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『アクアリウムは踊らない』感想

『アクアリウムは踊らない』を全エンディング回収でクリアしたので、完走した感想をつらつらと書きます。
いつも通りバレ配慮はあまりしないと思うので、ご認識のほどよろしくです。

それでは早速。


はじめに

まず一言ですが、「これ本当に無料でやって良かったんですかね?」って感じですね。そもそもなんで無料なの…?
このあと少し触れようと思いますが、制作の経緯を考えると無料っていうのはちょっと申し訳ないというか…。それ考えなくても無料は破格すぎるんですが。「せめて他の何かで貢献させてください…!」って感じです。
まぁ、豪華キャストによるドラマCDが2024/12/24(レトロの誕生日)に発売されるとのことなので、こちら購入させて頂きたく存じます。あの重要なヤドカリ役にまさかの…?

あと若干余談かもですが、RPGツクール(MZ)で制作されているそうで、某『ゆめに○き』や『○鬼』、『魔女○家』、『○b』などなど…フリーホラーゲーム全盛期とともに成長した人間にとっては、非常に懐かしい雰囲気が漂うゲームでした。(挙げた作品をすべてやっているとは言ってない)

ちなみに、初回プレイ時のエンディング到達までの所要時間は約5時間エンディングは全部で5種類で、分岐点が分かっててセーブを駆使すればそこまでエンディング回収に時間は掛からない感じでしたね。
全エンディング回収までの総プレイ時間は約8.7時間でした。
このボリュームで無料なのはやっぱりおかしいよね。

ホラーというジャンルではありますが、個人的にはストーリーが心にしっかり染みる良い内容だったと思っているので、そのあたりもしっかり吐き出したい所存。もちろんホラー要素についても触れます。

『アクアリウムは踊らない』とは

橙々さんによって制作された、ホラーアドベンチャーゲーム。
もともとは橙々さんを含めた5人の方で制作予定だったところが、いつの間にか1人になっていた橙々さん(しかもホラー嫌いだそう)が8年をかけて完成させたとのこと。
もちろん、この部分のみ聞いただけなので実際はもっと深い理由があったりするものとは思いますが、なかなか凄いエピソード。
そして、その状況でも作り上げたという点、めっちゃ尊敬ですね。

幼馴染のルルと水族館へ行くことになったスーズ。
だが突然ルルが行方不明になってしまう…。

スーズはルルを追い、恐怖の水族館へ迷い込んだ。

すると「レトロ」と名乗る謎の人物が、突然襲いかかってきた。
館長の妻であり、脱出のためスーズに手を差し伸べる「クリス」。
水族館に閉じ込められ続けている少女「キティ」。

脱出のヒントはただ一つ…
水族館の生物になり 彼女たちの“秘密”を解け
―――裏切り者は、誰だ

公式サイトより

あらすじは公式サイトより拝借しました。決して手抜きではない。
主要な登場人物は上記あらすじの通り、主人公のスーズ、その幼馴染であるルル、水族館で出会うクリスレトロキティ の5人です。
あとは『クリーピー』と呼ばれる存在である海の生き物たち。

どんな感じで吐き出そうか悩みながら書き始めてますが、ゲームとして良かった点物語として良かった点、そしてエンディングについて って感じで分けて、思ったことを吐き出していこうかなと思います。

ゲームとして良かった点

- 雰囲気づくり

冒頭でも述べましたが、いわゆる”フリーホラーゲーム”ということで、その系統のゲームをプレイしたことがある人であれば、おそらくどういうゲームなのかは直感で分かる感じでした。
あえて言うなら、出現する化け物から逃げつつ、発生する事象や直面する謎を思考を巡らせていくヤツ。”パニックホラー”とも呼ばれるんでしょうか。
なんですが、何事もない水族館らしい幻想的な雰囲気明らかに異様で不気味な雰囲気が散りばめられていて、しっかり抑揚がついているのが良かったな~と思いました。

プレイ開始直後はもちろん普通の水族館。館長の妻クリスの解説とともに水族館を巡りますが…。

結構「へぇ~!」って思える解説をしてくれるので、水族館巡ってる感ある。
そんな中にも、「あぁ~、これなんかあるな…」って思わせる仕込みもバッチリ。

異変に巻き込まれた直後は、文字化けがふんだんに使われて、いかにもヤバイ雰囲気。偏見かもしれないですけど、ツクール製ホラーゲームの恐怖演出のひとつとして、文字化けは良く使われてた印象あります。懐かしいね。

