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第40話『安定を重視して就職したつもりの会社が・・・ブラックな地球防衛隊?だった件』

【研修第3週 能力者補トレーニング3】


 亜香里はカプセルのあった場所を眺め無言のまま考え事をしているようで、英人と優衣は呆然としていた。
 視線をカプセルから周りのジャングルへ向けたあと、英人と優衣の方を向く。
「そういうシナリオですか、困りましたね」
「亜香里さん、どういうシナリオなのですか?『猿の惑星』の時は、丘に登ってから降りてきても、カプセルはそのままでしたよね?」
「あのとき私たちは『組織』の指示するままに、裸同然の格好で丘へ登ったでしょう? そのままだとマズイかなと思い、カプセルに戻って装備を整えることが出来たから、そこから先のトレーニングは楽に終えられたの。『組織』は今回『今の装備で十分』と考えていると思うの『準備は整えたから、あとは自分たちで上手くやりなさい』と。それが今回のトレーニングの目的じゃないのかな?」
 亜香里の説明に頷きながら英人が口を開く。
「言うとおりかも知れません。前回、悠人と俺は先走って無防備のままの格好で猿たちに掴まり、装備をしてきた小林さんたちに助けられましたから。それを教訓にして今回はカプセルの中を調べて、装備を調えたので学習効果はあった訳です。だとすれば今回のトレーニング目的は何かなと。 あれ? インターカムから何か聞こえてきませんか?」

『ハロハロ、藤沢詩織だけど、誰かいる?』
『加藤です、今どこに居ますか?』
『ジャングルの先にある、草原にいます。ジャングルを抜けると広い川があって、そこに細い橋が架かっていました。そのまま萩原さんと渡り終えると橋が崩れてしまい、後ろから着いてきたはずのみんなが居ないので、どこに行ったのだろう?と萩原さんと相談して、いま連絡をしてみたところです』
『了解です。こちら3人は大丈夫ですが小林さんが途中で転けたりして、ジャングル内で進みあぐね、暗くなったのでカプセルで一夜を過ごそうと思い戻ってきたところです。ただしカプセルはありませんでした』
『了解です。どこか近くでビバークするの?』
『未だ決めてませんが、周りを見渡すと山側はジャングルが終わって、岩っぽいので洞穴とかがあるかも知れないので、その辺に行ってみようと思います』
『了解です。こちらも草原だと恐竜が襲ってきたときに逃げ場が無いので、もう少し海岸のほうへ走ってみます』
『了解です』
 パーティーラインなので、亜香里と優衣も会話を聞いており、英人が「今、藤沢さんに話したような感じで進もうと思いますが、良いですか?」の提案に2人も了解した。

 英人を先頭にバイクをスタートさせる。
 山の麓に近づくとジャングルが終わり、ところどころに木々のある草原に変わり、さらに進むと山裾の上り坂となり周りに大小の岩が見えてくる。
 英人はバイクを停止させた。
「平地の方が楽な気もしますが、恐竜が襲ってきたら走って逃げ続けなければならないので、さっき話をしたように洞穴ほらあなを探しませんか?」
「洞穴なら恐竜に襲われても一方向だから、ブラスターで撃退できます」ブラスターを撃ちたそうな亜香里が賛成し、優衣がそれに付け加える。
「周りに何もないと両側から襲われたらアウトですし、空からも襲って来たら手に負えません」
 英人はバイクを再スタートさせ、亜香里と優衣がそれに続く。周りに転がる大きな岩も増え注意しながらバイクを走らせて行くと、山の中腹に続く道が開け、その視界の先に人工的な建造物が現れた。
 インターカムから、優衣の声が聞こえてくる。
「あれと良く似たものを見たことがあります、九州の阿蘇山火口近くで見た、待避壕に似ています。それなら強度もあるので、大きな恐竜が襲ってきても大丈夫です」
「了解、あれを目指しましょう。ただし、優衣さんの話で気になるのは、火山の待避壕があるということは、この島に活火山があるということですよね? 活火山の名残の施設であれば良いのですが」
「それはどうかなぁ? ジュラシックワールドのどれかは火山が噴火して恐竜が逃げるシーンもあったような気がする」
 亜香里はジュラシックシリーズに、あまり思い入れがないようだ。
 優衣が待避壕と呼ぶ建物に着く頃には、日が沈み始めていた。
「これは阿蘇山で見たものと同じです。円形の平たい屋根、入口の開き方、覆いも同じです」
 待避壕の入口近くにバイクを停め、カプセルから持ってきたライトを点けて3人で用心しながら待避壕の中に入ってみる。中には変な生き物はおらず、何かに使ったあともなさそうだ。
「ここを今日の野営地にしませんか? バイクを外に置いておくと心配なのでこの中に入れ、燃えそうな木を集めて外で焚き火をしましょう」
 英人の提案に2人とも賛成する。

