話の天気予報に「ウインターストーム注意報」が出たからだ。まずいまずい、雪が積もる前に落ち葉をできるだけなんとかしなくては。昼過ぎまでパジャマでだらだらといつもの家事や読書をしていた私は慌てて身支度をして一人庭に出たのだ。

数週間前に罹った流行病はシャレにならないくらい私の肺を攻撃していて、つい4-5日前まで家事はできても熊手を使っての庭仕事のように多少動きが強いものは息切れがひどくてできなかったのだ。それでも雪が積もったり溶けたりが続く冬に落ち葉が芝の上に放置されていると芝がいたむ。だから庭仕事をできない言い訳に胡座をかきながらもずっと気になっていた。

手をつけていなかった落ち葉は今やモンスターと化している。乾いているのがせめてもの救いだが、それは同時に「容量ばかり取って片付けても減った気にならない」という、MP(この場合ココロ的なダメージともいう)ばかり消費しそうな感じ。戦っても戦っても相手方のダメージがみえない(減らない)。MPどころか全身を使っているこちらのHPばかり消費される。遠目に「落ち葉に覆われる風景」は風情あるものかもしれないが、実際に戦うと厄介だ。

落ち葉を集め始めて2時間弱、綺麗に晴れていた空はいつの間にか雲が増え、ぐぐん、と気温も下がってきた。さっきまでカサカサだった落ち葉が、気温の低下とともにふわりふわりと落ちてきたような湿気を帯びてくる。もう一度天気予報画面を見る。雪が降り始めるのは明日の午後四時以降、となっている。
最近の天気予報はなかなかこういう時間帯予測まで正確だ。でも数時間早く降り始めることはよくあるから、やっぱりできるだけ落ち葉かきを進めたかった。大体今日のこの「なかなか減らない」「やっつけている気がしない」ペースでは、明日の朝から雪の降り始めまでやっても終わるかどうか。

冬至が近いこの時期、日没時刻の夕方五時になるとあっという間に暗闇がやってくる。とりあえず3時間弱で集めた落ち葉は大きな庭用のゴミ袋に5袋分、明日はまた朝からやらなければ。もうとっぷりと日の暮れた街を、落ち葉入りのビニール袋3つを積んで 車で五分ほどの街の落ち葉集積場まで往復する(セダンなのでなかなか大きなビニール袋は乗り切らない)。夜の運転はあえてしたくないので、1往復しただけであとは明日に回した。


翌朝はまさに雪雲、というぼてっとした鉛色の雲が広がっていた。西の山のほうが暗いから、雪の振り出しは昼あたりかもしれない。
とにかく黙々と昨日の続きを始めた。

熊手で落ち葉をかき集める。庭のあちこちに落ち葉の山ができる。でも時間がかかるのは集めた落ち葉をビニール袋に移す方だから、1時間半それをやったところで 植栽のあたりの落ち葉は今回は諦め、ビニール袋に詰め込む作業に移る。
落ち葉の山の端っこから、10ガロン(1ガロンは大体4リットル)という大きさのプラスチック鉢をちりとり代わりのバケツとして使い、落ち葉を詰め込む。鉢を横にしたまま落ち葉の山の中心に押し込み、同時に腕全体をつかって鉢の中に落ち葉を押し込むのだ。足で鉢をおさえて両腕で落ち葉をかき込む私は犬にでもなった気分。でも見た目なんて気にしてられない。世の中にはごくたまに「えーこんなのたいへーん、やってぇ」って男の人に甘えられる女もいるが、美を感じないので私のwikiにその選択肢はない。はやく集めなきゃ、それしか頭にない。

すぐ横に口を充分に開いた巨大な(50ガロンサイズ、つまり200リッター弱!)ビニール袋を置いておき、いっぱいになったその鉢をいったん袋に全部入れてから中でひっくり返す。こうしないと軽い落ち葉は飛び出てしまうし、こんな天気の変わっている日は風も強いから集めたり袋にいれたりした落ち葉が飛んで行ってしまうこともある。

そういえば近所に落ち葉集めがいやだから庭に木を植えない、という友人がいる。きっと小さい頃落ち葉集めを手伝わされたのだろうな。彼のお母さんは私みたいだったのかな。そんな事を思いながらも、私自身は四季の木々の変化と夏の木陰がとても好きなのでバックヤードの沢山の木を切るつもりはない。

