草むしりとスイカ
夏の草むしりは嫌だ。でもやらないと、田舎の我が家なんてオバケ屋敷になってしまう。
通りすがりのひとに ウチがオバケ屋敷に見られたくない、そんな理由で今日もため息をつきながら、夫が仕事に出た後につばの広い麦わら帽子をかぶり、既に太陽がじりじりと照りつけている玄関先に出たら、うちの玄関前の小さな庭部分には麦わら帽子をかぶったオバケが既にしゃがんでいた。私よりも草むしりのお手本みたいな格好をして、足許は流石に透けてて見えないんだけれど、汗を首回りに巻いた手ぬぐいで拭っている姿とか、うちの実家の父より様になっている。
「えーと、ウチの庭で何やってるんですか？」
汗をかいている彼の隣にはしばらくむしり続けていたんだろうなということが見て取れる、引き抜かれた雑草が2つばかり山をつくっている。玄関前には青草の匂いが漂っていた。
「なにって、草むしりだろう」
そういえば最近、夜中にコンビニで買い物しているオバケのカップルとか、夜間道路工事の交通整理でバイトしているオバケが増えているって新聞に載っていた。一時期騒然としていたけれど、マスク無しで話したってウイルス感染の心配はないし、コンビニや飲み屋に現れては行儀良く買い物や飲み食いするだけで ちゃんと街におカネを落としてくれているというので 結構すぐにみんなオバケを受け入れた。
ときにはVサインをしながら当たり前に写真に写るオバケたちは「なんか可愛い」とか評価されている。インスタグラムで出会ったオバケと肩を組んで写真を撮るのも、オバナカ（＝オバケが仲間）、とかいうハッシュタグで一部で流行っているらしい。
だけど、殆どは夜の街での出来事だ。今は朝９時とはいえ、夜のコンビニなんて目じゃない明るさだ。
「あ、ありがとうございます････っていうか、オバケさん」
「なんだ」
「ここ、私の家ですよね。どうしてオバケさん、ここで草むしりしてくれてるんです？」
「心配するなよ、べつにあんたの家についてるとか、あんたに取り憑きに、とか言うんじゃ無いんだよ。たださ、こうも雑草が多いとさ・・・」
ちょっと麦わら帽子のオバケは 周りを見渡しながらもごもごと言いにくそうにしている。
「･･･いやぁ、雑草がぼうぼうだと、《オバケ屋敷》って言われるじゃないか。俺ら別に雑草が生えてるのが好きなわけでもないのにさ。で、あんたが毎日少しずつ草むしりしてるのは見てたよ。見てたけど、この時期ってあんたのスピードでは全然追いつかない勢いで雑草育つじゃないか」
やばい、このオバケに私がだらだら草むしりしてたのは見られてたのか。
「とにかくちょっと心外なわけ。俺らいないのにオバケ屋敷なんて、あんたも嫌だろう？で、オバケ友達と相談してさ、暑さのきつくない時間に草むしり手伝おうやってことになって」
「はあ、ありがとうございます。じゃなくて、なんかすみません」
「いや、本当はバイトさせてくれってお願いしようと思ってたんだ。したら主婦の朝は忙しいってあいつが言うもんだから勝手に始めてた。やつは裏庭の方やってて、きっともうすぐ終わるよ。こっちのほうも二人でやれば午前中に終わるから。」
そう言っているうちに、家の裏手から他のオバケが汗をふきふき現れた。
「で、バイトの話なんだけど、多分あと２時間かからないで終わるからさ、代わりに俺らにスイカ切ってくれない？」
そういえば昨日の夕方、隣のおじさんから畑でとれたという大きなスイカをもらって、風呂場のたらいに水を張って入れていた。昨夜から冷やしてるから、良い具合に冷えてるはずだ。知ってたのか。
裏手を終わらせたばかりのオバケが笑顔で言う。
「俺たちスイカとか、結構好きなんですよ。」
なーるほど、季節の野菜・果物は採れたてだよね。だから交換条件か。
「わかりました、有り難いです。じゃ、終わったら裏に回って下さい。縁側開けておきます。声掛けてくれたら冷えたスイカ、持って行くんで」
麦わら帽子のオバケたちは、傍目にも明らかな位に満面の笑顔となった。
家の中に戻って、スイカを食べやすく切ってラップをした。さらに思いついて庭からよく熟れたキュウリとトマトを取ってきて洗い、2つのビニール袋にいれた。そうして冷蔵庫に切ったスイカとビニール袋にいれた野菜をしまう。
オバケとの共存社会ってのもいいかもしれない。マスクもソーシャルディスタンスもいらなくて顔をみて話ができる、そういうのをものすごく心が欲してるから。
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昔のnoteのリライト再放送です。こちらの世界観オマージュとして・・・・
ヘッダー画像はみんなのフォトギャラリーより、ありんこさんの作品をお借りしました。以前のものに引き続き、使わせて頂きました。素敵な作品をありがとうございました。
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