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書評に基づいた新刊書のご案内

某社の知財から注意があり、皆さんがよく読まれていた書評の掲載は辞めている。
週末、読書欄読んでいると「これは紹介したいかも」という本がチラホラ。
Amazonで見てみると、書評とほぼ同じ内容の紹介が読める。

「では、新聞に載せている書評は何なの?」と思う。
(違うところは評者の個人的体験や思い入れとか)
Amazonの紹介を添え、先週末気になった本をご紹介😊


ネガティブ・ケイパビリティ 答えの出ない事態に耐える力

「負の力」が身につけば、人生は生きやすくなる。セラピー犬の「心くん」の分かる仕組みからマニュアルに慣れた脳の限界、現代教育で重視されるポジティブ・ケイパビリティの偏り、希望する脳とプラセボ効果との関係…教育・医療・介護の現場でも注目され、臨床40年の精神科医である著者自身も救われている「負の力」を多角的に分析した、心揺さぶられる地平。
最も関心をもつネガティブ・ケイパビリティとは何か。せっかちに答えをもとめ、マニュアルに慣れた脳の弊害……教育、医療、介護でも注目されている、共感の成熟に寄り添う「負の力」について、初の著書。

ネガティブ・ケイパビリティ


日本のカーニバル戦争――総力戦下の大衆文化1937-1945

総動員令が発令されても、「帝国臣民」は息をひそめ、ただ受け入れたわけではない。統制が厳しくなるにつれ、大衆は無遠慮、不謹慎、価値倒錯的な行動さえとるようになり、メディアもそれを煽ったのだ。日中戦争の従軍記者は、戦場での「百人斬り競争」をこぞって報じ、銃後はその記事に飛びついて、文字通り「消費」した。「スリル」という日本語も、この頃生まれた。
20世紀初頭のロシアの文学理論家バフチンは、このような状況を「カーニバル」と呼んだ。社会の通常のルールが一時的に適用されなくなり、既存の階層構造が壊されて平準化する、過渡的な瞬間のことだ。そこでは強者が貶められ、弱者や一癖ある者がコミュニティの「カーニバル王」に祭りあげられる。こうして「カーニバル戦争」は「大衆に、鬱積した不満を吐き出すセラピー効果のある通気口を提供」した。
その象徴的な存在として本書が取り上げるのは、(1)「スリル・ハンター」になった従軍記者、(2)高給取りの軍需工場の職工、(3)兵隊(帰還した傷病兵を含む)、(4)映画スター(総力戦のチアリーダーも務めた)、(5)少年航空兵(戦争末期には特攻隊員に)。
著者は日本の近現代史を専門とする、アメリカの気鋭の歴史学者。当時の新聞雑誌からの膨大な量の引用(軍国少年の投書や柳屋ポマードの広告まで)を土台とした、「消費者=臣民」の具体的な洞察に、読者は引き込まれるだろう。

日本のカーニバル戦争


フォレスト・ダーク (エクス・リブリス)

見失った自分と向き合い
変容を遂げる再生の物語

 ニューヨークで暮らす作家のニコールは、仕事も家庭生活もスランプに陥っている。閉塞感のなか、現実だと思っているいまの暮らしは夢なのではないかと思いつめ、かつて現実と非現実が交錯する経験をしたテルアビブのホテルに飛ぶ。ひょんなことから”イスラエルでのカフカの第二の人生”にまつわる仕事を依頼され、夢と現実が交錯する体験をすることに。一方、同じくニューヨークで弁護士として成功してきたエプスティーンは、高齢の両親を相次いで亡くしたことから、盤石なはずの人生にふと疑問を感じるようになる。仕事にも趣味にも精力を注ぎ人生を謳歌するうちに、なにか大事なものを見落としてきたのではないか? 彼はすべてを捨て、生まれ故郷テルアビブへと旅立つ。
 自分探しなど、若者の専売特許と言うなかれ。長く生きてきた大人だからこそ、人生の分かれ道で選択を重ねていくうちに、自分自身を見失ってしまうこともある。本書後半、それぞれの自身と向き合う荘厳な砂漠の場面は、何かが昇華されるような爽快感がある。喪失と変容をめぐる瞑想を、深い洞察と挑戦的構成で描く大人の自分探し。柴田元幸氏推薦!

フォレスト・ダーク


Slowdown 減速する素晴らしき世界

「スローダウンは歴史の終わりでも、救いの到来でもない。ユートピアに向かっているわけではないが、ほとんどの人の生活は良くなるだろう。住まいも教育も改善し、過酷な仕事も減る。私たちは安定へと向かっている」ダニー・ドーリング(p.28より)

本書『Slowdown 減速する素晴らしき世界』は、現代を生きる私たちを絡め取っている代表的な迷信の 一つを丁寧に解きほぐしてくれます。その迷信とはすなわち、あらゆるものが加速している。そして加速はとてもよいことである。というものです。

400ページ以上にわたって、著者は、さまざまな統計データを用いながら、ごく少数の例外を除いて、世界におけるありとあらゆるものはむしろ減速していることを示しています。しかして、全体として本書が主張しているのは、先述した迷信の真逆、すなわちあらゆることがスローダウンしている。そしてスローダウンはとてもよいことである。というものです。
本書の際立った特徴を一つ挙げるとすれば、本書が「ある領域についてのスローダウン」ではなく「あらゆる領域についてのスローダウン」について述べている、非常に珍しい本だという点です。

山口周(「日本語版の解説」より)

Slowdown


MOH