カイロでの仕事現場。披露宴とナイトクラブ。

2018年3月某日

3月になり昼間は半袖一枚でも過ごせるようになってきた。
アラビア語圏の人々誰もが知るエジプトの大スター、サードエルソガイヤルのバンドに入団し二ヶ月、ようやく私への歓迎ムードも落ち着き、メンバーから放って置かれることが多くなった。かれこれ100以上の現場を一緒に回っているのだから、飽きられて当然であろう。俺以外はみんなスマホをいじっている。おかげで日本にはほぼいないと思われるオリエンタルアコーディオン奏者やトランペット、サックス奏者等、ベテランミュージシャンズの話も聞け、貴重な時間を過ごしています。

仕事の内容については、例えば週10のオーダー(以前、一仕事のことをミュージシャン用語で「ニムラ」という、とお伝えしたが、うちのメンバーは英語の「order」をよく使う。読み方は「オルダル」、複数形は「オルダレーン」、総数形は「オルダラート」と、英語でもアラビア語変化する。)があるとすると、そのうち8は披露宴営業で、あと2つがナイトクラブの出演ね。どっちもだいたい1時間の演奏よ。


内容が違うのでちょっと比較してみよう。


【披露宴】
・会場が広い(新郎新婦が壇上の白いソファーに座り、その段から続く5cm高の白く光る5m×5mくらいのダンスフロアが必ずある)
・お客さんは主催者の招待者のみ(一般客はいない)
・場所はカイロ郊外の軍施設内の宴会場、またはホテル
・会場により少々の違いはあるが、演奏内容はパッケージ化されている(流れが決まっている)
・演奏開始は早めが23時〜で、遅めが午前1時〜くらい
・メンバーは平均で総勢40名くらいで半分がミュージシャン、半分ダンサー(もちろん全員男性)
・ダンサーのうち半分(10人)はオープニングが終わると踊るドフ隊に変わる
・ミュージシャンのうち5〜6人は、ほぼ最初から最後まで、動き回るスターに付き添って演奏する(私はこの部署にいます)
・仕事の内容は、演奏と踊り50、人員整理件セキュリティーが50の割合(この際一緒に写真を撮ろうと、スターめがけて押し寄せる群衆をなだめながら演奏する)
・できるだけ行儀のいい感じで仕事する


【ナイトクラブ】
・狭いところが多い
・なので、演奏しない踊るだけのメンバーは出演しない(片方のバスに乗って返される)
・お客さんは高いチャージを払って見に来てくれる一般の方(お金持ちのエジプト人、湾岸の外国人多し)
・現場はドッキ、モハンデシーンのホテル、ナイルに浮かぶ動かない船が多い
・演奏内容は変幻自在で流れがまったく読めない(未だに知らない曲が出てくる)
・早めで午前3時開始、遅めで5時開始(と思ったら昨夜は朝6時開始で7時すぎに終わった)
・ナイトクラブ名物、お札のシャワーがある
・それを踏みちらかして踊りまくる(もちろんハラーム)
・慣れたお客さんばかりなので人員整理の仕事はない
・基本、撮影禁止なので押し寄せる群衆もない
・その代わりリクラームと呼ばれるホステスみたいな仕事のグラマラスな(太った)おねえちゃんがステージに上がって踊る
・酔っ払ってる客がいる(もちろんハラーム)
・ちょっと行儀が悪い方がウケる
・サードのMCはお金の話が多い
さて最近はオフシーズンということもあり、カイロ近郊での仕事の他、エルイスカンダレイヤ(アレキサンドリア)、ボールサイードでの披露宴仕事もよくある。どっちも片道3時間半。でもみんな嬉しそうにしてるのは、一仕事で給料を3倍もらえるから。滞在時間は待ち時間を含めて2時間くらいだが、カイロより街も空気もきれいなので、遠足気分も味わえていい。初めて行ったボールサイードでも、アホワ(トルココーヒー)の入れ方がカイロと違ってて(電気コンロで熱した砂の中にコーヒーを沸かす小さい鍋、カナカを突っ込む)、美味しかった。あと確実にカイロよりもいい人が多い。
でも、そういういい人たちが、ひとたび披露宴会場に招待されると、ゾンビのように一斉にスターめがけて押し寄せてくるのである。悪い夢のようだ。私たちは今夜もゾンビたちを丁寧な言葉遣いで、なるべく後ろに追いやって、スターの仕事場を確保するのだ。

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