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もぐら会3月読書会・短歌会のレポート。課題本は『はじめての短歌』でした。

こんにちは。紫原明子です。

3月26日金曜日、もぐら会の定例読書会を行いました。
今月の課題本は『はじめての短歌』(穂村弘/河出文庫)です。私たちの日常には「生きのびるための言葉」と「生きる言葉」があるという著者の穂村さん。多くの人に誤解なく理解される言葉、ビジネスシーンや書類で用いられるような言葉は「生きのびるための言葉」であるのに対し、たとえ大勢に理解されなくとも、非効率、非社会的でも、その人にとっては確かに用いる必要のある言葉が「生きるための言葉」であると、本の中では説かれています。またそれぞれは決して対立するものではなく、けれども短歌に用いられるのは後者であり、だからこそ時代を経ても変わることのない情景が、短歌には描かれるということ。

2020年は、世界中がウィルスの脅威に見舞われました。感染拡大を防ぐため、不要不急とみなされる接触は極力制限されました。自分が感染するリスクのみならず、自分が他者を感染させるかもしれない、ともすればそれによって他人の命が脅かされるかもしれないというリスクを、絶えず突きつけられました。このような状況下で自ずと「生きのびる」ことが、社会に生きる私たちの最優先事項となりました。

一方で、社会的には不要不急とみなされる物事、それによって私たちが諦めたさまざまなことの中にこそ、私たちの「生きる」があったことを、多くの人が過去になく実感した1年だったようにも思います。「生きるための言葉」が編まれた短歌の世界に触れることで、私たちが再度「生きる」感覚を取り戻すきっかけになればと、この本を3月読書会の課題本に選びました。

今回、読書会の後半では、参加者と実際に短歌を詠んでみました。テーマは、本の中にも2首登場した「砂浜」としてみました。私を含め初心者だけの、見様見真似の短歌会でしたが、くすっと笑えるものから、つい「わかる」と頷きたくなるものまで、面白い短歌がいくつも生まれました。
せっかくなので記録しておきたいと思います。

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テーマ「砂浜」


砂の音と 暑さと風と望遠レンズ 帰ってこれればそれでいいから

ひょいと堤防に飛び乗る君 おいでと伸びる手から逃げて砂浜

行くあての なき人々が砂浜を ねり歩きたる コロナの週末

砂浜に寄せる波のよう嫌いになれないあなたの態度

砂浜であなたが撮った私のアー写ごめんマッチングにめっちゃ使える

鳩歩く紫色の砂浜におとこ二人泥の城こさえ

美しい 貝殻ふたつ 持ち帰る 描かぬままに 砂浜に置く

砂浜で 貝を拾ってみたけれど そんなわたしは無邪気に見えた?

スニーカー正解だった溜まった砂 君の身代わり持って帰るの

砂浜の 砂が地球の一部なら ファンデーションだって私の一部

砂浜に 泳ぎながら 大をする 水中出産と呼んでいる

野球ママ 私の服をそう言った あの人は絶対砂浜にいない

砂浜に臥して彼方の海を見る 重みなく我が身埋もりゆくまま

バイト後 砂浜でビール 一息に 5分で消えた 時給の半分

初デート ドライブ中に連れられて 無邪気よそおう 知らない砂浜


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もぐら会4月読書会の課題本は『急に具合が悪くなる』(磯野真帆・宮野真生子/晶文社)です。


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