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【2】もぐら本の内容を試し読みできます。今日は「車の中と外。 」をお届け

もぐら会制作による本『もぐらの鉱物採集 2020.01.22~2020.03.29 あの人今、泣こうとしたのかな』は5/20に予約販売を開始しました。おかげさまで予想を上回るご注文をいただき、初版は残りわずかとなりました。増刷は未定ですので、ぜひお早めにご注文ください。

さて本日も、『もぐらの鉱物採集 2020.01.22~2020.03.29 あの人今、泣こうとしたのかな』に収録されている35本のエッセイの中から試し読みをお届けします。本書では、1人の記事は袋とじの外面2ページ、中面2ページ、全4ページで構成されます。ぜひ、実際に本を手にとったところを思い浮かべながらご一読ください。

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【1ページ目 袋とじの外側】

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【2、3ページ目 袋とじの内側】

車の中と外。

今日は2020年3月12日。ちっぽけなウイルスのせいで、健康と経済の不安が渦を巻き、心のきしみは増すいっぽうです。

そんな中、あの震災から九年目の春が訪れました。いまの状況をあのころに重ねる声も聞こえてきますが、コロナのことがあってもなくても、3月11日であってもなくても、わたしが何度も何度も思い出しては考えてしまう話を今日はしたいと思います。

2011年、震災から二週間ほど経ったころ、別居中の夫から電話がかかってきました。

「タカヒロが……タカヒロが、津波にのまれたって」

それだけ言って夫は、文字通りおいおいと泣き出してしまいました。

夫の実家があるのは東北の港町。親戚みんな同じ市内に住んでいます。ほとんどは無事を確認できていたものの、ひとりだけ行方が掴めていなかったのが、夫がかわいがっていた20代の青年タカヒロでした。

なんて声をかけたらいいのか。現実味のかけらもないまま夫を慰める言葉を探す……のがふつうなのでしょうが、なぜかそのときわたしは猛烈に腹が立ってきて、電話口で夫を怒鳴りつけていました。

「は? それほんとなの? 津波にのまれたっていうけどさ、それ誰かが見てたの? 確かかどうかもわかんないうちに、死んだって決めちゃうのおかしいじゃん!!!」

我ながらなんという言いようかと思います。なんであんなに怒ったのかいまでもわかりません。でも夫はわたしのあまりの剣幕に涙がひっこんでしまって、

「そ、そうか、そうだよね。まだわかんないよね、うん」

と納得し、安心したとでもいうように電話を終えたのでした。

そしてタカヒロは、さらにその2週間後、ほんとうに帰ってきたのでした。

その顛末は、こうです。


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