四谷大塚HPに掲載されている神戸女学院の国語を全部解いてみた

神戸女学院、通称神女。中には女学院と呼ぶ方もいて、そういう方は大阪女学院とかのことは存在を認めていないのかもしれないwと思ってしまう学校。中学入試は基本的にどの学校でも、特に難関校になればなるほど算数で差がつくと言われていますが、元神女コース担当講師いわく唯一の国語勝負の学校。ツイッターの中受界ではあまり認知度が高くないと思いますが、首都圏の名だたる学校に比肩するどころかそれ以上の問題を出す学校なので、問題を解いてみた雑感を紹介してみたいと思います。関西の学校なので四谷大塚のHPにはすべての年度は掲載されていないので、解いたのは2018・2016・2015・2014・2013の5年分です。また、解答は載っていないので、自分で解いて出した答えの精査までは行っておりません。その点はご了承ください。

○5年分解いてみてのまとめ

各年度の雑感は後述するとして、先に箇条書きでまとめを書いてしまいます。

・試験時間50分なのに、大問は最低3題、多いときは5題。記述は多いときは10問ぐらい出る。めちゃくちゃ時間がタイト。たぶんこんなに時間がタイトな入試は他には筑駒だけではないか。私が解いても40分ぐらいかかります。

抜き出しが激ムズ。たぶん抜き出しの難易度は日本一。同意表現の抜き出しがよく出るが、傍線部の表現と似た言葉を探すという手法ではまず解けない。一方、記号選択は易しめでここで取りこぼしていると勝負にならなさそう。

・記述も一部激ムズ。30字以内の短めのものが多数出題されるが、その中の一部は短いのに解答の幅が広い。短いのに本文中の表現を使えないので、部分点をまったくもらえない解答ができあがってしまうのではないという恐れがある。また、年度によっては60字overで内容も桜蔭レベルで重厚なものを、しかも複数出題してくる。もちろん韻文でも記述は出る。つまり、ありとあらゆる記述に対応する力が必要。

韻文は絶対出る。大問で出題しなくても、小問のなかに突っ込んでくるほどの強いこだわりがある。

出典は全然ポップな文章じゃない。海外文学やちょっと昔に書かれた文章がよく出る。そもそも文章を読めない子はお呼びでない。物語文の記述は背景・出来事は本文の表現を使うのがオーソドックスだが、神女の物語では一部わずかな前書きから背景を推測して書くことが求められる。

・年度によっては知識題が大問で出る。ごくまれに語句パズルも出る。捨てていいような奇問が出た年もある。前述の記述も含め、年度ごとに形式はまちまちなのでフォーマット演習をしたというだけの小手先の対策は通用しない

ということでかなり独自路線の入試です。今の時代に合わせる気とか一切ないですね。ていうか中受に関する加熱するメディアなんかを歯牙にも掛けていない。そもそも大学進学実績さえ公表していないような学校ですからね。でも、非常によく練られた小手先の国語力では通用しないいい問題だと私は思います。

余談ですが、大学の同期に一人神女出身の方がいました。その人は高3で文転してぼくと同じ文学部に入り、今は医者やってます笑。大学で会うときは毎回違う服を着てました。それぐらい浮世離れして、(西大和・洛南に行く女傑タイプとは違った意味で)ぶっ飛んだ女子が集まる学校というイメージを私は持っています。

ではここから先は年度ごとの感想です。

○2018年

出典

物語 安岡章太郎「宿題」

随筆 幸田文「ございません」

詩  山本龍生「あたらしい春に」

60字overの記述が複数出る重厚な作りの年。韻文では表現の意図を記述する問題が今回解いた5年分では唯一出ています。しかも、「~を強調するため」というテンプレ解答ではないので要注意です。物語では比喩的な表現に線を引き、主人公がそう感じた理由を答えさせたり、随筆では登場人物の言葉からどんな人物像がうかがえるかを記述させたりと、表面的に書かれていることをまとめるのでなく、行間にあるものを言語化することを強く求められていると感じました。

