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ホソノ通信③/キャラメル・ママ~ティン・パン・アレー

・海外に広がるシティポップブームの一例

昨今のシティポップブームの中でも一番印象的な出来事は、2017年にテレビ東京で放映された「Youは何しに日本へ?」での大貫妙子の「サンシャワー」を探しにきたオーストラリアの青年の回だったと思う。

観た方も多いと思うので詳細は割愛するが、彼は西新宿のレコ屋でお目当ての「サンシャワー」を発見。その傍には大瀧詠一のファーストやティンパンアレー、小坂忠のほうろう、カウンターには流線形のTokyo Sniper(再プレス求む!)などが並んでいて「おいおい!サンシャワーだけじゃなくてそっちもだろ!」と思わず声が出た方も少なくはないのではなかっただろうか。

この放送の影響も大きかったのか、2014年にアナログリイシューされた「サンシャワー」はその後もプレスを重ねて時代を超えたヒットアルバムになっていった。それほどプレスの数は多くはないかも知れなが、限定アイテムが多いアナログリリースの中でイニシャルで終わることなく販売し続けられていたのは異例ではないだろうか。

・2000年以降のシティポップ・AOR・ブギー

先日海外メディアからの視点としてローリングストーン誌でシティポップの記事が公開されていた。Light in the atticからリリースされたシティポップ・AOR・ブギーを集めたコンピレーション「Pacific Breeze」を初め、Youtubeのレコメンデーションから火が付いた竹内まりやのPlastic Loveなど詳細に語られている。

2000年以降からキリンジ、流線形、ママレイド・ラグ、青山陽一(世代は上ですが)のようなティン・パン・アレーや70年代の荒井由実、スティーリー・ダンを髣髴とさせるバンド/ユニットが頭角を現し始めて、現在に至るまで徐々に増えていった印象がある。

中でもキリンジのプロデューサーでもあった富田ラボのアルバムに、高橋幸宏や大貫妙子など新旧ゲストが参加していたことで、70~80年代のシティーポップが90〜00年代まで一直線につながったような感覚があった。

ネッド・ドヒニーのコンピレーションやサンダーキャットの「ドランク」に象徴されるように00年代後半から国内外でAORの人気が高まっていることや、ダフトパンクの「ランダム・アクセス・メモリーズ」がきっかけとなってブギーがブームになっていた流れの先に、シティポップブームが起きている。先日、国産ブギーのディスクガイド「WA・BOOGIE」といったものも出版されている。

ヴェイパーウェイヴ/フューチャーファンクとの繋がりはこちらの動画を参照頂きたい。セイント・ペプシやマクロスMACROSS 82-99は山下達郎など和モノのサンプリングを行っており、海外でのシティポップブームの源流のひとつともいえる。

ざっくりと現在までの流れを俯瞰すると、こういったシティポップの源流のひとつとしてティン・パン・アレーの活動がある。しかしあくまでも一側面であってそれが全てではないことも書き記しておきたい。

・キャラメルママからティン・パン・アレーへ

先の「サンシャワー」など細野晴臣が関わったアルバムはシティポップの名盤として残っているものが多い。70年代の細野の足跡を辿ればシティポップへと自然と繋がっていくが、こと細野晴臣のソロに限定すると、シティポップ的な側面がごっそりと抜けているのに気付く。細野が楽曲提供や演奏で参加したものを追うことで、シティポップ的な側面が浮き彫りになっていくため、ここではキャラメルママからティン・パン・アレーの過程の中で参加したアルバムの一部と、アルバム「キャラメル・ママ」を取り上げたい。

キャラメルママ

キャラメルママは細野晴臣と鈴木茂のはっぴいえんど組と林立夫と松任谷正隆のフォージョーハーフ組が組んだパーマネントなセッションバンドとして、Hosono Houseのレコーディングから活動がスタートする。キャラメルママの特徴はキャロル・キングやジェイムス・テイラー、ジョニ・ミッチェル、ローラ・ニーロなどのSSWと彼らを支えたセクションやクルセイダーズなど強力なバッキングとの関係に近いイメージがある。演奏面では時折り変拍子が入っていたりとインタープレイに走りすぎてはいないものの、一体になった四人のプログレッシブな面が顔を見せ、後のティンパンアレーよりもバンド感が強い。キャラメルママとしては一年足らずの活動だった。

