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第30話『安定を重視して就職したつもりの会社が・・・ブラックな地球防衛隊?だった件』

【研修第2週 能力者補トレーニング4】

 出発地のカプセル近くから亜香里が能力チカラで見たとおり、悠人と英人は猿たちの砦で籠のようなオリの中に閉じ込められていた。
「悠人さぁ、なんで俺たちは猿に捕まって、籠の鳥をやっているわけ?」
「それは俺も聞きたい。『組織』の指示通りに、変な腰蓑スタイルに着替えてカプセルを出て林を抜けたところで、騎乗して武装した猿に捕まるとか、まるで『猿の惑星』だよね」
「女子3人はどうしているんだろう? カプセルの中で気持ち良さそうに寝ていたから起こさなかったけど、大丈夫かな?」
「小林さんがいるから大丈夫じゃない? いざとなったら、すごいパワーを出しそうだし」悠人は『組織』のトレーニングテストとトレーニングで亜香里をそういう風にしか見られなかった。
「そうだね。ターミネーターもタイラントも結局、彼女がやっつけたからね。ここでも猿の軍団を相手して思う存分能力を発揮して、トレーニングが終了になるのかな?」

 空中にぶら下がった籠の中で2人が話していると、砦の外が騒がしくなってきた。亜香里たちがブラスターで、砦の外を警備している猿たちを次々に倒している。
「とりあえず、こんなところかな? お猿さんたちにはしばらくの間、眠ってもらいましょう。門はどうやって開けようか? ブラスターの出力を上げれば破れると思うけど、ブラスター光線が突き抜けた先に、誰かいるとまずいよね? 大怪我をするかもだし」
「亜香里、任せて。門が開いたら猿が撃ってくると思うから、用心してね」
 詩織はライトセーバーを起動させ、門に近寄り十字に門を切ると、あっけなく門は破られた。砦の中から猿が銃で撃ってくるが、原始的なライフルなのか散発的にしか弾が飛んでこない。亜香里たちはスタンモードのブラスターを乱射しながら砦の中へ入り、猿軍団を制圧した。
「亜香里が言った通り男子2人は籠の鳥みたいね。今助けるから待ってて!」
 そう叫んだ詩織に、近くの建物の陰から弾が飛んできて右足に当たり、詩織はその場にバッタリと倒れてしまった。優衣が隠れていた猿めがけてブラスターピストル立て続けに撃ち放ち、亜香里は詩織のところへ駆け寄る。
「ちょっと油断したけど、このジャンプスーツのおかげで、弾ははじかれたみたい。当たった衝撃を全部は吸収しきれなかった様で太腿が打撲したみたいに痛い」
 詩織が少し顔をしかめながら状況を説明する。
「その程度で良かったよ。隠れている猿がまだ居そうだから、早くここから出ましょう。男子2人が腰蓑のままじゃ危ないから、詩織が持ってきたジャンプスーツを彼らに渡すね」
 詩織はカプセルの中を調べた時に見つけた男子2人のリュックをバイクに積んで持って来ていた。リュックの中には、彼らが着替えた後のジャンプスーツが仕舞ってある。(几帳面ね、亜香里だったら絶対、脱ぎっぱなしよ)そう思いながら、カプセルの中から持って来ていたのである。
 亜香里は気持ちを集中させ、門の外にあるバイクから2つのリュックが籠の中の2人に届くように念じると、リュックは空中に浮かび上がり、彼らが捕らえられている籠の上まで上がってから籠の中に落ちた。
「ここから逃げるまで危ないから、すぐにジャンプスーツを着て!」亜香里から言われるがままに、2人はすぐにジャンプスーツを身にまとった。
 着終わると同時に隠れていた猿たちからの発泡が再開し、籠にも当たり始める。
「このままだと危ないから籠を吊っているロープを切ります。落ちたときの衝撃はジャンプスーツがなんとかすると思う」詩織はライトセーバーでロープを断ち切った。
 5メートルほどの高さから籠が落ちて粉々になったが、悠人と英人は直ぐに立ち上がり、亜香里たちのいるところに駆け寄った。
「一時はどうなるかと思ったけど、救援ありがとう」
「助かったよ、猿が結構凶暴でさ」悠人と英人が礼を言う。
 亜香里が2人にブラスターピストルを渡しながら、説明する。
「すぐにここを出て海岸線へ向かいます。ただ移動手段は私たちが乗って来たバイク3台しかありません。どうしたものかと思っています」説明をしながら、猿が隠れている方向にブラスターを撃ち続け、亜香里たちは砦の外まで出て来た。
「まだ状況が把握出来ていないけど、その海岸線までは遠いの?」悠人が、これからやるべきことの確認をする。
「バイクに付いているGPSナビだと、ここから数十キロってところです。バイクだと問題ないけど、歩くにはキツイ距離。猿が追いかけてくるかも知れないし」
「猿が持っている馬を奪えば何とかなりますね。警備詰所の横にある馬小屋から馬を奪います『猿の惑星』的には馬で行くのが正統派でしょう?」
「それで良いけど、馬に乗れるの?」
「ここの馬はわからないけど、たぶん大丈夫。子供の頃、乗馬を習っていたから。でも英人は乗ったことないよな?」
「アイアンホースは乗るけど、生身の馬は乗ったことないんだ。どうしよう?」
「鞍の付いた馬だったら、私、乗れます!」
「「「「エェーッ!! 」」」」優衣の発言に一同驚く。
「幼女が馬に乗れるの?」特に亜香里が驚いた。
「みなさん揃ってバカにして、なんですか! 小さい頃から父に連れられて、乗馬に通っていたんです」
 また優衣の意外な一面を見て驚く亜香里と詩織。
(幼女のくせに、いろいろ乗るのは得意なんだ、あとでイジろう)次の優衣イジリをたくらむ亜香里である。

