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第55話『安定を重視して就職したつもりの会社が・・・ブラックな地球防衛隊?だった件』

【研修最後のトレーニング6】


 亜香里と詩織はモス・アイズリーの街中をバイクで並走しながら宇宙港へ向かい、酒場で高橋氏から聞いたことを思い返していた。
「注意されたところが、予想と違いすぎて質問や意見が出来ませんでしたよ」
「そうね。当人の亜香里がそうだから、海竜の時もサンドクローラーの時もその瞬間を見ていない私からすれば、何とも言いようがありません」
「でも少し元気が出てきた! 高橋さんからの注意は『特攻はやらないこと』『稲妻は目標を絞れば使って良し』でしたから。稲妻のことで、みんなからいろいろ言われて少し凹んでたの。私、どうかなっちゃうのかな?とか」
「せっかく助けてくれたのに注意してゴメン。『稲妻は使っちゃダメ』みたいなことを私も言ったし。薬と同じで『使用方法を注意してお使い下さい』だね」

 2人がバイクで走る街の通りの先に、優衣たち3人のバイクが見えてきた。バイクのスピードを落として合流する。
「ここまで3人で探してきたのですが、高橋さんは見つかっていません」
「高橋さんは、さっきの酒場に居て話をしました。ちなみにトレーニングのゴールは高橋さんに会うことではなく、今までどおり『組織』のお迎えを呼ぶことだそうです」
「そうだったんですか? 私たちは宇宙港ギリギリのところから、ここまでズッと建物の窓を覗きながら高橋さんを探してきたのに居ないわけですよね。スタート地点に居たわけですから」
「3人は結果的に振り出しに戻りましたが、もう一度、宇宙港に行きます」
「「「 ええっ!!!」」」
「あそこにはストームトルーパーが五十体くらい居ますよ。今は街中に離散して数が減っているとは思いますが… 小林さんは何でまた、あそこへ行くんですか?」
「荻原さんが疑問に思うのも無理はありません。高橋さんからのヒントによれば、今回のトレーニングのゴールも今までのトレーニングと同じとのことです。であれば、ここから脱出出来るのは宇宙港です。スター・ウォーズの ep4 みたいに、ストームトルーパーに追われながら」
「それを、再現しろと?」英人は ep4 のシーンを思い浮かべる。(あれは序盤の見せ場だったよな、大丈夫だけど結構危うくなかったっけ?)
「その通りです。宇宙港に行けば、宇宙船の近くにあるコントロール装置みたいなところにカードスロットがあると思うので、そこにカードを差し込めば迎えが来るはずです」
「そのために、ストームトルーパーと戦うのですね?」英人はやる気を出してきた。
「どのような作戦で宇宙港まで行くのかは、これから相談になりますが、港に着いてからは稲妻を使って制圧します」
「あれは、そんなに簡単に使って良いのですか?」
「萩原さん、さっき亜香里と一緒に高橋さんからアドバイスを受けたのですが、亜香里の稲妻はターゲットを絞れば、使うことに問題はないそうです。あれをたくさん使っても亜香里がダークサイドに落ちたりはしないみたい」
「まだ、チカラの加減が分からないから使いたい放題とはいきませんが、そういう意味でもトレーニングとして積極的に使っていきたいと思います」
 謙虚なジェダイ候補、亜香里である。
「了解です。では二手に分かれて宇宙港まで進みませんか? 藤沢さんはシビれが気になるので私と。英人は篠原さんと、バイクの運転が少し心配な小林さんを最後にして二手に分かれて」
 悠人の提案で、二手に分かれて宇宙港を目指すことにした。

