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第54話『安定を重視して就職したつもりの会社が・・・ブラックな地球防衛隊?だった件』

【研修最後のトレーニング5】

 優衣たちは、ストームトルーパーが街中に部隊を展開する前に行けるところまで行き、戻りながら指導者の高橋氏を探した方が敵と鉢合わせをせずに済むと判断し、タイファイターと輸送船が着陸した街奥の宇宙港まで近付いてみる。

 建物の陰から様子を伺う。
「結構な数ですね」
「ストームトルーパーが50体くらい。ベーダー卿は居ないようですが」
「ダース・ベーダーがいたら、いろいろな意味でまずいです。覚醒した亜香里さんと戦ったら、この辺一帯が私たちも含めて全員生きて出られなくなります」
「小林さんは覚醒したのですか?」悠人が優衣に(ほんとに?)という顔で聞く。
「『覚醒』と言ってしましましたが、実際はどうなんでしょう? よく分かりませんが『猿の惑星』では遠くの様子が見えたり、お二人のリュックを浮かべて移動させるくらいでしたよね? あれから2週間経ちますが、稲妻なんてトップクラスの能力者が使う技術でしょう? 急にチカラが強くなって大丈夫なのかが心配。それにこれってスター・ウォーズ的には暗黒面のワザですよね? 先週末、亜香里さん宅近くの異常現象も大変だったし、どうしちゃったんだろう?」
 優衣は(亜香里さんのことだから、たぶん大丈夫)と自分に言い聞かせながらも心配している。
「『組織』は能力者の技術にそのような『良い』『悪い』は、無いと言いませんでしたか? さっき藤沢さんが小林さんを止めたのは、チカラの使いすぎを心配をしたからだと思います。使いすぎて暴走するとか」先週のトレーニング中、悠人はホテル跡で詩織と話をして彼女の考え方が少し分かってきたようだ。
 船内から出てきて整列したストームトルーパーが動き始めた。
「急ぎましょう! 見つからないように来た道を戻りながら、高橋さんを探しましょう」3人は音を立てずバイクをUターンさせ、左右の建物の窓を覗きながら移動を始めた。


「この街に着いてから高橋さんを探そうとしていたところです。あとの3人は高橋さんを探しに街の奥まで入って行きました」亜香里が高橋氏に現状を説明する。
「そうですか、先まで行ってしまいましたか」
「奥にはタイファイターや輸送船が着陸していましたが、大丈夫なのですか?」
「大丈夫も何も、トレーニングですから掴まってしまえば、そこで終了です」
「そのように説明されればトレーニングを受けている方としては何も言えませんが、私たちがここで高橋さんに合流できたので『トレーニングはここで終了』ではないのですか?」
「今までのトレーニングは、どうでしたか?」
「今までのトレーニングでは高橋さんがおられなかったので『組織』の迎えを呼んで、帰路について終了でした」
「では、今回もそのようにした方が良いと思います。トレーニングをしていて『指導者に会うのがゴール』というのはプログラムとして、おかしくありませんか? 私はみなさんの能力を向上させスキルを付けていくためのアドバイザー的な立場ですから、主体はみなさんにあります。私から何か命令することはありません。みなさんが行き詰まったときに違う考え方や別の方法を提案したり、ヒントを出したりすることが私の役目です。更に付け加えれば、みなさんが危険な目に合わないよう気を配ることくらいです」
「では、早速教えて頂きたいのですが、ここまで来てこのトレーニングのゴールが分かりません。ヒントをいただけませんか?」先ほどから一方的に亜香里が聞きまくる。
 詩織はまだシビれが残っており、普通に座っているのもキツそうだ。
「『組織』が作ったトレーニングプログラムですから、今回だけ特別と言うことはありません。今までと同じように迎えを呼ぶ装置を探して迎えを呼んで下さい。ここに来るまでにイベントをこなしてきたようですから、この街をゴールと考えて良いと思います。少しヒントを与えすぎたかな?」高橋氏からヒントをもらい、考える亜香里。(この街がゴールで迎えを呼び出すとしたら、タイファイターや輸送船が到着した宇宙港よね。でもストームトルーパーとかいるから、安易に近寄れないじゃない?)
「ちょっと、詩織と相談します」高橋氏と離れたボックス席に2人で座り、額を寄せる。

