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第15話『安定を重視して就職したつもりの会社が・・・ブラックな地球防衛隊?だった件』

【研修4日目 いきなりOJT?】

「午後3時になりました。今日このクラスでの座学はこれで終了です。このあとは午前中に説明したとおり、OJTのチーム編成による研修を受講してください。今からプロジェクターでチーム割と集合場所を映します。集合場所に責任者がいますので、その指示に従ってください」
(なんで、紙を配らないの? ペーパーレス? その割には講義の配布資料が多いのだけど)亜香里は少し不満げな様子。
「えっとー、私はどこだろう?」
 詩織は亜香里の座席まで目立たぬように近づき、投影された一覧表の中から自分の名前を探している。
「あった! ビンゴ! 亜香里ぃ、Jチームのメンバー編成を見て」

 Jチーム:加藤英人、小林亜香里、篠原優衣、萩原悠人、藤沢詩織
 集合場所:避難訓練実施棟

「言っていたとおりになっちゃった。喜んで良いのかどうかは微妙だけど。とりあえず昨日の建物のところに行けば良いのね?」
「行ってみてからのお楽しみ、というところかな?」
 詩織が珍しく、うれしそうな顔をしている。

 集合場所は昨日避難訓練が実施された、亜香里が命名した『バイオハザード研究棟』で、亜香里と詩織は宿泊棟で靴に履き替え集合場所へ歩いて行く。
「なんだか予想どおりでベタ過ぎる展開じゃない? これで集合場所にオビ=ワン・ケノービが待っていたら、ライトセイバーの特訓ね。ユアン・マクレガーが良いけど、アレック・ギネスも捨てがたいなぁ」
 亜香里の頭の中では、集合場所がジェダイ養成訓練所になっている。
「『組織』もハリウッドスターまでは準備出来ないでしょう? それにアレック・ギネスは亡くなってるし」
「アレ? 詩織もよく映画を見る人だっけ? アレック・ギネスが亡くなったことをよく知っているね」
「だって、私たちの親が子供の頃、おじいちゃんだった俳優さんでしょう? 生きている方がおかしいよ」
「フォースの理力で生きてるかもよ?(詩織「ないない」)でも昨日の能力者補のテストでシュワちゃんまで出てきたじゃない?『組織』って、結構すごいのかも」
「あれは機械だから… よく出来ていたけどね。思い出したけど、あのロボットは私たちの方に歩いて来ただけじゃない? 優衣が引いた弓で動けなくなったりしたし」
「でも近くで見たらソレっぽかったの。腕を引っ張られて持ち上げられた時には『ヤバイ!』って思ったもの」
「あのあと、亜香里が消したターミネーターは何処へ行ったの? 爆発する手榴弾を口にくわえたままで」
「それ! 私も思った。モノが全く消えてなくなるわけはないから、どこかへ行ったと思うけど、手榴弾が爆発し始めていたから、行った先に凄く迷惑をかけたのかな?と思うのよね」
「それはあるかも。転送先が『組織』のどこかでターミネーターが爆発しながら現れたりしたら被害は大きいからね。『組織』から弁済を求められて譴責があるかも」
「詩織ぃ、脅かさないの! 映画のターミネーターでなくも、あれだけ動くロボットの修理代、もしかして作り直しだったら、いくら掛かるのか分からないよぉ」
「亜香里が30年くらいタダ働きをしたら、返せるんじゃない?」
「そんなの無理だよー、もういい! 考えるのやめる」
「タコロボットの足も壊したんじゃなかったけ? 包丁で」
「包丁ごときで、壊れる機械が悪いんです。でも切っているときは、大きなタコっぽかったのよね。あのタコロボットって、どういう仕組みになっていたんだろう?」
「吸盤に吸われたらハートマークが付くところとか、開発した人の遊び心が出ているね。そう言えば、お尻のハートマークはどうなったの?」
「おかげさまで、きれいに消えました。しばらくは皆さんにお尻を見せなくて済みそうです」
「そっかー、それはよかった。でも優衣が残念がるんじゃない? 彼女、亜香里のお尻を気に入っていたから」
「その言い方は、いろいろと誤解を招きそうだから止めようよ」
 とりとめのない話をしながら研修棟の裏を回り、避難訓練が行われた棟が見えて来ると、前方に篠原優衣が一人歩いている。

