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雲上のホイッスル

ここしばらく、バタバタと過ごしている間にすっかり世事に疎くなってしまった。まるでパラレル・ワールドに迷い込んでしまった気さえする。いちばん驚いたのは、そこかしこでラグビーについて熱く語る人と出くわすことである。僕の知っている日本と違い、こっち側の日本ではどうやらいまラグビーが人気らしい。

ラグビーといえば、まあ、たいがい僕の世代の人間にとってのイメージは「スクール☆ウォーズ」一択だろう。

それが高校生、いや大学生だろうが社会人であろうが、ラグビーをする人たちを見れば、つい知らず知らず「泣き虫先生」の姿を探してしまうし、その間ずっと頭の中では麻倉未稀が歌う「ヒーロー」のサビの一節が中途半端なままひたすら再生を繰り返す。そのくらい、一部の熱心なファンをのぞき、世間一般におけるラグビーについての情報は乏しかったということだ。

その「スクール☆ウォーズ」といえば、実はひとつ苦々しい思い出がある。

あれはいつだったか、たしか何度目かのフィンランド旅行の時だ。当時、すでに日本の航空会社の飛行機では各席ごとに専用のモニターが付いているのがふつうだったが、フィンランド航空はそうではなかった。機内に大きなスクリーンがあり、あらかじめ決められたプログラムを機内の全員が観るというシステム。

ところで、よく聞くところでは、機内での映画鑑賞を楽しみにしている人は多い。必ずしも長いフライト中の暇つぶしばかりでなく、ふだんあまり自分からは進んで観ないような映画を観る絶好のチャンス、そういう声も聞く。確かにその日、フィンランドへ向かう飛行機の中でスクリーンに映し出されていたのも、自分からは決して劇場に足を運びはしないであろう作品であった。

『スクールウォーズ・HERO』

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しかし、だ。いま僕が向かっているのはフィンランドである。オーロラが輝き、ムーミンがミィやスナフキンと無邪気に踊り、大きな花柄のドレスに身を包んだ女性がイーッタラのグラスを傾けるそんな「森と湖の国」である。この高揚した気分に、殺伐とした「伏見第一工業高校」を舞台に繰り広げられるスポ根ドラマはあまりにもそぐわない。

「俺は今からおまえ達を、殴る」。

そんなこと言われてもなぁ……

まあ、イヤホンをしなければ、たしかに音を聞くことは避けられる。だが、目を開ければどうしてもスクリーンは見えてしまうのだ。実際、バイクにまたがった複数のヤンキーどもが校内を爆走しているシーンが目に飛び込んでくる。イヤホンをして映画を観ているとなりのフィンランド人が、日本についてヘンな誤解をしないかと思い気が気でない。

いや、さっき「イヤホンをしなければ音は聞こえない」と書いたが嘘だった。静かなキャビンに

ピーーーッ!!!

と鋭いホイッスルの音が鳴り響く。映画を観ている人たちの、それはイヤホンからの音漏れだ。スクリーンでは、教師役の照英がお約束通り号泣している。

いや、むしろ泣きたいのは、照英の泣き顔でせっかくの旅気分に水を差されたこっちなのだが。(一応、念のためつけ加えておくと照英に罪はありません。笑)

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