「亜香里と高橋さんの話を聞いていたけど、なんだかピリッと来ないね『ゴールはこの街』というヒントはもらったけど、指示命令は無いから今まで通り、うちらで考えて動くしかないね」
「そうね。高橋さんに会えたから『ハイ、トレーニング終了!』を期待していたけど、そんなに甘くなかったよ。迎えを呼び出す場所はこの街の宇宙港しかないと思うの。たぶん優衣たちがそっちの方向に行っているから、私たちもそれを追いかけようと思うけど」
「そうすると、ストームトルーパーに遭遇して戦いになるよね?」
「それは仕方がないよ。お互いにスタンモードで撃ち合うから死なないとは思うけど、撃たれたら詩織みたいにシビれて気絶する」
「そこで、トレーニング終了?」
「そうならないようにゴールまで頑張るしかないよ。詩織はシビれの方はだいぶ直ったの?」
「もう大丈夫、バイクライディングは無免許の亜香里より全然うまいよ。片手でブラスターをガンガン撃ちながら、ウィリーも出来そう」
「では指導者の高橋さんを残して出発しますか?」

 2人はボックス席から立ち上がり、高橋氏の前に立ち、ここから宇宙港に向かうことを伝えた。
「そうですか、それが二人の判断であれば了解しました。出発する前に、お二人に話しておきたいことがあります」
 亜香里と詩織は(稲妻を落としたことだ!)と思いながら、高橋氏の話を待つ。
「今日まで、みなさんのトレーニングに同行できず、申し訳ありませんでした。ここにいないメンバーにも後で伝えようと思います。先ほどお話ししたとおりトレーニングの中で私が出来ることは限られており、私がアドバイスをしすぎるとみなさんの邪魔になるので、結果として私が居ない状況でここまで来られたのは、トレーニングとして成功だったと思っています」
「中でも飛躍的に能力を高めた、小林さんに先輩の能力者として助言します。一つ前のトレーニングで、小林さんが海竜に特攻するように立ち向かいました。これから能力者として活躍していくなかで、あのような無謀な行為はしないよう気をつけて下さい」
 亜香里も詩織も(えぇー! そこなの?稲妻じゃないの?)驚く。
「あの行動については他のメンバーからもあとで、たしなめられました。とても反省しています」
「そうであれば結構です。では気をつけて行ってきて下さい」
「先ほどサンドクローラーを稲妻で破壊したことは、お咎め無しですか?」
「あれですか? 少しやり過ぎとは思いますが、撃たれた仲間を助けに行くために敵を排除した、と言う意味では問題ないと考えます」
「(そうなんだ、あれくらいは『組織』的には、ありなんだ)と言うことは、あの能力も気をつけて使えば大丈夫ということですね?」
「その通りです『少しやり過ぎ』とは言いましたが、今回は攻撃するターゲットがハッキリしていましたから『組織』としては問題ありません。目的や目標があやふやなまま攻撃をしたり、影響を及ぼしたりする行動が、能力者としては一番問題です。ミッションを遂行する上で関係のないところへ、チカラを及ぼすことが能力者として一番慎むべき行為です」
「先ほどの海竜の件で補足説明すると、あれが良くなかったのは、たまたま小林さんがブラスターを海竜に命中できたから良かったものの、失敗して海竜に飲み込まれていたら大変でした。特攻するほどの激しい気持ちで立ち向かい、それに失敗したときの心の状態を考えてみて下さい。パニック、絶望、生存への渇望、いろいろな意識が一緒くたになり『自分が置かれた状況から逃れよう』あの時であれば『やり方を問わずに海竜の中から逃げ出したい』と思うはずです。そのような状態に置かれた能力者は周りを見る余裕が無くなり、無意識に最大限の能力を発揮してしまい、場合によっては一つの世界を消滅させてしまいます」
「「 世界を消滅させる!?」」
「言い方が適当ではないですね。説明しにくいのですが、これまで皆さんが経験したことから近いもので説明すれば『時空を歪める』と言ったところでしょうか。これ以上の説明をしても消化不良になると思います、とりあえず目の前のトレーニング終了に向けて頑張って下さい」
「分かりました。では失礼します」
 亜香里と詩織は、髙橋氏から聞いたことを頭の中で思い巡らせながら、酒場に乗り入れていたバイクに跨り外へ出て宇宙港に向かって走り始めた。