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今週の日記|師走のこと 12月6日 時機

そのむかし、まだカフェをやっていた頃の話。ゼミで地元のお店について調査しているという近所の大学の学生たちからインタビューを受けたことがある。

話が一区切りついたところで、こう訊ねてみた。「ところで、みなさんはふだんどんなお店でお茶をしているんですか?」地元でお店をやっている者として、いまどきの学生がどういうお店を好むのか単純に関心があったのだ。

いや、行かないっすね。忙しいんで。

ひとりの学生がそう答える。あ、えっと、そうなんだ。若干うろたえつつ言葉を返す。ほかの学生もうんうんと同調している様子から、彼らはみなカフェで学校帰りにおしゃべりに興じるということはないらしい。

そうか、いまどきの大学生は忙しいのだな。授業よりも、その後にみんなでいつまでもダラダラ喋っているのが楽しくていそいそと通学していた自分が恥ずかしく思えてくる。

でもさ、忙しくするのは社会に出てからでもぜんぜん遅くないよ。あの、ダラダラと対話に興じていた時間がいかにいまの自分の支えになっているか、そのことをぼくは知っている。

思わずそんなことを言おうとするが、ぐっとこらえてぐっと呑み込んだ。きっとそんなことを言ったところでいまの彼らには響かない。ことばには、それにふさわしい時機というものがあるのだ。

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