○2016

出典

随筆 河野裕子「たったこれだけの家族」(『河野裕子エッセイコレクション』より)

物語 レイ・ブラッドベリ「たんぽぽのお酒」

論説 鷲田清一「つかふー使用論ノート」(『本の窓』より)

随筆の問4の抜き出しがめちゃくちゃ難しいです。「対象への没頭」の同意表現を探す問いで、たぶん答えは「人間と自然に関わる諸々の事物事象との、なまみの身体まるごとの感受の仕方」と思われます(自信はあんまりない笑)。これ、傍線の語句の意味からは絶対に出ない答えですし、抽象(答えor傍線)→具体→抽象(答えor傍線)という同意表現の典型題でもないんですよね。傍線の主述関係が、「ひとり遊びとは~対象への没頭なのであろう」となっているので、「ひとり遊び」について説明している別の部分から答えを探すというプロセスでしか答えを見つけようがない。こんなにもシビアに解き方を意識しなければいけない抜き出しを出すのは神女だけじゃないですかね。

○2015

出典

物語 中沢けい「うさぎとトランペット」

随筆 村岡花子「曲がり角のその先に」(『美しさの要素』より)

詩  吉野弘「感傷旅行」

唯一大問5題構成の年で、漢字の成り立ち・かなの成り立ちという突拍子もない問題をぶっこんできました。これは私も満点は取れなかったので、実際の受験生もある程度の取りこぼしは割り切るしかないですね。でも、随筆も詩も抜き出しがやっぱり難しいんだ…詩は種子という題材を通して人間について作者が何を言いたいのかを読み取ることが求められます。詩は結局、人間の世界に置き換えた場合どんなことを言いたいのかを読み取れるかどうかですね。

○2014

出典

物語 ジーン・リトル「天国のパパへのおくりもの」

随筆 長田弘「国境を越える『言葉』」

俳句 中村草田男・山口誓子・橋本多佳子・村上鬼城・正岡子規

2013年もそうなんですが、物語では前書きを読み落とさないことが大切です。前書きで主人公は視覚障害だと書かれているのですが、本文ではそのことは直接的には触れられません。しかし、視覚障害を抑えていないと記述はほとんど落としてしまいます。いやあ、恐ろしい。前書き大事。また、随筆では共通点を答える問いが出ていますが、共通点って関西入試ではあんまり見ないけど、首都圏じゃよく出る問題ですよね。

○2013

出典

論説 五木寛之「生きるヒント」

物語 アルフォンス・ドーテ「少年スパイ」

詩  アーサー・ビナード「ゴミの日」

物語がとんでもなくヘビー。普仏戦争が舞台ってそんなん出す学校、神女以外ないでしょ笑。本文中にはっきりと書かれていませんが、包囲中のパリを抜け出しプロイセン軍に新聞を売りに行くことが裏切り行為であり、そのことで主人公が罪悪感を持ったことを読み取れるかどうかがすべてです。また、詩の最後の記述もかなり難しいですね。第4連の「水と水との語らい」という表現の説明をするのですが、第2連の「(水は)恐竜の血管をめぐりめぐった経験をもつ」という表現を踏まえて、筆者は自身のことも水だととらえていることが読み取れるかどうか。詩って、こういう個別の問題の解説はできるんですけど、どうやったら初見のものにも対応できるか、一般的な実力ってやつを伸ばす方法はなかなか見当たらないです・・・

以上、5年分それぞれの雑感でした。

○最後に

ここまでお読みいただいた方、筑駒・開成・桜蔭とはまた異なるベクトルで中受界で最高難易度の神女の問題に興味を持たれましたら、ぜひ一度ご自身で問いてみてください。国語が好きな方ならきっと楽しいですよ。また、このように一つの学校の複数年度の問題にフォーカスして記事を書いたのは初めてでしたがいかがでしょうか?もし他の学校のものも読んでみたいというご意見ありましたらぜひツイッターなりで聞かせてください!

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