時代背景と許されるラインの話

例の性加害報道が一向にやむ気配がなく、次から次へと告発やら後追いやら出てくる状態ではある。業界周りは代役をどうするとか次に火の粉が降りかかるのは誰だとか非常に慌ただしいのだと思うが、業界人でもなく知り合いでもない自分からすればとにかく静観するしかない。静観せずにあーだこーだ言ったとしても別に影響力はないので一緒だが。

まだ裁判前なのでもちろん最終的にどうなるかはわからないのだが、「活動休止」自体ははっきりともう始まってしまったのでガラっとまたテレビが変わっていくのかなと思う。
しかし、本当にこういうものは「バレるかバレないか」であって、一度イメージがついてしまったら後で「実はそうでもなかったです」となったとしてももう遅い、という印象がある。正直、男であれ女であれ合コンにビジュアル要員を連れてくる、程度ならばどこにでもある話だと思う。で、実際に飲み会自体はしてたとなると、あとは「同意があったかなかったか」「ハラスメント的な力関係があったか」という問題になってくるわけだが、まー正直これは難しい。その時に本気で被害を受けたけど言えなかった人もいれば、ちょっとイヤだったけど仕方ないという程度の人もいるだろう。前者が多かったからこその報道なわけだが。
件の人物は「お笑い」の地位を間違いなく高めたと思うし、多くの人に目標とされ、笑いの力によって救われたと感じる人も多いだろう。だからこそかばう声も多かった。その一方で「だから言えなかったし言おうとしても潰された」という声はその影響力のせいとも言えるわけだ。

しかし、「昔」を含めるとこういう話は実際いつ出てもおかしくないと思う。芸人に限らず、アーティストなり俳優なり、芸能人周りではいくらでも出てくるだろう。何より「昔はそういうこともあった」「みんなやっていた」という意識の裏にどれだけの声があるのかは、ジャニーズ問題を振り返ると想像に難くない。
昔読んだ芸能人のインタビューで「生意気な女はすぐ一発やっちまってた」みたいな話は武勇伝のように語られてたし（故人だが）、暴力に関しても同じだ。直木賞作家のエッセイでも「ナンパして田舎者と分かればそこらへんに捨ててた」みたいなことが書いてあったことがある。ユーモアめかしてはあるが、どこまでの話だったのかわからない。80年代くらいの漫画だと「口を押さえろ」「みんなでやっちまえ」みたいなシーンが普通に「やんちゃな子供の悪ふざけ」程度に描かれていたのも見たし（しかも女性作者で）。これも別にそれを掘り返して叩きたいわけではなくて、時代の背景によって受け取り方はそれくらい違うということである。じゃあ昔被害に遭った人は時間が経ったら言う権利はないのか、と言われたらそんなことはないんだが。ジャニーズ問題だってそうだしね。しかしあっちと違うのは「演者には罪はない」という言い方ができないこと。演者が当事者だから。まあ本当に罪がないのかどうかは裁判次第なので。

しかし今回のことで「過去を掘り返せばいくらでも記事にできるぞ」という意識がさらに強くなってしまったのではないだろうか。だから「昔はそういう意識なくやってたが最近は考え直した」という人がいても過去は変えられないので常に戦々恐々とするしかない。過去の行為なのでと正当化するつもりはないが、こういうのが極端になってしまうと、「お前の家のじいちゃん昔戦争で人を殺してるらしいな」とかになりかねないなとは思う。
「そもそも何もやってなければ怯えることはないんだから」という論調は常にあるだろう。確かにそうだが、全員そんな公明正大には生きてないと思う。「若い時に外で我慢できなくなって空家の庭で大便しました」てなエピソードがあったとして「不法侵入の上に軽犯罪法違反だ」と言われればその通りなわけだし。（念のため書いておくが自分のエピソードではない）
まあ性加害というのはまた重さや傷が違うけど。

さて、今後のことを考えると、休止自体はもう決定したことだし色々と穴埋めをして進んでいくであろう。正直、どれだけカリスマであっても、いなくなれば誰かが代わりに出てくるものだ。それが仮に以前と比べると物足りない部分があったとしても、見てる方もそのうち慣れる。どれだけ衝撃的な事件があっても、1週間もすれば誰かの離婚ニュースみたいなのに取って代わられる時代だし。
その一方でずっと引きずってしまう人もいるわけで、そういう人からすると「世界はなんて薄情なのか」となるんじゃなかろうか。ただネット上ではそうでも自分の身の回りはそうでもないと思う。昨日通った道が急になくなったりはしないし、近所の子供が一瞬で大きくなったりもしない。ダメージを受けやすい人はネットから少し離れるのもいいかなあ。

てなことをネット上で発表している違和感はありつつ。