 宇宙港へ向かい始めて直ぐに数体のストームトルーパーに遭遇したが、亜香里たちが気がつくのが早くブラスターで倒しながら先に進んで行く。
 ストームトルーパーが街中に展開したためか、そのあと彼らに遭遇することはなく、宇宙港の直ぐそばまで来ると、悠人のチームと英人のチームは、少し離れた通りから宇宙港を見る形となった。
 英人が悠人に合図をし、悠人と詩織は電動オフロードバイクをその場に乗り捨て、物陰に隠れながらタイミングを見計らって、亜香里たちと合流した。
「思ったよりストームトルーパーは少なかったですね…」悠人が感想を述べている途中で、亜香里が宇宙港を見て嬉しい悲鳴をあげる。
「アッ! あそこにミレニアムファルコンがあるよ! 『組織』が作ったのかなぁ? あれに乗って帰れるのかなぁ?」
 小さな子供がディズニーランドでダンボに乗る順番を待つように、亜香里はソワソワし始める。
「亜香里さん、それはないと思いますよ、それより『組織』のお迎えを呼ぶカードスロットを探しませんか。私の役目になると思うのですが、ストームトルーパーがうろちょろしてるから探しづらいです」
「優衣さぁ、カードスロットを探すのは必須だけど、まず、この宇宙港を制圧する必要があるよね。今までみたいに、ヘリコプターに宙づりになったカプセルのお迎えだとストームトルーパーに一撃されて、帰れなくなるし」
「たしかに、そこのところは今までとトレーニングと終わらせ方が違いますね」ウーンとうなる英人。
 亜香里は高橋氏のアドバイスを思い出す。
「ではこうしませんか? これから私が宇宙港の中で、場所を絞って稲妻落とします。練習を兼ねて。それから彼らが混乱してるうちに、カードスロットを見つけて迎えを呼びます。そのあとも適宜、稲妻を落としてストームトルーパーが宇宙港に近寄れないようにします。タイファイターや輸送船も中に隊員が居ないのを確認できれば、稲妻で破壊します。そうすれば無事、研修センターに帰還出来ると思いますが、いかがですか?」
「まあ、高橋さんも亜香里が稲妻を使うことについては特に注意がなかったから、それで良いんじゃない? 亜香里が『練習を兼ねて』と言うところが気になるけど」
「私は亜香里さんが稲妻を落とし始めたら、あそこにあるコントロール装置のところまで何とかたどり着いてスロットを探します」
 優衣の勇敢な発言に触発されて英人が提案する。
「では篠原さんの前でブラスターを撃ちながら道を作ります。悠人と藤沢さんはここから援護射撃をお願いします」
「「 了解です 」」

 5人の行動が固まったところで、亜香里は一瞬目を閉じたあと見開き、最初に宇宙港の倉庫のようなところに狙いを定めて稲妻を落とした。
 宇宙港のあちらこちらから警報音が鳴り響き、警告ランプが点滅する。
 次に人影のないガラスパネルに覆われた、コントロールタワーに向けて稲妻を落とすとタワー内の灯りが消え、同時に宇宙港のあちらこちらの照明も消えてしまった。
 宇宙港に残っていたストームトルーパーは、右往左往している。
「「 行きます! 」」掛け声と同時に走り出す優衣と英人。
 2人に気がついて、ブラスター・ライフルを撃とうとするストームトルーパーに向けて、悠人と詩織がブラスターを乱射して援護する。
 無事、宇宙港内のコントロール装置のところまで二人は辿り着いた。
 優衣が装置の周りを探り、持ってきたカードを挿入すると、今まで鳴っていた警報音とは別のフィナーレ音が鳴り響き、二人の直ぐ近くにあるミレニアムファルコンの形をした船に灯りがともり、機械の起動音がする。
 優衣と英人はミレニアムファルコンの底部にあるハッチが開いたのを見て、迷わずに船内に乗り込んだ。
「やっぱり、あれで帰れるんだ! 私たちも急いであれに乗りましょう!」
 亜香里は満面の笑顔で悠人と詩織に声を掛け、3人でミレニアムファルコンに向けて走り始めた。
 が、詩織はブラスターで撃たれたシビれを推してバイクに乗っていたためか、足が思うように動かない。
 亜香里と悠人は夢中で走り、ストームトルーパーのブラスター・ライフルで撃たれそうになるが、ミレニアムファルコンからの優衣たちの応戦で、何とか撃たれずに船まで辿り着いた。

「あっ! 詩織がいない!」
 亜香里は(詩織はシビれが取れたばかりなのを忘れてた)と思い出し、走ってきたところを見渡すが詩織は居ない。
「詩織ぃ! どこに居るの! また撃たれたの!」亜香里は思わず大声で叫ぶ。
「そんなに騒がなくても、うしろに居ますよ」4人が振り返ると、詩織はミレニアムファルコンの奥にいた。
「説明はともかく早く中に入ろう」