 バイクを待避壕の中に入れ、3人は周りに落ちている枯れ木を集め始める。
 亜香里は枯れた大木をライトセーバーで切り倒していた。
「亜香里さん、ライトセーバーをそういう風に使うのはどうなのですか? なんかチョット違うような気もしますが」
「『大は小を兼ねる』よ。ブラスターと違ってライトセーバーは電池が無くならないからね」
 亜香里は彼女流の解釈で慣用句を使う。
 優衣は『ジェダイの神聖な武器を斧代わりに使って良いのですか?』と聞いていたわけのだが、亜香里の返事に脱力していた。
 亜香里が持ってきた大木で、焚き火のつもりが大きなキャンプファイヤーになってしまった。
「これ以上、燃やすのは止めましょう、待避壕の壁まで熱くなっています」待避壕の壁に手を当てながら話す英人の顔も火に照らされて赤くなっていた。
「あとは、楽しい夕食といきたいところだけど、食事はカプセルにあった携行食と飲み物だけね」
「亜香里さん、贅沢ですよ。この前『猿の惑星』では『結構おいしい』と言って食べていたじゃないですか? 水は貴重なので大事に使いましょうね」
「そう思います。食料はともかく、このままだと飲み水が足りなくなります。悠人や藤沢さんは川を渡ったと言っていましたから、川の水が飲めれば良いのですが、この辺には湧水も川もなさそうですから」

 焚火にあたりながら亜香里は何か思い出した顔。
「詩織たちは、どうしたのだろう? インターカムは通じるのかな?」
『ハロハロ、亜香里です、詩織どうぞ』
 コールを繰り返すが返事はない。
「インターカムを外しているのか、遠くなって電波が届かなくなったのか、どうしたのだろう?」
「今までの『組織』の準備から想像すると、この島で電波が届かなくなる装備は準備しないと思います。詩織さんたちは何か理由があってインターカムを耳から外しているのではないでしょうか? 私たちは携行食を食べてから寝るだけなので、しばらくインターカムを付けたままにしておきませんか?」優衣は現実的な対応を説明して、岩に腰掛けたまま伸びをしている。
「それがですね。小林さんに質問ですが、この島は『ジュラシックシリーズのどれか』だと言っていましたよね?(亜香里「『組織』の今までのトレーニングから想像するとそんなシナリオだと思います」)でも、カプセルから出た時に上空に見えた翼竜以外何も出て来ませんよね。遭遇しない方が良いのですが、一頭も恐竜を見かけないのはどうしてなのでしょう?」
「私もそれは考えました。ラクーン・シティーや猿の惑星の時には、到着してからすぐにその場のキャラクターに遭遇しましたが、この島に来て一度も出てこないのが不思議です。『組織』がトレーニングで手を抜くはずはないし。ここに来て変わったことと言えば、私のバイクテクニックが向上したことぐらいですから(そうだ! 研修が終わったらバイクの免許を取りに行こう)」
 亜香里は真面目に答えながら、後半はどうでも良いことを付け足していた。
「夕食後は順番に待避壕で睡眠を取りませんか。寝ていて恐竜や肉食動物に襲われたら話にならないので順番に焚き火番をしながら夜明けを待ちませんか?」
 英人の提案に2人とも賛成して、3人は携行食の夕食を取り、亜香里は食べる量を自重していた。