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第51話『安定を重視して就職したつもりの会社が・・・ブラックな地球防衛隊?だった件』

【研修最後のトレーニング2】

 今回のトレーニン場所は『恐竜の島』のように足場の悪いジャングルではないが、砂地が続くので5人は亜香里を順番の真ん中にしてバイクを走らせる。日本国内のように道幅を気にしなくて良いので、適当にバラけながら縦列で走って行った。
 先頭の詩織はGPSを最大広域にして周りの様子を確かめてみる。
「周りには何もないねー。GPSが正しければ北に向かっているはずだから、しばらくこのまま走ろう」
 今回『組織』が支給した装備は、ジェダイの服装と武器だけなので、インターカムの様な便利な道具はない。
「次に停止したとき、うしろからでも分かるハンドサインを決めておいた方が良いね」詩織が独り言を言う。
「話しながら走れないのは、つまらないなぁ」亜香里も独り言を言う。
 彼女は初めてのタンデム乗車が詩織のBluetoothヘッドセット付きで、次のロングライディングが『組織』のインターカム付きだったので、バイク走行は話をしながら走るのが普通だと思っている。

 しばらく走ると前方にうっすらと小さな建物が見えてきて、亜香里が歓声を上げる。
「あっ? あれは! 水分農場よ! ルーク・スカイウォーカーが育ったところ!」彼女の頭の中はスター・ウォーズ一色になっている。熱狂的な映画ファンが巡礼に行く撮影現場跡地見学そのもの『組織』が行っているトレーニングのことなど頭からすっ飛んでいる。
 先頭の詩織がスター・ウォーズのロケ地跡、水分農場設備横にバイクを停め全員バイクを降りてみることにする。
 亜香里はバイクを降りると、走って建物の中に入って行く。
「あーっ! 映画と同じだ。すごい! すごーい!」
「亜香里、落ち着け。うちらは、ここにトレーニングで来ているのよ」詩織がやんわりと注意すると、一拍おいて亜香里が答える。
「分かりました… 少し落ち着きました。今までスクリーンやディスプレイで見ていたものが、急に目の前に現れたので舞い上がってしまいました」
「亜香里さんの気持ち、すごく分かります。俺もスター・ウォーズが好きですから。ただ不思議なのは、この建物は ep4 でストームトルーパーに焼き討ちにされて叔父夫妻が亡くなったから、ルーク・スカイウォーカーがこの星を離れてジェダイを目指すようになったのですよね? なぜ、この建物はこんなにきれいなのですか?」
 亜香里ほどではないが、スター・ウォーズが好きな英人が疑問を呈する。
「加藤さん、もしかして未だ ep9 を見ていないの?(英人「ええ、観に行こうと思っていて見逃しました。配信待ちです」)そうですか、ではネタバレしない程度に説明します。ラストシーンでレイがルークとレイアのライトセーバーをここら辺りに埋めるのです。その時、この建物はきれいになっているのですよ。ファンの間ではここがきれいになった理由に諸説ありますが、ep9 でルークはレジェンドなので、レジェンドが育ったところとして記念碑扱いで修復されたのでは? という説を私は支持します。アッ、そうか! ということは、ここはチュニジアだ! 忘れていました」
「亜香里、なんでここが北アフリカなの?」
「全部とは言いませんが、スター・ウォーズの砂漠風景、特に ep4 のタトゥーインのシーンのほとんどはチュニジアで撮影されています。今もセットというか建物が残っていて、ツアーが組まれたりしています」
「それが本当だったら、パスポートの不所持とかいろいろ気になることはあるけど『組織』のトレーニングだし、まずトレーニングを終わらせましょう。そうしないとお迎えも来ないし」
「詩織さんのその指摘、すごく気になります。今までは恐らく米国か米国領の映画セットやロケ地だったり、南半球の孤島だったから大丈夫でしたけど、チュニジアだとしたら少しバイクで走れば、現地の人に会いそうじゃないですか? 会ったとしてもアラビア語は、話せませんし…」
「萩原さんが心配するのも分かりますが、この辺はスター・ウォーズの聖地としてファンの間では世界的にも有名ですから、私たちがこんなジェダイ風の格好をして、バイクに乗っていれば、現地の人が見たとしても『また、物好きなファンが見に来てるよ』くらいにしか思われません、放っておいてくれると思います」
「これ以上、ここで話していても仕方ないから先に進みませんか? 現地の警察に職務質問を受ければ、パスポート不所持で拘束されて、不可抗力だから仕方なくトレーニング終了、掴まらずに走り続けて『組織』が作ったイベントに当たってクリアできれば、お迎えが来てトレーニング終了、どちらにしても先に進めば、何とかなりますよ」
「そうですね、詩織さんが示した2つのシナリオのどちらかになるのは確実なので出発しましょう。ここに来て、未だ何をやれば良いのか分からないのが、一番悩ましいのですが」
 悠人の発言で5人は再び出発する。
「あっ! ハンドサインの打ち合わせを忘れてた、まあいいか」
 亜香里に感化されたのかトレーニング中の詩織もだんだん適当になってきた。