・吉田美奈子/扉の冬

当時細野は吉田美奈子をローラ・ニーロやジョニ・ミッチェルのようなSSWに仕立てようと、「扉の冬」でキャラメルママの面々と共に全面的にバックアップしている。その後の吉田美奈子には見られないインティメイトで孤独感に満ちた歌詞や音楽性がアルバム全体を覆っている。ラテンなリズムとスワンプかつ途中プログレッシヴな展開の「綱渡り」や、冬の静けさの中に陽の光が当たる光景を浮かび上げたような「扉の冬」、ブラスが印象的な「外はみんな」など、スタックス、マッスルショールズ、ローラ・ニーロの「ゴナ・テイク・ミラクル」や「イーライと13番目の懺悔」がベースになったと思われる曲が並ぶ。しかし吉田は細野のオーバープロデュースを嫌がり、ここでの表現は封印されR&B/ソウルへとシフトしていく。

・荒井由実/ミスリム

キャラメルママがバックアップしたひこうき雲で、デビュー直後からブレイクした荒井由実のセカンド。もともとプロコルハルムなどブリティッシュロック志向だった荒井由実は、アメリカンロック志向だったキャラメルママの音楽性に懐疑的だったものの、当時の日本の音楽会には無い音楽性に新たな扉を開いていくことになる。
宮崎駿監督の「魔女の宅急便」の劇中歌で知られるジャジーなカントリーソング「やさしさに包まれたなら」、シュガーベイブがコーラスを担当したいかにもユーミン印な「12月の雨」、ドラムブレイクから始まる涼しげなエレピも印象的なファンクナンバー「あなただけのもの」、細野のダブルノートのベースと鈴木茂のスライドギターが切ない歌詞とオーバーラップする「たぶんあなたはむかえに来ない」など聴きどころは多い。

・雪村いづみ/スーパー・ジェネレーション

冒頭の序曲(香港夜曲)での林立夫のハイハットのグルーヴがとにかく素晴らしい。服部良一の楽曲と、雪村いづみの歌を主役にキャラメルママの演奏を味わうことの出来る一枚。トゥーマッチな感じは否めないものの、ポリリズムなカンカン娘のプログレさながらな演奏に自然と歌をのせる雪村いづみの歌唱は凄い。

・ブレッド&バター/バーベキュー

キリンジや片寄明人、冨田ラボ、流線形に連なる昨今のシティポップのベースになっていると言っても過言でもない、大名曲「ピンクシャドウ」が収録されたアルバム。キャラメルママのメンツが全曲参加しているわけではないものの、シティポップのアルバムとしては外せない一枚。太陽族から続く避暑地葉山という場所が持つイメージと、ジャケットのバーベキュー風景というのがなんとも言えない雰囲気を醸し出している。ユーミンが憧れた風景。

・Three Digrees/Midnight Train

ソウルトレインのテーマソングでも知られるフィリーソウルのガールズグループ、スリー・ディグリーズの日本企画で、細野晴臣の「ミッドナイト・トレイン」と筒美京平の「にがい涙」が録音されている。本場アメリカのミュージシャンを起用してのレコーディングという事で、ソウルマナーに沿った作曲と演奏が繰り広げられている。現在リリースされているスリー・ディクリーズのベストにも収録されているため、楽曲のクオリティは本人達も認めていると思われる。名曲。

ティン・パン・アレー

1975年あたりから、キャラメルママからティン・パン・アレーへと名前が変わり、メンバーは不定形な状態となる。ティン・パン・アレー「キャラメルママ」のクレジットを見るとかなりの人数のミュージシャンが載っていることや、鈴木茂の「バンドワゴン」のように他のメンバーが参加していなくてもティン・パン・アレーと名乗っていることから、パーマネントなバンド感の強かったキャラメルママとは異なった抽象的な集団へと変化していく。

・小坂忠/ほうろう

小沢健二が「しらけちまうぜ」をフックアップした事で、90年代以降スタンダードになったアルバム。はっぴいえんど以来の細野晴臣/松本隆というソングライティングチームが結成され、エイプリルフールの「タンジール」を改作した「流星都市」や、ヒッピーからイッピーへと変わり果てた人々を揶揄し、スロウなソウルへとリレコした「機関車」、はっぴいえんどのソウルサイドをフォーカスした「ふうらい坊」と「氷雨月のスケッチ」、鈴木顕子時代の矢野顕子作曲の「つるべ糸」などを含みながら、細野曰くプラクティスな楽曲というタイトル曲のR&Bナンバー「ほうろう」、メロウな鈴木茂のギターのカッティングが印象的な「ボンボヤージュ波止場」、キャロル・キングの「You’ve got a friend」を文字った「ゆうがたラブ」など和製ソウルの名盤。

・かまやつひろし/あゝ、我が良き友よ

一曲のみの収録ながら細野/松本のソングライティングチームによる「仁義なき戦い」が収録されている。スライ・ストーンや、ラベルの「レディマーマレード」でのミーターズのようなファンクサウンド。

