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ババーチョル

結局のところ人はこの世に生まれ落ちてから死ぬまでにかなりの苦しみを味わいます。むしろ苦しみを味わうことを人生と呼ぶのかもしれないと思えるくらいに。

理不尽な苦悩や災難に見舞われる男のお話

絵本を制作するにあたりそんな苦悩をおもしろおかしく描いてみようと思ったら自伝のようなものになってしまいました。つまりこれはボクのお話でもあります。

振り返ってみれば裕福な家庭に生まれ過保護なほどに愛情を受け育てられましたが、生まれ持ったものなのでしょうか、幼少期から社会や人々との接触を避ける傾向にあったり、楽しいと感じることよりも苦しいと感じることの方がはるかに多い、とにかく厭世的な性格でありました。大した苦労もしてないのに。小さな小さなことが気になるし、小さな小さな嫌なことがたくさんありました。そのほとんどはおそらく多くの人にとっては取るに足らない程度のことかもしれません。でも問題なのはひとつひとつは小さくても一度発生すると消えることがなくどんどん蓄積していき次第に巨大化して確実に心を蝕んでいくことでした。

自身を苦しめる苦悩は外からやってくるものだとずっと思い込んでいましたが、ある時期を境に考え方が変わっていきます。

苦悩は怒りに姿を変え外へ溢れ出すようになっていました。

あくまでも自分は正しいという考えの上ではあったものの、怒りに飲み込まれている時の自分に危機感を抱くようになり、やがて「治したい」という悟りのような感情に変化します。それは自分を変えたいということと同義でした。それからたくさんの本を読み漁り、怒りを鎮めるためにできるあらゆることを実行してきました。もちろんすぐには治ることもないし、悟りとはそういうものであるということもこの時に学びました。

それからまた長い年月を経てこの絵本制作に入り、最終関門を迎えます。原因不明の体調不良を経験し、何度も執筆は止まり、迎えた50歳。この絵本の結末をどうしたら良いものか悩みながらまた自身の内観も多く繰り返してきたことでひとつの答えに辿り着きます。

苦悩は外からやってくるものではなく自分の内側から生まれている

理解はできてもそれを解釈し受け容れることはまた別の試練でもありまして、今でもまだまだ平常心を崩す日々に襲われることは山ほどあります。でも悪魔に飲み込まれている時間が極端に短くなったことは明らかで、ボクはそのことを日々実感しながら嬉しく思い、ほくそ笑むのでした。

たまたま自身の経験が絵本制作と重なってしまっただけと言えばそれまでなのですが、この絵本制作を経てボクなりにひとつの答えを導き出せたことは、余生を生きるために必要なことだったようにも思えてくるのです。

ババーチョルと暮らす老後も悪くない、悪くない……。




ババーチョル
さく・え よこただいすけ

定価:1,870円(本体1,700円+税)
出版社:つちや書店
ISBN:978-4-8069-1860-8
初版発行:2024年7月31日発売



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