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ジョアン・ジルベルトガイド⑫/海の奇蹟 Brasil 1980~1981年

・アメリカ生活を切り上げブラジルへ帰国

1980年、ジョアン・ジルベルトは長きに渡る海外生活を切り上げブラジルへと帰国。この頃、軍事政権が終焉に向かいながらブラジル国内が落着きを取戻しつつあったことが、帰国するきっかけになったと思われる。

・帰国記念のライブ

TVグローボによる記念番組が企画され、オーケストラをバックにライブを敢行する。
アレンジャーにはドリ・カイミ、ジョアン・ドナート、ガヤが参加し、Jou Jou Balangandãsではヒタ・リーと共に、珍しくハンドマイクでデュエットするジョアンを観ることができる。まだ幼いベベウ・ジルベルトとも共演している。

・収録曲について

実際のライブとレコードでは曲順が異なり、ライブではAquarela do Brasilから始まる。
カエターノ・ヴェローゾのMenino do Rioは79年のアルバムCinema Transcendentalから。

Eu e a brisaはジョニー・アルフの楽曲。洗練されたピアノのヴォイシングは、かつての下積み時代のジョアンに大きな影響を与えている。

Jou Jou balangandãnsはラマルチーネ・バボによるマルシャ。ミウーシャとベベウによる録音もあり。

Canta Brasilはアウシール・ピレス・ヴェルメーリョとダヴィッヂ・ナセールによる楽曲。

Joao Gilberto Prado Pereira De Oliveira

1. Menino Do Rio(Caetano Veloso) 
2. Curare(Bororó)
3. Retrato Em Branco E Preto(Chico Buarque, Antonio Carlos Jobim)
4. Chega de Saudade(Antonio Carlos Jobim, Vinicius de Moraes)
5. Desafinado(Newton Mendonça, Antonio Carlos Jobim)
6. O Pato(Jayme Silva, Neusa Teixeira)
7. Eu e a Brisa(Johnny Alf)
8. Jou Jou e Balangandans(Lamartine Babo) 
9. Canta Brasil(David Nasser, Alcyr Pires Vermelho)
10. Aquarela Do Brasil(Ary Barroso)
11. Bahia Com H(Denis Brean) 
12. Tim Tim Por Tim Tim(Geraldo Jacques, Haroldo Barbosa)
13. Estate(Bruno Martino, Bruno Brighetti)

・サウダーヂあふれるアルバム

1981年、ジョアン自身が主導しプロデュースするアルバムのレコーディングがスタートする。
今回はジョアンのソロではなくカエターノ・ヴェローゾとジルベルト・ジル、マリア・ベターニアら同郷バイーアの面子との共演となる。
選曲については、これまでと異なりジョビンの曲は取り上げられていない。
アレンジャーには映画MASHのサウンドトラックや、ホーギー・カーマイケルやシナトラを手がけていたジョニー・マンデルが起用される。オガーマンと異なり、主張の少ない品の良いオーケストラアレンジを聴くことが出来る。どの曲も歌とヴィオラォンから始まり、徐々にオーケストラなどの楽器が重なり合う。Aquqrela do brasilとBahia com Hのアウトロにはサンバ隊やビリンバウの音が入り、映像的な表現でサウダーヂを感じさせるアレンジが施されている。
このアルバムでは、ジョアンのひたすらドライブするバチーダのキレの良さと、ジョアン、カエターノ、ジルのピッタリと息のあったユニゾンが素晴らしい。
ここまでリリースされてきたアルバムの中でも、ジョアンの音楽に対する思想や哲学が、もっとも反映された作品だと言える。ジョアンの作品を聴いていくと、ゲッツやオガーマンのような主張が強い他者が入り込むと、視点がぼやけてしまう事が多かった。
ジョアンがコントロールすることで、歌とヴィオラォンと楽曲が中心に来ている。曲数は少なく全部で30分に満たないが、一曲ごとの濃度が高いので何度聴いても楽しむことが出来る傑作である。
このアルバムにキーボードで参加したクレア・フィッシャーが次作Joãoのアレンジを担当することになる。

・収録曲について

アリ・バホーゾの代表作Aquarela Do Brasil。美しいリハーモナイズが施され、ジョアン、カエターノ、ジルらのユニゾンとそれぞれのソロが交互に現れる。ラスト近くのF#m7(♭5)-B7(♭9)の不協和音の中で歌われるユニゾンはいつ聴いても感動的だ。

Disse AlguemはジャズスタンダードAll of meにアロルド・バルボーザがポルトガル語詩をつけたもの。唯一ジョアンの4ビートの演奏を聴くことができる。ライブではスウィングしない通常のバチーダで演奏されていた。

Bahia Com Hはデニーシ・ブレアンによる楽曲。アウトロのビリンバウがサウダーヂを誘う。

アリ・バホーゾのNo Tabuleiro Da Baiana。カルメン・ミランダのパートをマリア・ベターニアが担当している。原曲は賑やかなサンバで、ピアノとバルキーニョのフレーズを声とバド・シャンクのものと思われるフルートに置き換え、落ち着いた楽曲へとソフィスティケートされている。

ドリヴァル・カイミによるMilagreは77年に発表された比較的時期の近い楽曲。イントロからジョアンのバチーダがグイグイと曲を引っ張っていく。

Cordeiro De Nanãはオス・チンコアンスによるカンドンブレの音楽を再構築した楽曲。

Brasil

A1 Aquarela Do Brasil(Ary Barroso)
A2 Disse Alguem(Gerald Marks, Haroldo Barbosa, Seymour Simons)
A3 Bahia Com H(Denis Brean)
B1 No Tabuleiro Da Baiana w/ Maria Bethânia(Ary Barroso)
B2 Milagre(Dorival Caymmi)
B3 Cordeiro De Nanã(Mateus E Dadinho)


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