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やさしい歩み寄りを応援していきたいのです

 横浜市主導で(多分・・・違ったらゴメンナサイ)、医療界では有名な会社となっているメディカルノート社・ケアネット社や日経メディカル、そして朝日新聞の協力で開催された第2回医療マンガ大賞の受賞作が決まりましたね。

審査に入られたのは(株)コルク代表の佐渡島さん、漫画家のこしのりょう先生、おかざき真里先生、SNS医療のカタチという中堅医師達で新たな取り組みをされている中の山本健人先生、メディカルノート社の井上祥先生、横浜市医師会常任理事の筑丸 志津子先生、そして横浜市副市長の城 博俊さん。

こしの先生もnoteでこれを紹介されています。

入賞および特別賞をとられたワダシノブさんは私も大好きなnoterさんです。おめでとうございます。もちろん大賞を・・・ってお気持ちはあったと思いますが、シノブさんの描かれるキャラと静かな風景とは、ものすごくココロを揺さぶるものでした。(って一般人に言われても嬉しくないか)

これ、(自分に関係無いと思って)良く知らなかったんですが、短い原案エピソードに沿って漫画を描いていただく、というものなんですね。で、現在むしろ文章のほうの世界に近い私はこの原案エピソードの方にもとても感心しました。(毎日接していると逆に覚えていられなかったりする大事なことたちです)

  事例A 患者サイド:ーーーー漫画はこちら
  事例A 医療者サイド:ーーーー漫画はこちら
事例B 患者サイド:ーーーー漫画はこちら
事例B 医療者サイド:ーーーー漫画はこちら
  事例C 患者サイド:ーーーー漫画はこちら
  事例C 医療者サイド:ーーーー漫画はこちら
事例D 患者サイド:ーーーー漫画はこちら
事例D 医療者サイド:ーーーー漫画はこちら
  事例E 医療者サイド:ーーーー漫画はこちら

E以外、それぞれの事例がセットです(ちょっと行開始を変えてセットにしました)。(すべて一番最初に貼付したウェブページから行けます。)

すばらしいのは現場で齟齬がおきるときって 本当に小さなボタンの掛け違いみたいなことからなんだ、というのがすんなり受け取れることです。ある意味仕方なくもあり、でも人間同士として関わる事で乗り越えられる事・・・

私があれこれ書くより読んで頂くのが早いと思う。ぜひご覧下さい。主催され審査された皆様、本当にお疲れ様でした。

さて、こういう取り組みは本当に大事だと思います。実際医療者ならいろんなところで感じる「上手く伝わらないなぁ」というのは、それぞれの立っている地面の「高さ」の違いとも言えます。エライとか偉くないとかではなく、医療者は一般のひとより「知識・経験」で積み上げたものの上に立っているのでちょっと視野は広くなれ、同時に一般の人の「ここ、分からないんだけれど」という足許に積んだレイヤー部分にはどうしても気付きにくくなるんです。

どんなエリア・分野でもそういう「積み上げられたものの上に立っての意見、そうでない地面に立つ意見」というのはあって、例えば私にとって機械工学とかいわゆる文学の談義は「ちんぷんかんぷん」だけれど、あちらがちょっと寄り添って分かり易く話してくれたらすっごくよく分かって面白い!となるものです。

ただ医療は「そのひとの健康・命」というものが中心にあり、どうしても感情や家庭の事情なんかも絡むので、時々どうしようもなく理解し合えていない、という状況になることはあると思っています。


実はつい先日もツイッターでシェアされていたYoutuberさんの「新型コロナウイルスに関する論文の読み方」で私も頭を抱えました。彼女はおそらくかなり聡明だし、英語もネイティブなんでしょう、論文をいくつも読み下調べをしてそのYoutubeを作って配信しています。

ところが8割は正しいのですが、2割が大間違いなのです。大間違いの理由は彼女が「その研究分野の特殊性」「研究をする科学者の、大前提」というものを無視して・・・いや、知らないままに理解した気になり(とか書くときっと彼女はもの凄く怒るでしょうけど) 怒りを持って紹介しているからです。

各科学分野では今どこでもそうだと思いますが、専門特化すればするほど科学というのは「曖昧性」をどこまで受け入れるか、という話になります。イメージするなら、全ての事象を起こしているもとが「湖」、そこからいくつもの「専門分野」という立ち上がりがあって、現在は各種技術の進化もあって超専門分野は細く鋭い針のような世界です。

イメージ画は以下。

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この鋭い針の先から、足許の湖を説明は到底出来ません。が、それを繫ぐのがその大元になる専門分野で、ぐぐっと湖に近くなったところが高校や大学で教わる基礎部分です。そこだってまだ、湖を全部説明できるわけがありません。