「ではそれで決まりね。萩原さんと優衣は馬小屋で馬の調達。残りは砦の上から猿が撃ってこないか注意して、撃って来たらすぐにブラスターで撃ち返して、近寄れないようにする!」亜香里の掛け声で、5人はすぐに動き始めた。
 時間を置かずに馬小屋から悠人と優衣が馬に乗って出て来たので、そのまま止まらずに詩織の先導で海岸線を目指す5人。
 亜香里と英人は後方に注意し、猿影さるかげが見えるとブラスターで威嚇射撃をしながらバイクでついて行く。
 一時間ほど走ったところに小さな川があり一行は一旦止まり、馬に水を飲ませ休憩を取りながら、亜香里たちはカプセルから持ってきた携行食を食べることにした。
「ここまで来れば、猿は追ってこないと思います(映画の)設定では、この辺は猿社会で立入禁止地区ですから」亜香里はサングラス風双眼鏡で、走って来た道を確認しながら携行食を食べ続ける。
「携行食なのにわりと美味しい『組織』にはグルメがいるのかな?」どうでも良い独り言を言いながら、後方確認をする。

「ところで亜香里さんたちはなぜジャンプスーツを着ているのですか?『組織』の指示は着替えること、でしたよね?」
「萩原さん、私も同じこと聞いて亜香里さんに言われたんです『鵜呑みにするな!』ということわざですよ」
 悠人が(それは、ことわざじゃないだろう)と思いながら助けられた手前、優衣の言うことを受け流す。
 しばらく休憩を取った後、亜香里の「そろそろ出発しましょう」の合図で5人はまた走り始めた。
 三十分ほどすると海岸線にたどり着き、そこからは海岸線沿いに進んで行く。日が傾き、周りの景色が黄金色こがねいろに変わり始めた頃、ゴールと思われる『自由の女神像』の頭部に到着した。
「到着しました。でもここからどうすれば良いのか分かりません」亜香里はキッパリと宣言する。
「ここがゴールだとすれば自由の女神像のどこかに、迎えを呼ぶスイッチがあるんじゃないですか?」
「そう考えるのが、妥当よね。暗くなる前にスイッチを探そう」
 砂に埋まった自由の女神像の頭部、展望台を調べることにする。
 展望台のガラスは当然なくなっているので、砂まみれになっている室内に入り中を探してみる。
「展望窓の近くの天井に、周りと違和感のあるスロットがあります。これって先週、研究所の屋上にあったものに良く似てます。これが使えそうです」優衣はバッグから用途不明のカードを取り出しスロットに挿入すると、自由の女神像の冠部分が光り点滅を始めた。おそらく迎えを要請する信号を送信しているのであろう。
「前回に続き優衣がビンゴよ! 最後の脱出キーは幼女担当ね」
「亜香里さん! だから幼女じゃありませんから!」