 しばらく走ると平地の両側の土地が、徐々に高くなり、地形が渓谷の様な形になってきた。走り進むうちに、亜香里たちは渓谷の谷間を走る形となる。
「なんか出て来るよ! 警戒! 警戒!」真ん中を走る亜香里が、大声で周りに叫ぶ。
(この景色は、ep4 よ。渓谷のどこかからサンド・ピープルが狙ってくるはず。『組織』のジャンプスーツとヘルメットじゃないから、この服装で撃たれたらマズイなぁ)亜香里がそう思いながら走っていると、渓谷の先の方で一番狭くなっているところが急に閉じられた。
 よく見ると、両側にある大きな岩の陰からサンドクローラーが出現し、道を塞いでいる。
 電動オフロードバイクを停止させる亜香里たち。
「おかしいなぁ? サンドクローラーはジャワ人が持っていて、商売のためだけに移動させているはずだし、ジャワ人は商売で人間を騙しても、ちょっかいをかけたり、人間の邪魔をしたりしないはずなんだけど?」
「でも、結果的に私たちの通行の邪魔をしているじゃない?」
 亜香里たちが通行止めを食らって、どうしたものかと思っているとサンドクローラーのブリッジ部分から銃を持った、通称サンド・ピープル、タスケン・レイダー姿をしたアクターが数名出てきて、ライフルで亜香里たちに狙いを付けようとしている。
「撤収! 撤収! 撃たれたらアウトよ」
 亜香里の叫び声で、5人は今まで来た方向にUターンしてフルスロットル。
 逃げる5人のそばを、タスケン・レイダーが撃ったブラスター・ライフルで砂が舞い上がる。

 亜香里たちはサンドクローラーからかなり離れたところまで来て、一旦停止した。
「この距離でも安全じゃないけど、彼らは銃の扱いがうまくなさそうだから、この辺で大丈夫かな」
「イベントが発生しましたが『彼らと戦え!』が、今回のトレーニングじゃないですよね?」英人が確認する。
「うーん、勝てないこともないと思うけど、この格好だと撃たれたら怪我をしますからね。トレーニング的としてそれはないと思うの」
「いっそのこと亜香里さんの能力でサンドクローラーを、ズズズっと脇にどけてくれませんか? この世界だと出来そうな気がしませんか?」
「加藤さん、軽く言ってくれますねぇ。ep9 のレイの様な能力があれば宇宙船だってぶん投げちゃうんですけど。彼女はパルパティーンの孫ですから出来が違います」
 ジェダイと自分の出来を比べてどうする? 亜香里。
「えっ! レイって、パルパティーンの孫なんですか? まだ見てないのにネタバレしないで下さいよぅ」
「そっかー、加藤さんは未だ見てなかったのね。今のは聞かなかったことにして下さい。それにしても、どうしましょう? 手詰まり感アリアリで打つ手なしですけど…」
 進む予定だった渓谷から後戻りした亜香里たちが困っていると、目の前の空間におぼろげな画像が現れてきた。