もっとややこしいのは「真実だ」と思っている湖は、球状の「事実」の一側面に過ぎません。

最新科学というのは こういうある意味説明の難しいところで最適解を探すような世界です。多分野で使われている、あるいは大元の研究で使っていた手法をつかうものの、あるところからは「全部をひとつひとつは証明できないが、証明されている事柄の上に証明を重ねて針の先に辿りつく」を繰り返すのです。

だから針の先は湖から立ち上がったことを説明するものですが、針の先のことで湖全体、それどころか事実という球状全体を説明できるものではないです。(昔「必要条件・充分条件」というのを学んだと思います。要はそういう話です。)

一応「球状の事実」を説明するための沢山の学究分野があります。そしてそれぞれの矛盾しないところでの結果で今の科学は動いているわけですが、

昔、天動説(大地は動かず、星々が大地を中心に回っている)を信じていた頃は科学者と呼ばれる人達が全部 天動説という「湖」の上で理論を組み立てたわけです。それを崩したのは様々な分野の技術的進歩です。

だから、今の科学は大元の「地動説」みたいなものは覆らない、という前提で動いていますが将来まったく違う観測方法が出て「まぁ、こっちから見たらそうなんだけど実はちょっと違ってね」と言われたら 時間はかかっても「なるほど」と変わることがないとは言えない。

科学が検証とか実験を繰り返すのはそういう「自分を信じない」前提がまずあるからです。これを持てなかったら科学者じゃありません。


さて、件の彼女が間違っている2割のことは実はそっち側の科学論文 の出来方(つまり研究の分野)も知っていると明らかですが、一言二言では説明できるものではないのです。それをこの動画をみたひとが「説明できない=陰謀だ」と結びつけてしまうような持って行き方にするのは・・・・ま、言葉は優しくしたい、と書いた直後なので保留にします。

まぁ簡単に言えることは現代の科学において研究が進んでいる分野では1年前の論文は間違いがあっても「より正しい解を求めるための経過だ」と捉えられますし、もっと言うと新型コロナウイルスと呼ばれるものはいろんなものが「既知の医学」にはなかったものです。存在しなかった、のではなく、測定方法がなかった、のかもしれません。それくらい近代医学の進歩は早い。

だから10ヵ月前の論文を「嘘ばかり」と言っているのは、まず「ああ、またシロウトが勝手な事を」と言われかねない。ウイルス学というかなり新しい分野において、技術革新というのが絶対条件であり、ひとつの検証にものすごく時間とお金がかかることを、だれがわざわざ説明しますか。

論文には科学の素養があってこそ読み込めることがあります。彼女の話では勉強しているけれど「落とし込まれていない付け刃」が多すぎて、かつ「8割は正しい読み方」をしているものだから「陰謀論」になってしまう。


「SNS医療のカタチ」とかこの「医療マンガ大賞」の取り組みの素晴らしさは、本来なかなか理解出来ない「足許にあるレイヤー部分」を勉強しろとはいわないけれど、こうやって歩み寄ることもできるんじゃないかな、を模索している所だと思っています。

医者であるわたしだって、分からない事がおおくなっています。一応できるだけアップデートしようと(第一線にいるオットから教わったりとかw)しますが、絶対ではありません。この立っている地面の高さの差は、「もともと知らないことがあるらしい」という前提のもと、お互い歩み寄るしか無いのではないかと思います。

件のYoutuberさんには申し訳ないけれど、やはり「先端医学」についてはそちらに携わっている人から「足許の段差にハシゴをかけてもらって」聞くべきです。医学は別に万人を受け入れていないのではなく、みんなのためにもの凄い量の知識がやりとりされているのだと、まだ「過程で結論に至っていない」ことがありながらもここまでは言えてここからは分からないのだと、医療者はそういう「はっきり言えないジレンマ」のなかでなんとか伝えようとしているのですから。。。。

「足許のハシゴ自体が嘘なんじゃないの」という他人を信じないという前提からではなく、まず学んで受け止めて検証してからという方法(多分彼女はやってるつもりなのですが)に、「検証は一人でやらない」という科学の大前提を加えて欲しいなぁと思うわけです。


いずれにしても、いろんなことが情報として流れている現在、みなさんにも「信頼できるのは何で、誰か」を知って欲しいなと思いますし、そういう観点から医療マンガ大賞もSNS医療のカタチも応援したいと思っています。

サポート戴けるのはすっごくうれしいです。自分の「書くこと」を磨く励みにします。また、私からも他の素敵な作品へのサポートとして還元させてまいります。