 詩織に言われて5人が機内に入るとハッチが自動的に締まり、内部通路からラウンジエリアを通って操縦室まで行き、それぞれ座席に着いたところで詩織が説明する。
「亜香里と萩原さんが走り始めたとき、私も走ろうと思ったら未だブラスター・ライフルのシビれが残っていて足が前に出なかったの『困ったな、ミレニアムファルコンまで何とかして行かないと!』と思った次の瞬間、機内に居ました」
「詩織さん、それって瞬間移動ですか? SFでは良くある話ですが」
「まだよく分からないけど、これが新しい能力だったら、これからミッションをやるときに役に立ちそうだから、帰ったら試してみます」
「亜香里さんと詩織さんは着々と能力を身につけてますね、優衣さんは動物と話す?でしたっけ? 悠人も俺も未だ未だですね」
 ミレニアムファルコンの外が騒がしい、攻撃が続いているようだ。
「なんか、まだ攻撃してきているみたいだけど、シールドが効いているのかな? 船は揺れませんね。それにしてもミレニアムファルコンに乗船出来るとは、長生きはするものよ」
「亜香里、歳、幾つよ?」
「そのツッコミを待ってました。ミレニアムファルコンに乗れたから、いくらでも突っ込んで下さい」
「私からも突っ込んでよろしいかな?」
 操縦席の後ろを振り返ると、そこには指導者の高橋氏が立っている。
「高橋さん! 酒場からここまでどうやって来たのですか?」亜香里が尋ね、詩織もハテナマークの表情。
「小林さん、藤沢さんとは、先ほど会ったばかりですが、篠原さん、萩原さん、加藤さんとは実体としては初めましてですね。トレーニング最終日の顔合わせとなり、申し訳ない。先のお二人には話をしましたが、みなさんが能力者補として、ここまでトレーニングを積まれて来て、指導者として満足しています。私はみなさんがトレーニングを遂行する上で、アドバイスをする立場にありますが、最終日を迎えるみなさんに、いまさらアドバイスする事はありません」
「これからの事は戻ってから話があると思いますので、到着するまでゆっくりと旅を楽しんで下さい」
 高橋氏の話の途中で、シートベルトサインが出て、船体が浮上し始め数百メートルの高さまで上昇すると、亜香里たちが経験したことのない加速度で斜め45度の方向に上昇していく。
「ハイパードライブなの? どこかにジャンプするの?」強引な加速で頭がヘッドレストに張り付いたままの亜香里が聞く。
「さすがに『組織』でも、ワープ航法までは出来ません。でも今、体感している通り、この加速度で音速は超えているので地球の乗り物としては早い方です」
 悠人と英人は髙橋氏の説明に疑問が多すぎて言葉が出ない。(なんでこんな形をしていて音速なわけ? 推進装置は何なの? 誰も操縦していないけど?)
 水平飛行に変わり座席への押し付けがなくなり、シートベルト着用のサインが消える。
「トレーニングからの行き帰りで、寝ていないのは初めてだし、外を見るのも初めてだけど、空が暗いのは天気が悪いのかな?」
「小林さん、空が暗いのは成層圏の上の方を飛んでいるからです」
「成層圏の上の方って、何万メートルくらいですか?」
 英人が口を挟み、悠人も聞きたそうな表情。
「そうか、理系のあなたたちはこういうのは興味あるよね? 質問を繰り返さないようにザッと説明すると、今は通常飛行なので高度はおよそ3~5万メートルの間です。『そんなに高いと空気が無くて飛べないはず?』が次の質問だと思うけど、推進装置はジェットエンジンではありません。『では何で飛んでいるのか?』も聞きたいと思うけどそれは企業秘密です。企業ではありませんが」ニヤリとしながら、亜香里を見る高橋氏。
 一番知りたいことをはぐらかされて、聞く気が失せる悠人と英人。
「この船内には食料のストックもあるので、ラウンジエリアでユックリして下さい、予定では3時間後に研修センターに到着予定なので、それまで仮眠するなりゲームを楽しむなりして過ごして下さい」
 亜香里たちは、倉庫にある食料をひととおり物色し(特に亜香里)、ラウンジエリアにある『デジャリック』(8体のクリーチャーが戦うホロチェス)に亜香里が感動して、早速プレイしようとするが、ルールが分からなくて眺めるだけだったり、レーザーキャノン砲の座席に座って眼下の地球を眺めたりするうちに、日本列島に近づいてので操縦室に戻りシートベルトを締め着陸準備を始める。
「ここから研修センターに到着するまで、この船の存在が気づかれないようにステルス機能と光学迷彩機能を使うので船内も消灯します。トレーニングの最後しか一緒に行動できなかったのは残念ですが、またすぐに会えると思います。その時は指導者としてしっかり鍛えますので期待していて下さい」
 高橋氏の説明を聞きながら、真っ暗な船室で直ぐに眠ってしまう亜香里であった。