「優衣! 一緒になったねー」
 詩織が後ろから呼びかけると優衣が気がついて振り返りお辞儀をする。
「詩織さん、亜香里さん、あのチーム編成って、お昼ご飯の時に話していた通りになりましたね。また怖い目に遭うのでしょうか?」
「怖いかどうかは分からないけど、昨日聞いたとおり、研修センターで新入社員研修を受講しながら『組織』のトレーニングも受けるってことでしょう。ここにいる間は新入社員として研修期間中だから危ない目には合わないと思います」
 詩織は『組織』のトレーニングを待ち受けているかの様子。
「危険が及ばないことは昨日の説明で分かったのですが、怖いこととか痛いこととかが続くと、トラウマになりそうだなと思って少し不安です」
 優衣はもう涙目。
「最初のうちはトレーニングが嫌になったら抜けても良いのでしょう? 気楽にやれば良いのでは?」
 亜香里はいつもの通り何も気にしていない様子。
「途中離脱はしません[キッパリ]。アキ叔父さんのことを知りたいですし『組織』を抜けたら二度と聞けなくなりそうですから」
「優衣は叔父さん思いなのね。亡くなった叔父さんのためにも頑張りますか」
「ハイ、これを機会に気弱なところを直そうと思っています」
「優衣は良い子ね。それと比べたら亜香里なんて、どういう思い込みなのかジェダイ・マスターへの道、一直線だものね」
「亜香里さん、そうなのですか? 亜香里さんはジェダイになるのですか?」
「そう言われると、私って『痛い人』みたいじゃない?(詩織「違うの?」)そうじゃなくて『組織』のトレーニングでしっかりと経験を積んで、実力のある能力者になるってことです」
「亜香里さんの日頃の言動とは全然違ってしっかりと考えているのですね」
「優衣さぁー、それは褒めているの? けなしているの?」
 亜香里は後ろから近寄り、優衣の両肩をガッシリと掴んだ。
「褒めてます、褒めてます! 痛いことは止めてくださぃー」
「集合場所に着いたよ。(たぶん)カメラで見られてるから真面目に行こうよ」
 研修センター内のほとんどの行動は『組織』がモニターしており、その映像はストレージにストックされAIが監視、分析を行っているのであった。

「この研修センターって、ホントに会社の研修センター機能がメインなのかな?」
 加藤英人と萩原悠人は避難訓練があった棟に向かいながら話をする。
「それは俺も思った。ほとんどが座学の研修なのにこの広さの施設は不要だよね」
「明らかに過剰な広さと訳のわからない多くの建物を見る限り保険会社の研修センターではなくて『組織』のトレーニングセンターだよ」
「悠人もそう思うよね。そうすると研修4日目から能力者補の正式なトレーニング開始は、理にかなっているわけか?」
「昨日、能力者補に認められた5人を集めて今日からチーム編成をするとか、どっちの訓練がメインなのかと、英人もそう思うだろう?」
「言わずもがな、なのだけど、一つ疑問がある。我々のほかにも能力者補のチームが、あるのかどうか? 前の夜にいた滝のあたりには、彼女たち以外にも新入社員の人影が見えたよね? 彼らはあのあと、どうなったんだろう? 昨日の避難訓練は、ああいう変な形で屋上まで出て来て3Dホログラムの説明があったけど、他にもいたはずの能力者候補の新入社員は昨日どうしたのだろう?と思うわけ」
「昨日、俺ら5人は『組織』の特別な環境の中で隔離状態で、ほかの新入社員の様子が全く分からなかったから、ほかの場所で能力者候補が同じようなテストを受けていてもわからないよ」
「正式な能力者になるまでは、お互いに会わせたくないのかも? 能力者補の期間中は離脱もあり得るわけだから」
 英人は推論を披露する。
「じゃあ、なんで俺ら5人は一緒なわけ? 一人でも離脱したら、あとあと面倒じゃない? 研修後は全員本社かその近辺に勤務するわけだし」
 悠人が矛盾を突く。
「それはだね… 不思議ちゃんがいるから? んーっ… 分からない。悠人は分かっている?」
「同じく分からない、情報が少なすぎる。もっと分からないのは昨日、小林さんがターミネーターを消したこと。だってそれまでは篠原さんの矢が当たって動けなくなったり、俺らが打った弾が当たったら一瞬、動きが鈍ったり最後には小林さんを持ち上げたりしたわけだから、実体としては存在したはずなんだ。小林さんが呪文のようなモノを唱えたら、一瞬で跡形もなく消えてしまうとか、おかしいだろう?」
「俺もそう思うけど、俺らも水の中で呼吸が出来たあの特殊な環境だからね。あの場だったら、何ができてもおかしくない気がする」
「いずれにしても、検討するための情報が少なすぎる。観察継続案件だね」
「悠人に同意。もう女子3人が玄関前に集まっているよ」
「説明にあった集合場所にいるはずの責任者が見当たらないけど? ここからは会社の研修なのか『組織』のトレーニングなのか、よくわからないなぁ」
「行ってからみんなと相談しよう」
「了解」
 悠人と英人は、玄関前でお喋りをしている亜香里たちに合流した。