・吉田美奈子/フラッパー

70年代シティポップの名盤として外せない一枚。山下達郎チームとティン・パン・アレーチームが半々を占めている屈指の名盤。矢野顕子による「かたおもい」の円熟味を帯びたアンサンブル、松任谷正隆のファンキーなシンセとクラヴィネットが鳴り響く「ケッペキにいさん」、エギゾチズムとオールドタイミーな雰囲気の「ラムはお好き?」、吉田美奈子は嫌悪しながらも素晴らしいテイクの大瀧詠一の代表曲「夢で逢えたら」と今聴いても古びない名曲が並ぶ。とにかく録音が素晴らしいアルバム。その後も続く吉田/山下のソングライティングチームも見逃せない。ティンパンアレーではないが「朝は君に」などシティポップな名曲も素晴らしい。

・いしだあゆみ&ティンパンアレーファミリー/アワーコネクション

アルバムの半数を細野晴臣が作曲者としてクレジットされており、ティンパンアレーが演奏で参加した一枚。シンコペーションされたティンパンアレーの演奏に対して、オンビートなノリのいしだあゆみの歌唱は歌謡曲な雰囲気があるものの、シティポップの名盤として知られている。

・久保田麻琴 / バイバイベイビー

後にハリー&マックとして活動も行う久保田麻琴のバイバイベイビー。ドクタージョンのようなニューオリンズサウンドを日本語で表現した名曲。クロマチックな半音下降のメロディなど、細野のメロディメイカーが発揮されている。

・Ronnie Barron/Smile of my life

細野プロデュースによるドクタージョンの盟友、ロニー・バロンのセカンド。ニューオリンズで録音されたミーターズとドクタージョンがバックを務めた3曲以外は、細野プロデュースによる東京録音。コプロデューサーとして久保田真琴も参加している。全体的にニューオリンズサウンドのアルバムではあるものの、アルバム後半の「Doing Buisiness with the Devil」のようにマリンバの響きが泰安洋行を髣髴とさせたり、「She does it good」のようなアーバンファンクが聴き所。

・大貫妙子/サンシャワー

細野はベーシストとして参加。スタッフのクリストファー・パーカーが来日の合間を縫ってレコーディングに参加。当時アルバムセールスが芳しくなかった大貫は好きなことをやろうと、アレンジャーに坂本龍一を迎えて挑んだ一枚。セールス的には惨敗となったものの、シティポップを代表する一枚となった。「くすりをたくさん」(今聴くとかなり危うい歌詞)、「都会」での細野/パーカーのリズム隊の心地よい演奏は聴きどころ。

・ノリオマエダ・ミーツ・ティンパンアレー/ソウル・サンバ

前田憲男がティン・パン・アレーをバックにブラジル音楽に挑んだ一枚。アントニオ・カルロス・ジョビン、ジョルジ・ベン、ルイス・ボンファなど定番曲を取り上げている。鈴木茂のスライドギターや、ブラジル音楽とは異なる拍の取り方に若干違和感があるものの、ブラジリアンフュージョンの名作として仕上がっている。

・大瀧詠一/ナイアガラムーン

盟友大瀧詠一のナイアガラムーンでのティン・パン・アレーの演奏はニューオリンズファンクや、メレンゲ、ロカビリーなど最大限に魅力を引き出している。大瀧作品のほとんどが昨今のシティポップブームから外れてしまっている状況に違和感を覚えながらも、ここでの楽曲はレアグルーヴというせせこましい評価を退けるような芳醇さがここにはある。

・ティン・パン・アレー/キャラメルママ

キャラメルママからティン・パン・アレーへと至る道程を記した一枚であるものの、それそれのソロを寄せ集めたような内容になってしまっていて、それぞれの音楽志向の違いが顕著に表れてしまっている。細野は「CHOO CHOO GATTA GOT '75」の再録と「YELLOW MAGIC CARNIVAL」、 「Ballade Of Aya」の3曲が収録されている。トロピカル3部作の最中の作品のため3部作に入っていてもおかしくはない曲だと思う。アルバム全体としては他に鈴木茂作の「はあどぼいるど町」、「ソバカスのある少女」といった名曲があるものの企画色が強く、彼らの良さがあまり発揮されていないようにも感じる。

・ティン・パン・アレー/
ティン・パン・アレー2

演奏面の凄さは感じられるものの、より企画色が強まってしまいリリースする意味があったのだろうかと勘ぐってしまう。インストメインというのもそういった見方にさらに拍車をかける。

細野晴臣の当時の細かな年表が記されたサイトもあるのでこちらも参照されたし。


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