『封魔の城塞アルデガン』 第1部:城塞都市の翳り 第1章
ふしじろ もひと
羽田健太郎氏の霊と、いと昏き
Wizardryの思い出に。
<第1章:プロローグ>
暗黒に閉ざされた大地を、滝のような雨が打ちすえていた。
ごうごうたる轟きの中、男は激しく背後を振り仰いだ。都市を取り巻く巨大な城壁がしぶきにつつまれているのが、暗闇の中にかろうじて認められた。
若者の顔が歪んだ。それは炎の紋をあしらったローブに叩きつける氷雨のためでも、えぐられ焼けただれた左目の痛みのためでさえなかった。今逃れでた城塞都市への、その地下に封じられた数多の怪物たちへの、なによりそれらを越え得ぬ己が無力さへの限りなき憎悪の顕れであった。
彼は呪った。たとえ何年かかろうと、命を捨てることになろうとも、この地を焼き滅ぼす秘術をあみださずにおかぬと。だが、彼は自覚しえなかった。右目にたぎる光にいまや狂気が芽吹いていることを。巨大な打撃に光を永遠に失った左目以上に、人間としての己が決定的に損なわれていることを!
「ラァルダーーぁアァーーっ!」
若き火術師の叫びは、咆哮は、だが轟く豪雨の響きに呑まれ、誰の耳にも届くことはなかった。
「封魔の城塞」の二つ名を持つ城塞都市アルデガンの建立は、人間と魔物との抗争史における一つの時代の幕開けであった。
第三暗黒期にエルリア大陸北部の洞窟へ幾多の魔物たちを封じた尊師アールダは、巨大な力を持つ僧ではあったが定命の人間であることに変わりはなく、大陸各地から魔物を洞窟へ追い込んだとき、その命はもはや尽きつつあった。そのためアールダは魔物たちを封じた洞窟の真上に城塞都市を築き優れた戦士や連達の術者たちを定住させることで、魔物の地上への侵略を永く防ごうとしたのである。
だがそれからわずか二百年後、人間族の力の結集だったはずのこの「封魔の城塞」は深い翳りに覆われようとしていた。
そして、さらに二十年後……。
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