文字化けはしっかり復元できたりする。これは試してないけど。

そして、一番言いたいのは次。本作は、この変になってしまった水族館(以下、便宜上『裏水族館』と呼びます)に来てしまって後も、普通の水族館らしい雰囲気漂う場所が出てくるんですよね。

クリス、”天使”だ。
ウミガメのセリフが文字化けしててアレだけど、おどろおどろしい雰囲気はない。
普通の水族館…ではないが、賑やかで安心できる雰囲気なのは間違いない。

なので、ホラーな雰囲気一辺倒ではないという点が逆にホラーな雰囲気を助長しているんじゃないかな~って思いました。

また、効果音も大きな役割を果たしていたように感じます。
効果音には水の音が多く使われていました。とくに、GAME OVERになったときは溺れるようなブクブクという効果音が鳴ります。イラストの青色もかなり深め。
スーズは過去の経験から水が苦手という設定がありますし、そこまでじゃなくても水にある程度の恐怖感を覚える人は少なくないと思います。海洋恐怖症というのもありますし。私も分からなくはない。ブルーホールとかちょっと怖いなって思う。
そういう世界やキャラクターへの没入感とか、水そのものから感じられる恐怖感を助長するとても大切な要素を担っていた気がします。

水って、”生と死”っていう相反するのイメージがあって面白いよね。

- ホラー要素/アクション要素

本作、個人的には本作はホラーが多少苦手な方でも全然プレイできる部類なんじゃないかなって思います。まぁ私自身がそこまで苦手じゃないので全く当てになりませんが。
血などのグロい表現ジャンプスケアチェイス要素など、「ホラー苦手な人が苦手なのはここなんだろうな」っていう要素は普通に使われているんですが、「何かくるかもよ?いい?いくよ?」みたいな予兆がそこそこあるので、わりと何とかなるんじゃないかなって。知らんですけど。

「覗きますか?」→「はい」からの、この選択肢。

…もちろん全部じゃなかったですけどね。いわゆるジャンプスケアについては、急に来るところはありました。歩いてたらガラスに血の手形がバババみたいなヤツとか。
でも急に画面いっぱいにドーンみたいなのは比較的少なかったかなっていうのが言いたかったです。無かったとは言ってないです、はい。
※ゲーム開始時に注意書きもしっかりあるので、十分気を付けてプレイされたし。

キティに『ウミグモ』と呼ばれていた化け物。こいつは何だったんだろう。

ちなみに、個人的に一番怖かったのは『ウミグモ』です。
シンプルに造形が恐ろしいのもあるし、上述した遠慮のないジャンプスケアをぶちかましてくる奴だったので、流石にビックリしましたね…。

また、チェイス要素もあるにはありますが、わりと序盤だけだった印象。しかも、1発でGAME OVERではなく体力制だったり。
しかも「いつ追いかけられ始めるか分からない」という恐怖が常に続くというワケではなく、たまにイベントとして追いかけられるぐらい。追いかけられる距離もほどほどで、くどい感じは無く難易度も易しめだったかなと。

このあと上手く曲がれずに落ちた。

さらに、こういう要素の手前には必ずセーブポイントが存在していたので、ストレスなどは全く無く。失敗したとしても「いや…それは厳しいなw」ぐらいで済む感じ。
巨大なリュウグウノツカイ?に見られないようにするギミックも、目的を達成した後の帰り道は気にせず戻ることができる親切設計。これもストレスフリーな設計だな~と思いました。

- 謎解き要素

本作は多種多様な謎解き要素もありました。個人的にはこの謎解きの難易度が非常に良い塩梅だったな~と思います。
「ちょっとメモしながらやったほうがいいかな?」って思うレベル感の謎から、直感や見た目で分かるような謎、電卓が欲しくなるような謎、かなり考えた結果「あぁ、それでいいのね」ってなる謎…などなど。
本当にいろんなパターンやレベル感の謎解き要素があって、非常にやり応えたっぷりで楽しかったですね。

薬箱の謎に使ったメモ。
時計の謎に使ったスクショ。赤字は画像編集で私が入れた文字。

また、ゲーム内でガッツリなヒントをくれることもあるし、公式ヒントがあったりもしました。(この感想を書くためにちょっと調べものしてるときに初めて見つけたんですが)

