見出し画像

第39話『安定を重視して就職したつもりの会社が・・・ブラックな地球防衛隊?だった件』

【研修第3週 能力者補トレーニング2】


 5人が乗るカプセルが到着してハッチが開くと、機内で大きなブザーが響き渡り、亜香里たちは長い睡眠状態から強制的に目覚めさせられた。
「毎回眠らされて、到着したら起こされるというパターンなのだけど、『組織』でミッションを始めたら、毎回こんな感じなのかな?」

「藤沢さんの言う通りかも知れません。日頃は保険会社で働いていて、それに加えて『組織』のミッションをこなすとなれば、どこかで心身ともに休みを取らないと続きませんからね。『能力者は移動中に眠る』が基本なのかも知れません」
 悠人は能力者として先々の活躍に思いを巡らせていた。

「とりあえず外に出てみようよ。周りの状況を確認してから、前回『猿の惑星』であったことを教訓にしてカプセル内の備品は、持てるだけ持ってから出発しましょう」
 もっともなことを言う亜香里(実は次の食事が心配なだけだが)の意見を聞きながら、5人はカプセルを出てみる。
 カプセルの外は見たところ『ジャングル・密林』の状態。
 木々が鬱蒼と生い茂り、空気は掴めるくらい蒸し暑く、木々の葉から漏れてくる太陽光でさえ、素肌にキツい。
「ここはどこ? 『組織』はどんな環境を準備したの? 亜香里はこんな感じの映画でピンとくるものはない?」

「このジャングルだけではわからないよ。ジャングルが舞台の映画はたくさんあるから。 言っていい? ターザン、ジュマンジ、ジャングル・ブック、コンゴ、アナコンダ、プレデター、インディ・ジョーンズ、スター・ウォーズep6、まだまだあるけどトレーニングでゴールが必要となれば、この辺かな、アッ! 一つ忘れてた、ジュラシックパークシリーズは全部ジャングルです!」

「小林さんが挙げた映画の最後がビンゴみたいです」悠人が空を指差す。
 能力者補を選ぶトレーニングで追いかけられた、プテラノドンが遥か上空を飛んでいる。
「ジュラシックパークか、ジュラシックワールドかで、エンディングが変わるから、どう動けば良いか悩ましいです」亜香里はそれぞれの映画のストーリーを脳内再生する。

「ジュラシックシリーズはあまり覚えていませんが、最後は島から脱出して終わりだったと思うので、取りあえず海岸を目指せば良いのではないでしょうか?」
「篠原さんの意見に賛成です。カプセル内の備品を確認して、海岸を目指しませんか?」
 英人は蒸し暑いジャングルから早く抜け出したい様子。

 みんなは他に思いつくアイデアがなかったので優衣の意見で行くことになり、カプセル内に戻って備品を確認し、水や食料品をカプセルから持ち出した。
 前回、優衣が見つけた白い箱もあり、中にはライトセーバーとブラスターが収まっている。
「『『組織』はジェダイとは違う』という説明をしておきながら、毎回ライトセーバーとブラスターが備え付けられているというのは、どうなの?」
「亜香里がそう言いたくなる気持ちは分かるけど『猿の惑星』や、トライポッドをやっつける時には役に立ったじゃない? ブラスターは相手を殺さずに済むし、ライトセーバーは使わない時に剣の様に邪魔にならないから、この2つの武器はわたし的には好みね」
「恐竜相手にどこまで通用するのか分からないけど、人数分用意されているから、各自ひとつずつ持って行きましょう」

 カプセルの外側を確認すると前回と同様に電動オフロードバイクが格納されており、機体から引き出して準備をする。
「今回はここから5人でバイクに乗れるから安心です。これで海岸まで行くのなら、今までのトレーニングと比べて簡単すぎるから、少し不安だけど」
「詩織さぁ、ここのところトレーニングに入ってから少しナーバスじゃない? 大丈夫よ」
「トレーニングだからかも知れないけど、あまりに簡単に行きそうなものには、罠があるのかな?と思うから。亜香里の楽天的な考え方が羨ましいよ」
「私はそんなに楽天的じゃないよ、悩むときは悩むし。ただ他の人よりも割り切りが早いかな? 『今、考えても答えが出ないものは考えない』『今、心配しても、どうなるか分からないものに心を留めない』が、いつも心がけている私の考え方です。変かな?」
「小林さんの考え方は真っ当だし合理的で、そういうのは好きです。良い意味でポジティブだし」
「亜香里さん、ついに悠人さんから『好きです』発言をいただきましたが、一気に行ってしまいますか? アッ、痛い! 痛いですー。そんなに肩を掴まないで下さいよぉ」亜香里は、優衣の両肩を後ろからガッシリと掴んでいた。
「優衣がまた、変なこと言うからでしょう? 反省するまでショルダークロウを続けます」
「痛いです! 痛いです! 反省してます、許して下さい!」
「(俺が悪いの? 女子って分からないなぁ)あのさっきの『好きです』は、小林さんの考え方が非常に合理的で、その考え方を通せば確実にトレーニングを達成出来るかな? と思って言ったまでです。個人的に、どうこう言っているわけではありません」

 亜香里のショルダークロウがようやく外れ、優衣は肩で息をしながらつぶやく。
「これからトレーニングなのに、もう疲れてしまいましたぁ」
「優衣が、紛らわしいことを言うからでしょう? トレーニング中は(悪い意味で)女子的な発言は控えるように。そうでないと、また肩が痛くなるよ」
「脅かさないで下さいよぉ。もう言いませんからぁ」