 亜香里たちは、自由の女神像の側の砂浜で『組織』の迎えを待つことにした。
 悠人と優衣が乗ってきた馬はどこかに行ってしまったようだ。
 悠人と英人が、猿に掴まってからの話をする。
「猿の連中、バリバリのネイティブ・イングリッシュでした」
「一体ここはどこなんだ?って思いましたよ」
「相手が猿であることも、ることながら、日本語が全く通じずに英語だけしか使えないと知ったとき、語学的にはこちらが猿か? と思いましたね。最低限の英語で受け答えはしましたけど」
「ふーん、やっぱり語学って、社会人になってからも重要なのね」英語があまり得意でない亜香里は、妙なところで感心する。
 男子2人は『猿の惑星』での猿との会話について話をしているだけなのだが。
 海の彼方に太陽が沈み暗くなってしばらくすると、遠くからヘリコプターのプロペラの音が聞こえてくる。
 ライトを点灯させたヘリコプターが近づき、ぶら下げている三角錐型のカプセルを地面に設置しホバリングしている。カプセルのハッチが開き、明るい室内が見えてきた。
「来た時と同じものに乗って帰るのね」詩織が最初にカプセルに入り、4人が続いてカプセルに入って行く。カプセル中央のディスプレイに新しいメッセージが表示されていた。

『トレーニング、お疲れ様でした。これから研修センターに戻ります。座席に座りシートベルトを締めてください』

「行きと同じですが、トレーニングは終了してますから、これには従っても良さそうですね」今回、指示通りの腰蓑姿で外に出て、猿に捕まった悠人が確認する。
 全員シートベルトをつけると、自動的にハッチが閉まり少し振動がしてカプセルが上昇を始める。
「今回のトレーニングって、なんだったんだろう? 悠人と俺は猿に捕まっただけだし」英人が半分愚痴モードで話す言葉に、優衣が反応する。
「お二人の状況はよく分かりませんが、亜香里さんは皆さんの状況が遠くから見えたり、バッグを浮遊させて籠の中に届けたり、だんだんジェダイっぽくなってきました。詩織さんはライトセーバーの扱いを習得しているし、私は馬に乗っていてコミュニケーションができました」
「馬と話が出来るの!」亜香里は驚き、優衣に付ける枕詞『幼女』を言い忘れている。
「話そのものではないのですが意思疎通が図れるというか、相手は馬なので難しいことを考えているわけではなく、走っていて『水が飲みたい』とか、海沿いを走っていて『砂地は硬い道(たぶん石畳)より足が楽』とか思っていることが聞こえてきました。『もうちょっとしたら川で水が飲めるよ』とか、『しばらく砂地を走るよ』と思いを送ると『分かった』と言う気持ちが返ってくるんです。さっき馬がいなくなる時は挨拶みたいなものをしていました」
「優衣は動物とテレパシーが出来るの? その能力すごいじゃない? 牧場に行って『どの牛が美味しい?』って牛に聞いたり、生け簀のある和食屋さんで『どの魚が生きが良い?』って聞けるよね?」
「亜香里さん! それブラックユーモア過ぎです! そんなことを聞いたら、牛さんたちが徒党を組んで攻めてきたり、生け簀でお魚さんが暴れます!」
 亜香里と優衣がくだらない話を続けていると行きと同じように、ビージェイ担当が機内の空気を調整して全員を眠りにつかせ、ヘリコプターから貨物機への輸送の手配を整えていた。