ここまで分かれば後は英語力の問題。

ちなみに、個人的に一番好きな謎は、一番最初に出てくる『宝箱の謎』です。
最初の謎らしく難易度は低めで、ヒントから法則を導き出すのは容易なのに正解できないという事態が発生。”Tuna=マグロ”という知識の欠如が原因でした。要するに、英語力の低さが露呈してダサすぎて自分で笑ってしまったのが理由です。このせいで「Tuna とは」とかいうアホみたいな検索履歴が残ることになりました。

後に『つな事件』と呼ばれることに。私の中で。

- ルル&キティ編

スーズと一緒に水族館に来たのに、いつの間にかフラフラとどこかへ行ってしまい、結果的にスーズと同じく裏水族館へ迷い込んでいた幼馴染のルル。
いわゆるお姫様ポジションのキャラクターですが、1度だけルルを操作できるパートがあったのが良かったですね。
「一方その頃…」的な感じで操作キャラが変わる演出、好きなんです。なんていうか、時系列が繋がる瞬間が気持ち良いって感じでしょうか。

ルル可愛い。

このとき既にスーズ側でも登場して若干怪しい雰囲気が出ていたキティと出会ってしまうことで、ヒロインに魔の手が迫る展開に。
この不安感も一種の”恐怖”かなって。非常に良いスパイスになっている気がしました。

でもキティが完全悪じゃないことは信じてたよ。

物語として良かった点

- スーズとレトロの関係性

本作はなんと言ってもこれかな~と思います。この2人の関係が本当に良かった。

裏水族館に迷い込んだスーズは、そこでレトロというアルビノ系超クール女に出会います。
いきなり剣を首元に突き付けられてしまうので、スーズからすると「は?」って感じで、あまり良い出会い方って感じではなかったワケですが…。

なんやかんやあって裏水族館からの脱出を目指して手を組むことになりますが、スーズはグイグイと話を勝手に進めるレトロに対して異論なしに付き従うような性格ではないので、頻繁に不満が漏れてる描写がありました。

そして、スーズは裏水族館やクリーピーという存在の真実に触れていくにつれてレトロへの不信感が高まり、ついにパートナーを解消する提案を持ちかけたタイミングでのアレですよ。

これよね!!!!!(クソデカ声)
マジで鳥肌立ちました、ここは。本作で一番好きなシーンかもしれない。
直前のやりとりがあってのこれなので、レトロがどれだけスーズのことを大切に想っているかなんて言うまでもないし、スーズの気持ちと緊迫した場面がコマ送り的に交互に表示される演出が神すぎましたね…。
これによってスーズのレトロに対する気持ちが大きく変化するっていう展開も、もちろん王道ではあるんですがやっぱり良いものですな。

- キャラクターの良さ

まずは主要人物5名、みんな良いキャラだったなぁというお話。

◆ スーズ
なんていうんだろう…ボーイッシュっていうのは違う気がするんだけど、物怖じしないし、レトロみたいな明らかに強い人に対しても自分の意見がしっかり言えるし、勝気な性格がとても良い。そして何より親友想い。
とにかく人間味溢れるキャラクターだったなって思います。好き。

悪態をつくスーズからしか得られないものがある。

◆ ルル
ただのヒロイン役にはとどまらない美味しいキャラクターだったなって思います。キティと行動を共にすることになって、「酷い目にだけは遭わないでくれ…!」って思ってたけど、逆にキティの心を救ったのは彼女でしたね。
ルルはぽわぽわ系である必要があったのだ。好き。

本当に強い子だよ。

◆ クリス
すべての元凶と言ってしまえばそれはそうだし、やってることは異常だし許されないことなんだけど、どうしようもなく悲しい過去があって禁忌を犯している美少女(とおじさん)キャラに弱いんだよなぁ…。ただ、彼女の場合はその行為が狂ったものだと思って無さそうな気はする。でも好き。

某文芸部部長を彷彿とさせる恐怖感。

◆ レトロ
もうとにかくカッコイイ。一挙手一投足すべてがカッコイイ。
レトロはカッコイイシーンが大量にありすぎるので1つに絞るのが難しいんですが、(エンディングを含めなければ)一番はこれですかね。こういう”相手に昔言われた言葉を数年後に返す”っていう演出、良いよね。好き。

