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デヴィッド・ボウイとクラウトロック②/ヤングアメリカンズ

カンが目指したファンク

カンのギタリスト、ミヒャエル・カローリは、バンドのドキュメンタリーの中で「ジェームス・ブラウンのような強力なリズムを求めていた」と発言していた。ドラマーのヤキ・リーベツァイトではなくバンドのギタリストもこういった考えを持っていたカンというバンドの特異性が伺える。ジェイムス・ブラウンが鳴らしたファンクのサウンドは、英米以外の国でも異なる形でファンクが形成されていた。「エーゲバミヤージ」に収録されたアイム・ソー・グリーンを聴けば、カンとジェイムス・ブラウンの共通したファンクネスを見いだせると思う。

フォーク/ロックからソウルへ

ボウイはアメリカツアーで触れたソウルミュージックの影響から、「ダイアモンドの犬」で試みたフィリーソウルを突き詰めようとアメリカに渡り、「グースター」というタイトルで制作を進めていたものの、紆余曲折の末最終的に「ヤングアメリカンズ」としてまとめられ75年の3月にリリースされている。ボウイはこのアルバムで作曲面の大きな変化が起きている。ここで重要なのは「ダイアモンドの犬」の頃までに見られた、鮮やかな転調やメロディ主体なフォーク/ロック的作曲方法から、繰り返しを多用したリズムオリエンテッドなR&B/ソウルミュージックの曲調にシフトしている。それ以前にも「ドライブ・イン・サタデー」のようにモータウン等のノーザンソウルの雰囲気を感じさせる曲はあったが、より同時代のアメリカのソウルマナーに沿った曲を作ろうという試みをアルバム全体から聴くことが出来る。

ボウイ流ファンクネス

「ヤングアメリカンズ」は全体的にメロウなブルーアイドソウル/AORという雰囲気があるが、その中でも後のボウイの音楽的な活路を見出したのが「フェイム」だったと言える。アルバムのセッションの中でフレアーズの「フットストンピン」のカバーから発展したギターのリフをもとに、NYのダコタアパートに居を構えていたジョン・レノンのもとを訪れた事で共作するきっかけとなった「フェイム」が生まれた。この頃のボウイのバンドのギタリストだったカーロス・アロマーが「フットスタンピン」で弾いていた、手癖のようなフレーズがこの曲の骨格となり、それを拡張して完成へと導いていく。

・Flares/Foot Stompin’

・David Bowie - Footstompin’

・David Bowie/Fame

「フェイム」がリリースされた後、ジェームス・ブラウンは「フェイム」をそのままトレースしたような「ホット」という曲をリリースする。かつてジェームス・ブラウンのバンドにいたカーロス・アロマーはその様子に怒りを露わにしたが、ボウイはアロマーをたしなめる。ジェームス・ブラウンに受け入れられたという所に自身が作り上げたものに対して手応えを感じていたのではないだろうか。

・James Brown/
Hot (I Need To Be Loved)

カンの求めるジェームス・ブラウンのファンク。ボウイが作り上げたファンクを取り入れるジェームス・ブラウン。直接的な関わりはないものの、それぞれが違った形でジェームス・ブラウンのもつミニマリスティックな音楽への方向性の共通点を見る事ができる。

地球に落ちてきた男

「ヤングアメリカンズ」がリリースされる前に、ボウイのライブを収録したクラックドアクターという特番を観た映画監督ニコラス・ローグは、異星人を主人公にした話を作るには彼が必要だと感じ、ボウイに映画主演のオファーをする。

・The Man Who Fell To Earth

ボウイは主演として映画の撮影に加わり、撮影が終わった後も、この映画でのトーマス・ジェローム・ニュートンという役柄から抜ることが出来ず、ジギースターダスト以来のシン・ホワイト・デュークというペルソナを生み出す。コカインとストレスから極限までやせ細った体と、オールバックにしたオレンジ色の髪。モノクロームな衣装は時代が違えばコム・デ・ギャルソンやヨージ・ヤマモトがデザインしてもおかしくなかったかもしれない。このキャラクターと「フェイム」がもつファンクネスはその後のジャパンなどニューロマンティクスに強い影響を与えていると思われる。この頃のボウイは煌びやかなグラムロックから脱却しつつも、結果的にヴィジュアルも含めパンクの後に来る時代をすでに用意していたことになる。ボウイの信奉者だったノイ!のクラウス・ディンガーもこういった美意識に影響を受けていたのではないと思われる。

ヤングアメリカンズ

グラム期からベルリン3部作への過渡期にあたる作品で、70年代のボウイのアルバムの中でもR&Bに寄せた内容となっている。「ダイアモンドの犬」から完全にアメリカンなサウンドへの変わり身の早さは凄い。
「ファスシネイション」や「フェイム」は次作に繋がるファンクが展開されているが、「ライト」、「ウィン」のようなAOR路線はこの時期にしかない味わいのある曲も並んでいる。

「グースター」はボックス「Who can I be now?」に収録されている。


」に収録されている。

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