まるでミルクチョコレートのように。
「産地によって、ここまで味が違うなんてね。
もちろん造り手によっても違うから、沼にずぶずぶとはまってるのよ。」
困った、と言わんばかりのトーンで。
でも、嬉しそうな表情で彼女が言う。
人気のショコラティエが手がけるチョコレートショップで、アート作品のように並ぶチョコレートを見つめる彼女を見つめる。
たまに会って、チョコレートを中心にカフェやスイーツ店を巡る。
ただそれだけの間柄。
SNSで出会って、もうすぐ1年。
彼女のことで知っているのは、
・甘いものが好きなこと
・ネコが好きなこと
・くせ毛を気にしていること
それくらいだ。
それでも、彼女と会い、甘いものを食べ、他愛のない会話をする。
1か月に1回程の楽しみなのだ。
彼女との会話は、チョコレートのように中毒性がある。
「シュガーホリックっていうの。砂糖依存。
麻薬より依存性が高いって言われても、これだけはやめられないよね。」
子どものように笑う彼女に、あいまいな笑顔を浮かべる。
僕の前では、子どものように笑うのだ。
でも、僕は知っている。
まるでミルクチョコレートのように、どこまでも甘くとろけるような笑顔もすることを。
そして、それは決して僕には向けられないことも。
「来月はどのお店にする?
あなたに会って、こうやっておしゃべりするのが本当に好きなのよ。」
また子どものように笑う。
シュガーホリックになっているのは、甘いもののせいだけじゃない。
深く苦いエスプレッソで、苦い感情も流し込んだ。
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