突然の来訪者 【メイド服の女の子】
お店の中に入るとそこは、古めかしいが普通の洋食屋さん。
4人掛けと2人掛けのテーブルが7~8つあり、テーブルにはチェック柄のビニールクロスが敷かれてある。
普通でないのは、店内に誰もいないこと。
ランチタイムが終わったからなのかも知れない。
入口で店内を眺めていると、メイド服の女の子が「どこでもお好きなところへ」と言うので、窓際のテーブルを選び彼女に確認をして腰を下ろす。
「エムくんは窓際が好きね」
「初めてそんなことを言われたけど」
ゴルゴ13ではないからレストランの席なんて、その時の気分。
狭い路地にあるので、本能的に外に近い場所を選んだのかも知れない。
古い作りの、このお店は火が出たらよく燃えそう。
「そう? あの時だって、窓際の席を選んだでしょう?」
あの時って、どの時? うーん、思い出せない。
彼女と、どこへ行ったときのことだろう。
記憶の紐をいくつか選んで引っ張り出そうとしていると、メイド服の女の子がトレイにグラスと氷水の入ったデキャンタを載せて片手で持ち、もう一方の手に厚いメニューを持って、テーブルにやってくる。
フロアを歩く仕草がぎこちない。
ここでトレイをひっくり返したら、ドジっ子メイドに認定出来そう。
「お待たせしました」
テーブルにメニューを置き、グラスを置いてデキャンタから冷たい水を注ぐ。
デキャンタもテーブルに置いて、お辞儀をしてテーブルから離れていった。
ドジっ子メイドには認定出来なかったけど、その子を近くで見ていると、初めて会ったハズなのに既視感を感じる。
どこかで会ったのかな?
「エムくん、あの子が気になる?」
彼女の目は鋭い。僕がたまたま異性を見ているから、余計にそうなのかも知れない。
「見たことがある子だなぁ、と思ってさ」
「エムくんは、ああいう感じの子が好みなの?」
ちょっと見ただけで、どうしてそういう解釈になるのかな。
「全然。あの赤い装飾品とは、一緒に歩けません」
真っ赤に染めた赤毛と赤いセルフレームを差別しているわけではありません。
好みの問題。
「フーン、それよりメニューを決めましょう。お腹が空きすぎて、倒れるかも知れない。ここのお店のお薦めは、カツレツとオムライス。せっかくだから両方頼もうかな」
「カツレツとオムライスを両方食べるの?」
その細い身体のどこにそんなに入るの?と思いつつ、彼女が見かけの割に健啖家であることを思いだした。
昨日も、叔父さんがオーダーした有り余るピザをためらわずに何枚も食べていた気がする。
でも細いんだよね。裸を見たことはないけど(捕まりたくないし)、高校の体育祭でチラッと(本当にチラッと)見た体操服姿は細くてしなやかな感じ。対抗リレーに出ていたから、足は早かったと思う。
食べたモノがどこかにワープしているのかも知れない。
「じゃあ、頼んじゃうね。すみませーん、オーダー、お願いしまーす」
フロアに控えていたドジっ子ではないメイドがテーブルにやってくる。
「カツレツとオムライスを2つずつ、それと私はチキンサラダ、エムくんは?(何でも)じゃあ、カニサラダにしてサラダはシェアしましょう。スープは?(スープも頼むの?)そうね、これにスープは多いかな。以上です」
メイド服の女の子は彼女のオーダーを書き留めてメニューを持ち、下がって行った。
それから彼女は、午前中の課題『人物観察』の反省会を始めたんだ。
(つづく)