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ドーナッツほどの幸福を

「甘いもの食べてるとさ。
 たいていのことなんてどうでもよくなるでしょ。」

ざらざらとした砂糖がたっぷりかかったドーナッツをかじりながら、彼女が笑う。
甘いものが得意ではない僕は、苦笑いしながら珈琲を飲む。

美味しいものを食べているときの彼女はとてもかわいい。
リラックスした猫のように、くにゃりと体中の力が抜けふわふわとしている。
あまり食に興味のなかった僕も、彼女のかわいい姿が見たくて、美味しいお店や料理を覚えるようになった。

「お腹空いてるとさ、よくないほうに考えが向かうでしょ。
 だから深刻な話をするときには、甘いものを食べながらするといいんだって。」

本当かな、と思うけれど、確かにお腹が空いていると悲観的になる。
つまらないことにも、腹がたつ。
そんな基本的なことを教えてくれたのも、彼女なのだ。

「だからさ、泣きたいときとかつらいときは、苦い珈琲じゃなくて、甘さのあるカフェラテにしなよ。
そして、わたしに教えて。何が辛かったか。」

辛いとか、きついとか、自分の個人的な気持ちを人に話すのは苦手だ。
そういう気持ちは自分で処理するものだと思っていたから。
でも、彼女と出会ってから、そういう気持ちを人に話すのも悪いことではないと気が付いた。

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