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第25話『安定を重視して就職したつもりの会社が・・・ブラックな地球防衛隊?だった件』

【休日だけど、ミッションなの? 3】

「もう夜中の1時よ。さっさと終わらせよう。亜香里、乗って!」
 詩織は亜香里の乗車を確認してバイクを発車させる。
 環八を少し走り第三京浜に入ってから詩織は捕まらない程度にバイクを飛ばす。
「寒いんだけど」インカムで亜香里が訴える。
「亜香里の着ているモコモコの服は風通しが良さそうだからね。インナーを暖かいものにして、上着は革のジャケットかフルスーツが正解」詩織がライダーズウエアの基本を教える。
「そうなの? 研修センターで黒のジャンプスーツをもらってこようかなぁ?」亜香里は本当に取ってこようと思っている。
「あれだけ特殊な高機能素材で作られた服は『組織』が厳重に管理しているはずよ」
 話しているうちに第三京浜が終わり、詩織は面倒に思ったのか下には降りず、高速を乗り継いで横浜公園ICから一般道に降りてきた。
「亜香里、出番よ。受け取ったスマートフォンのGPSでナビをしてくれる」
「了解。ナビはランドマークタワーあたりを指しているけど」
「ランドマークタワーはここからだとナビなしで行けるし、その方向に走っているけど、建物が大きいから着いてからどこに行けば良いのか分かるのかな?」
「あっ! 待って、待って! ランドマークタワーの手前、日本丸のあるところが目的地みたい」
「了解。ドックの横に停めます」
 橋を渡って右折しドックの桟橋近くにバイクを停める。
 エンジンを止め、2人ともバイクを降りヘルメットを取ると周りはシーンとしている。
 午前2時前、2人の他に人影はない。
「ちょっと寒いけど海の香りがして気持ちいいね。お腹がすいてきた! 早く中華を食べに行こうよ!」
「横浜の担当に会わないとお店に行けないでしょう? GPSはどう? マップを拡大してみたら、何か分からない?」
「さっきから拡大して見ているけど、ずっと日本丸を指しているのよ。今の時間は閉館中だから中には入れないでしょう? 近づけるだけ近づいてみますね」
 亜香里はスマートフォンのGPSを確認しながら、日本丸のドックの淵まで歩いていく。
 すると日本丸の甲板に、スーツを着た男性の3Dホログラムが浮かび上がる。初めて見る顔だが、ビージェイ担当に少し似ている。
「小林さん、藤沢さん、深夜遅くにお疲れさまです。ドローンをそちらに向かわせます。ドローンについているネットの中にビージェイ担当から預かったものを入れてください。ネットの中に封筒が入っているので受け取ってください」
 日本丸の甲板からドローンが近づいてきて、2人のそばに着陸した。
 亜香里がネットから封筒を取り出し、預かってきた箱とスマートフォンをネットに入れる。
 すぐにドローンは離陸し日本丸に戻っていった。
 しばらくして3Dホログラムが話を始める。
「中身を確認しました。OKです。ビージェイ担当から話があったと思いますが、その封筒を持って中華街の聘満樓へ行けば、お店の人が玄関で出迎えてくれます。その封筒を渡してください。ミッションお疲れさまでした。それでは」
 3Dホログラムが消えた。
「せっかく届けたのにホログラムとドローンだけの対応とは『組織』らしい。やることはやったから中華街へ行きましょう」亜香里の心は既に中華街。
「こんな真夜中にお店が開いているのかなぁ? 二晩中華が続くような気がするけど」
 バイクに乗り、来た道を引き返して中華街東門を右折して深夜の中華街大通りをそのまま走り、聘満樓前でバイクを停める。
 玄関前で待っていたお店の人が近づいてきたので、亜香里が受け取った封筒を渡すと、明かりの消えた店内に案内されエレベーターで7Fまで上がる。
 7階でエレベーターが開くと通常営業のように明かりが点いていた。
「詩織、7階なのに庭がある」
「7階は特別室のはず。ずいぶん前に来た記憶があるけど、深夜に聘満樓の特別室を開けさせるなんて『組織』は食事に手間ひまを惜しまないのね」