「2人とも始める前から遊ばないの、トレーニングなんだから真面目にやりましょう。大丈夫だと思うけど、気を抜くと怪我をするよ」
「そう言えば、『猿の惑星』で撃たれた右の足は、どうなったの?」
「亜香里に言われるまで忘れてた。金曜日に家に帰ったときにはアザになって少し腫れていたけど、日曜の夜、確かめたらすっかり直っていました。週末に十年分、往き来したせいかも知れない」

「藤沢さん、『週末に十年分』って、何かあったのですか?」英人が訪ね、悠人もうなずく。
「2人には話していませんよね? 週末にまた『組織』が出てくるトラブルがあって、話すと先々週のこと以上に長くなるので、またあとで」
「了解です。週末も『組織』と絡んでいたら、休む暇がありませんね」
 悠人が同情する眼差しで、ねぎらう。

 詩織を労ったはずの発言を、亜香里が奪う。
「先々週も、先週も、私は呼ばれた方なんですけど結局『組織』に会う羽目になったのよね。好かれているのか、ツイテいないのか? おかげで毎週、週の初めは疲労が溜まりまくりですよ」

「前回、大活躍されたお三方、そろそろ出発しませんか? 時計が無いので時間は分かりませんが、日がだいぶん傾いて来ています。日没までにゴール出来なければ何処かでビバークとなりますが、それ用の装備は無いし暗闇の中で恐竜に襲われる可能性も出てきます」
 英人に言われて、あたりを見回すとカプセルから出た時と比べて、陽の影が伸びている。

「途中で安全にビバーク出来そうなところを探して、一晩やり過ごした方が安全みたいだね」悠人は安全策を考える。
「ここもゴールするまで食事がなさそうなので、とりあえず『善は急げ』で出発しましょう」亜香里はお腹が空いて動けなくなるのを心配している。

 5人ともジャンプスーツ、ブーツ、ゴーグル、ヘルメット、グローブにリュックと完全装備。
 全て『組織』謹製の薄い特殊品なので、見た目はそれほどゴツくはない。
 亜香里以外は、全員が自動二輪免許を持っているので亜香里を真ん中にして、悠人 - 詩織 - 亜香里 - 優衣 - 英人の順で電動オフロードバイクをスタートさせた。
 走行路は『猿の惑星』の時とは違い木々が深いジャングルのため、バイクを飛ばすことが出来ず、ゆっくりバランスを取りながら走ることとなった。
 早速、亜香里がバランスを崩して、ける。
 自分のバイクを停めて、急いで駆け寄る優衣。
「大丈夫ですか? 前回『猿の惑星』で走ったように起伏がなくて平坦な道だったら運転も楽なのですが、ここはジャングルの中で地面から岩や木の根っこが出ていますから、タイヤが滑って転びやすいんです。シートに座らずステップに重心をかけて、足の裏で踏ん張る感じで走ってみてください。それから、このバイクはモーターなので出だしからトルクが大きくてスロットルを『ガバッと』開けないようにしてください。ジワッと開いてもエンストしませんから」

「アドバイス、ありがとう。前の2人は先に行っちゃったね、追いつかないと」
「アーッ、行っちゃいましたね。亜香里さんが転けたのを気がつかなかったのかな?」
「いざとなればインターカムで連絡を取れば良いけど、テストをしてないから、どれくらいの距離まで有効なのか分からないね。とにかく、先に進みましょう」後ろから来た英人が、倒れた亜香里のバイクを引き起こす。
 壊れたところは無く、亜香里がまたがって準備をすると、英人が提案する。
「じゃあ、俺が先に行きます。小林さんが先頭だと大変だし、篠原さん最後をお願いできますか?」
「了解です」
 英人 - 亜香里 - 優衣 の順で再スタートする。
 先頭をいく英人は、なるべく亜香里が走りやすそうなところを選んで走る。
(『猿の惑星』が初ライディングで、無免許でこのダートだから厳しいな。1時間以上走らせるのは無理だから早めに、夜ビバークするところを探そう。いや待てよ? まだあまり走ってないから、安全のためにいっそのこと、カプセルに戻って早めに休んでから、明日の朝、早く出発するのもアリだな)
 英人はバイクを停めて、後続の2人にジェスチャーをして停止させる。
「少しジャングル走行のコツを掴んできたところだけど、どうしたの?」
 未だ危うい走りをしている亜香里が聞いてくる。
「相談です。これからもう少ししたら日が暮れるので、すぐにでもビバークする場所を探さなければならないのですが、ジャングルの中では恐竜や野生動物に対して、私たちは無防備で夜は危険が増すと思います。出発してから未だあまり距離を走っていないので、一旦カプセルに戻り休息と睡眠を取って、明日の朝早く出発するというのは、どうでしょう?」
「その方が安全だと思うけど先に行っちゃった、萩原さんと詩織はどうするの?」
「インターカムで呼び出してみます。これスイッチはどうなっているんだろう? 待機モードがデフォルトで、このボタンで一斉呼び出しかな? 小林さん、篠原さん、付けてみてくれますか?」
 亜香里と優衣が、リュックからインターカムを取り出して装着する。
「呼び出し音がします。ハロハロ、聞こえる?」
「小林さんの声も、篠原さんの声も聞こえてきます。一斉呼び出しして全員で話せるから、パーティーライン仕様ですね。電池の持ちが心配だけど、呼び出し音が小さいから、装着していないと聞こえませんね」
 日が傾いてきて、ジャングルの中にいるためか、3人の周りが急に暗くなり始めた。
「このままでは、危ないからカプセルに戻りましょう。悠人たちも我々がついて来ていないのに気がついたら、インターカムを使うかもしれないので装着したまま走ります」
「「 了解です 」」英人を先頭に、3人は来た道を戻ることにした。

 周りが薄暗くなって来たので、来た時よりもスピードを落として走り、しばらく走ると、出発したところに戻ってきたはずの3人だったが…

「「「 カプセルが無い !!! 」」」