このとき、どんな気持ちだったんだろう…。

◆ キティ
この子はこの子で違う目的があって裏水族館に居たワケですが、自分の望みのために強大な力に魅入られたという点はクリスと近いところがある。
クリスとの決定的な違いは、ルルという存在に出会えたことなのかも。好き。

この子の葛藤は心にくるものがある。

そして、裏水族館にいるクリーピーたち。彼らも皆さん個性的で良かったですね。ちなみにホタテさんが推しです o(^-^)o

エンディングについて

冒頭でも述べましたが、エンディングは全部で5種類。私は結果的に、以下の順番で回収しました。

  1.  No.3「夢は儚い」(ノーマル)

  2.  No.5「殺してあげない」(バッド)

  3.  No.4「恋しくなれない」(ノーマル)

  4.  No.2「願いはいらない」(グッド)

  5.  No.1「忘れてやらない」(トゥルー)

ノーマルエンディング2つは、やっぱりどこか満たされないエンディング。「せめてグッドエンディングは見てくれよな!」っていう意志を感じる内容でしたね。ノーマルエンディングとしてあるべき姿といったところでしょうか。

バッドエンディングは言うまでもなく。なかなか悲惨なことになりましたね。あの後どうなってしまうのかは考えたくもない…。

グッドエンディングとトゥルーエンディングは結末としてはほぼ同じ。トゥルーエンディングには後日談が追加された形でした。
それでもトゥルーエンディングを最後に回収できて良かったなって思います。とても満たされた状態で終わりを迎えることができました。

トゥルーエンディングでは、スーズ、ルル、キティ の3人は裏水族館から脱出することができますが、クリス、そしてレトロは…という若干の切なさとやるせなさはありつつも、「やっぱりこれがトゥルーエンディングだよね」って言いたくなる内容で、異論は全くありません。
むしろ個人的には、「なんやかんやあってクリスやレトロも仲良く脱出でハッピー!」はやっぱり違うというか…。まぁ”ハッピー”と”トゥルー”は別物ってことです。
あまりこういう表現使うのは好みませんが、要するにあれが”正解”なんだと思いました。

そして、クライマックスのここ。めちゃくちゃ好きです。
スーズの性格を考えると「私…忘れないよ」ってセリフは、ここまでの経験で少し変わったことによって、照れくさい気持ちを押し殺して出したものかなって解釈してます。なのに、それをいつも通り少し冷めた感じでレトロに返され、それによってスーズもいつも通りのスーズに戻るっていうのがもうね…。やっぱり2人の関係性はこうでなくっちゃね…。

このやりとりと、そしてこのあと2人が離れていくシーンで涙が滲み出た。

ここも好き。「レトロが救ってくれた命で生きていくから見てて」と決心した直後にこのカット。
スーズが泣く描写ってここだけなんですよね。非常に想いの詰まった涙ということ。だからグッとくるんだ。

「今までよく頑張ったね」って言いたくなる。

トゥルーエンディングで見られる後日談は、よくある微笑ましい後日談って感じ。
最後のシーンは、前向きに踏み出していくスーズの描写があって、ポジティブでとても満たされる終わり方でした。

スーズの行きたいところ、どこなんだろうね。

さいごに

というワケで、それなりに長々と吐き出しましたがそろそろ〆ます。
発表当時、冒頭でも述べた制作までの経緯などが話題になって、今ではかなり多くの人に触れられている作品になっている気がします。私もその話題でこの作品に出会った一人です。
ですが、これだけの作品を長い年月をかけてお一人で作られているというのは、それだけの想いがなければできないことだと思います。
なので、どうしてもインパクトの強い経緯ばかりが注目されがちかもしれませんが、実際にプレイしてみて本当に素晴らしい作品だということを身に染みにて感じることができたので、是非そこも多くの人に伝わって欲しいな~なんて勝手に思ってます。

今後、ゲームだけでなく『アクアリウムは踊らない』というコンテンツ自体でいろいろあるようなので、是非そこも追っていきたいですね。
とりあえずドラマCDが欲しいので一旦年末になってもらっていいですかね。

最後に、制作に携わられた全て…?の人に感謝です。
本当に素晴らしいゲームをありがとうございました!

『アクアリウムは踊らない』の感想、以上です。最後までお付き合いありがとうございました。

それでは、良ければまた別のゲームの感想で。


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