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突然の来訪者【日本食派】

 翌朝、段ボールベッドならぬ段ボール箱の上で寝ていたら、スマートフォンの呼び出し音で起こされた。

「おはよー、朝ごはん出来たよー」

「うぅん? 朝食があるの」

「降りてくれば、分かります」

「降りていくけど…(ツーッ、ツーッ)」
 彼女との通話は切れた(切られた)ようだ。

 僕の部屋がある3階には水回りのものが完備されておらず、着替えとタオル、トラベルセットを持って1階へ降りて行く。

 ソファが点在するホールの中央から少し離れたところに、以前はダイニングテーブルだったかもしれない古びた作業台の上に、おにぎりと卵焼き、御御御つけおみおつけが置いてある。

 食べて良いのか迷っていると、彼女が玄関から戻って来た。

「朝からどこかへ出かけたの?」

「エムくんは、お寝坊さんね。もう9時過ぎよ。早くご飯を食べて『人物観察』に出かけましょう」
 僕の問いには答えず、今日の予定を確認する彼女は、いつもの通り。

「人物観察?」

「忘れたの?」

「昨日、叔父さんが出した課題だろう。銀座に行くんだっけ?」

「エムくんの起きるのが遅いから、お昼になっちゃうよ。食べ終わったら直ぐに出掛けるから、よろしくね」
 彼女が軽快な足取りで階段を駆け上がる。
 スウェットの上下とスニーカーだったから着替えをするのかな。

 それにしても、おにぎりと卵焼き、御御御付けとは。
 彼女は日本食派なの?

 急いで朝食を食べ終わり食器を片付けて、バスルームへ向かう。
 バスルームの鍵を掛けてシャワーを浴び、歯を磨く。

 このオンボロビルの何が一番不便かというと、今までは叔父さんが一人で住んでいたから、これで良かったのかも知れないけど、三人で住み始めてもバスルームが1階にしかないこと。
 元々、会社が使っていたビルだから各階にトイレはあるけど、そのあと叔父さんが住居用に改造したためか、トイレ以外の水回りが1階にしかないんだ。
 彼女が長風呂しないことを願うばかり。
 昨日はあれからシャワーでも浴びたのかな?
 朝から清々しい美少女スマイルだったけど。

 バスルームで服を着替えホールに入ると、オリーブ色のセーターワンピースにオフホワイトのレザージャケットを羽織り、濃いブラウンのショートブーツを履いた彼女がソファに座り、スマートフォンに何かを打ち込んでいた。
 バスルームから出てきた僕に気がついて顔を上げ、格好をチェックするように眺めている。
「エムくんは朝からマイナス2点です。プラスになるように頑張って下さい」

「どういうこと?」

「今朝の行動のペナルティです」

「僕の行動?」

「そうです。まず寝坊、それから昨日外出を決めたのに、見たところ何も準備をしていません。その格好で銀座に出かけるつもり?」

 寝坊は言い訳しないけど、格好はシャワーを浴びたばかりだから、ジャージとパーカーなのですが。
 説明するのも面倒なので『着替えてくる』と言い残し、3階の部屋まで階段を駆け上がる。
 階段を上る途中の2階はシーンと静まり返っている。叔父さんはどこかへ出かけたみたいだ。

 自分の部屋に入って愕然とする。まだ引越しの荷解きをしていなかったんだ。
 仕方がないので、引っ越すときに着て来たピージャケットとハンガーに吊るしたままの厚手のコットンパンツに着替え、上京前に買ったハイカットのスニーカーに履き替えて、急いで1階に降りて行った。

(つづく)