私も子供達が家にいたときは手伝わせた。大抵早々に飽きて彼らの手は止まったり、気を散らして要らないことを始めたりする。それでも私一人では終わりが見えない落ち葉集めに、よく私は子供を引きずり出して手伝わせていたよなぁ。そんなことを思い出しながら、芝の上に新たな模様のように拡がった落ち葉を、かいて山にして、大きなバケツに詰め込んで、これまたとんでもなく大きなビニール袋に空ける、を繰り返す。かいて、詰め込んで、空ける。また詰め込んで空けて、ビニールを閉じる。新しい袋を開いて、落ち葉をかいて、詰め込んで・・・・

ものすごい単純作業なのに時間ばかりかかる。息切れはしなくなっても、この気温の低い中落ち葉をがさがさやっているとホコリが飛びまくり咳き込んでしまうのはしょっちゅうだ。
あーもう!
落ち葉の山を蹴っ飛ばしたい気分になるが、それは自分の仕事を増やすだけなので代わりに悪態をつきながらバケツ鉢を落ち葉の山のなかに突き立てる。ニット帽からパーカーからデニムから、ホコリと落ち葉だらけになってひとり悪態ついてるオバサン、怖すぎるよ、と自嘲しつつ。

何度も何度も繰り返す作業は、無心になれるかと思いきや頭の中はいろんなことを2つも3つも一度に考えていてうるさい。そして乾いた落ち葉とはいえ、押し込み過ぎると重すぎたり穴があいたりするから、頭の声に気を取られすぎぬよう適当なところで諦めて口をしばる。

そこに、とうとう雪が降ってきた。まだ午後1時、やっぱり早く降り始めた。14袋の落ち葉と、まだ庭に半分残ってるかき集めた落ち葉の山。

残りはまた雪がとけて乾いた頃に集めることになるが仕方ない。手早く熊手や鉢などを片付け、大急ぎで芝刈り機を庭の物置シェッドから引っ張り出した。単純作業中ずっと考えていたことの1つはこれ、雪の前にフロントヤードにもう一度芝刈り機をかける、ということ。(時間的にバックヤードはもう無理、と諦めていた。)
そちらの落ち葉は、まだ治りかけでゼイゼイしていたころに文字通り酸欠で倒れそうになりながらも一度きれいにしていた。なので今はそれほどの量ではない。とりあえず雪が積もる前に芝をもう一度刈ってしまえば(冬支度のひとつでもある)新たに積もった落ち葉もそのくらいの量なら芝刈り機で一緒に吸い上げてしまえる。

小さな氷粒だった雪はだんだんと「雪らしく」ふわふわとした容積を持ってきた。それらが芝刈り機をかけ新しい緑が見えたところに少しずつ白の上塗りをする中、大急ぎで芝刈り機を走らせた。
計算違いだったのは、しばらく刈っていなかった芝はそこそこ伸びていて、さらに落ち葉も吸い込んでいるので すぐに刈った芝をいれる袋がいっぱいになることだった。350 リッター入る植物専用ゴミ箱に、こちらはどんどん空けて入れていく。結局フロントヤードをおおまかに芝刈りしただけでそのゴミの容れ物の3分の2ほどになった。なんという計算違い。ほんと、落ち葉も芝も、ばかにならない量だ・・・

芝刈り機を物置にしまい、落ち葉で膨らんだ14のビニール袋をいったんガレージ内に全部移し、そのうち4袋は車に詰め込む。ガレージに移したのは車に積むときそれらの袋が濡れていると後の車掃除がさらに大変だからだ。
ここから3往復して市の落ち葉集積場にそれらの袋を大体動かした。雪の降り方が激しくなってきたので、まだ3袋残っているが運ぶのはもうやめた。雪が積もり始めた時間というのは結構滑る車が多くて危ないのだ。


そんなわけで、この時期の枯れ葉はなかなか倒せないモンスターみたいだ。まだまだ残った葉は思い出した様に落ちてくる(春までしぶとく枝先にしがみついてる葉も結構ある)。片付けてもまた、悪夢のように復活してくる落ち葉モンスター。
降り続ける雪に今は埋もれ、ちょっとイイ感じの景色に見えるのは気のせいだ。あの雪の下にはまだ私に戦いを挑むモンスターが隠れている・・・・

ま、その前に明日の朝は私が戦うのはドライブウェイに積もった雪だけれど。こちらも見た目はキレイだけど雪モンスター。ため息しかでない。あーあ・・・

※翌朝、5cmくらいしか積もってなかったので早々にドライブウェイの雪をどけて、現在午前11時、8割方溶けて 部分的にはもうすっかり乾いてます。
そしてこんな話題で3500字にもしてる、きっと私の中にやっつけきれない落ち葉モンスターへの怒りエネルギーがだばだばに溢れてるに違いありません。

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