 二人は奥のテーブルへ促される。
「この円卓に二人向かい合っても遠いから、並んで座ろう」
 座席を一つ空けて並んで座り注がれたお茶を飲んでいると、次々と皿が運ばれてくる。
 二人はすぐに食べ始める。外が寒かったのでスープや煮込みの温かさが身に染みわたる。
「私『組織』をやめられないかも」
「亜香里は『組織』に餌付けされたのね。さすがにフカヒレスープと北京ダックが2日続くのはどうかと思うけど、この鮮魚蒸しや水ぎょうざは美味しいね」
 お皿が途切れることなく運ばれてくるため、1時間足らずで最後の杏仁豆腐までを食べ終えた。
「食べた、食べた、ごちそうさま、さあ帰ろう。って、もう3時! もうすぐ日が昇るよ」
「お腹がいっぱいになったから、眠くなってきた。バイクを運転すれば大丈夫だと思うけど」
 二人は、お店の人に挨拶をしながら店を出てバイクに乗ると、お店の人が紙袋を渡して来る。袋の中には月餅が2箱入っていた。
 亜香里がしっかりと持ち、詩織はバイクを発車させる。
「『組織』が、お土産まで依頼したのなら気が利いているね」
 亜香里がインカムで話をする。
「『組織』だからね。そんなことやりそう」
 なんで深夜に聘満樓を開けられるのか? 料理も出来立てで料理人の手配はどうしたのだろう? 詩織は『組織』への疑問が増えている。
 帰りは保土ケ谷ジャンクションから第三京浜に入り、亜香里の家を目指す。
 途中で詩織の身体に回している亜香里の腕が緩くなる。
「亜香里ぃ! 寝るなぁ! 落ちて死ぬぞぉ!」
 詩織はインカムで大声を上げる。
「ヤバッ、ヤバイ! 半分寝てた。月餅を落とすところでした」
 亜香里が寝ぼけた声で返事をする。
「月餅はいいから、ちゃんと掴まっていなさい!」
 玉川ICに近づく頃、東の空が白んできた。
「もうすぐ4時ね。完全に昼夜逆転。明日からの研修を考えると、頑張って起きているか少し仮眠をとって早起きするかだね。最悪なのは、これから夕方まで寝てしまうこと。夜眠れなくなって月曜の朝がひどいことになるのは確実」
「それ、私だわ。いろいろ疲れがたまっているから、間違いなくそれをやりそう」
「亜香里は良い意味でも、悪い意味でもマイペースだからね。友人として、これ以上助言しないよ」
 眠気防止のためにインカムで話しを続け、亜香里と出発した消防署が見えてきた。
「家まで送ろうか」
「いいよ、すぐそこだし。住宅街でこの時間にバイクの音は、チョットあれでしょう?」
「そうだね、了解」
 消防署前でバイクが停まり、亜香里が後部席から降りる。ヘルメットを返そうとすると詩織が首を横に振る。
「バイクに付けて帰るのは面倒だから持っておいて。また亜香里が使うような気がするから。インカムの充電をしておいてね」
「分かりました。お世話になりました」
 詩織を見送り、亜香里は自宅にたどり着く。
 ポストに日曜の朝刊が届いていた。
 小さな声で「ただいまぁ」と言うが、当然、妹は起きてこない。
 月餅の箱を2つとも持って帰ったことに気がついたが(まあいいや、あとで詩織に連絡しよう)自室に入り、ベッドにダイブする。

 バイクで帰る途中に話をしたとおり亜香里が目を覚ましたのは、外の景色が暗くなった日曜日の夜である。
 亜香里が寝ぼけて起き上がりながら宣う。
「今日も、有言実行だったなぁ」
 有言実行とは『口にしたことを、何が何でも成し遂げること』を言うのであって、昼間、一日中寝ていた人が言うセリフではない。
「ウーン、微妙な時間だけど、とても早い朝食を食べたっきりだからお腹が空いた。とりあえず何か食べよう。それから明日の準備とお風呂ね」
 床に置いたままの紙袋に気がつく。
「月餅を貰っていたよね。とりあえずこれを摘んで、あとは適当に…」
 亜香里は日曜の夜にゴソゴソと動き始めていた。

【2019年大晦日 初稿の後書き】
 大晦日となりました
 11月下旬から投稿を始めて、週5日ペースで年末までたどり着きました
 明日も投稿予定です
 よいお年をお迎えください
 (^^)/