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プリン・ア・ラ・モードでも食べながら。

うすっぺらい甘さのプリンを見かけるたびに、彼女のことを思い出す。

「プリン・ア・ラ・モードってさ、なんだか小賢しい気がしない?
 こういうの好きでしょ、って言われてるみたいで。」

そういいながら、プリン・ア・ラ・モードに乗っていたサクランボを、こちらに渡す。
彼女は缶詰のサクランボが嫌いなのだ。

「そうかな。
 美味しいものの盛り合わせって感じで好きだけど。」

そういうと、つまらないとでも言いたげな表情で、プリンをひとくち口に運ぶ。

「甘いわねぇ。ベタベタに甘い。」

自分で頼んだクセに、そう呟いてタバコに火をつける。
あれだけ止めて欲しい、と再三伝えているタバコを止めることはなかった。
レザーのケースには、いつもメンソールのタバコとライター。
長い髪を耳にかけ、静かに静かにタバコを吸う。
考えてみれば、彼女の行動に口出しする権利なんてないのに。

「ねぇ、あなたにとって人生で大切にしていることはなに?」

彼女はいつも唐突に、そして難しい質問をしてくる。
コーヒーカップを見つめるふりをしながら、「人生で大切なこと」を考える。

「自分が自分の人生の主役でいることかな。
 何かに振り回される人生なんてつまらないから。」

そう答えると、彼女は満足そうにうなづいた。

彼女と出会ってから、人生とか思いとか、そういったことをきちんと考えるようになった。
そしてそれらをきちんと口に出すようになった。

今までは、そういったことは自分の中にそっと閉じ込めて、時折傷んでないか、壊れていないか確認するだけだった。
それではダメだと彼女は言う。
「アウトプットこそ基本」
口癖のように言われていた。

あれから10年近く経ち、戸惑ったりときに卑屈になりながらも、自分の思いを口に出せるようになった。
でも、もう彼女に会っていない。
連絡もない。

あるとき急に自分の人生に大きなインパクトを残して、そしていつの間にかいなくなっていた。

探そうと思えば、いくらでも方法はある。
でも、今はその時期じゃないのかなと思う。
人間関係は消費期限とタイミングがすべてだから。

でも時折、また彼女のヘリクツのような言葉を聞きながら、コーヒーを飲みたい。
プリン・ア・ラ・モードでも食べながら。
甘すぎるわね、と笑いあいながら。

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