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「スベリ‐1グランプリ」という新発見フォーマット。

何かと話題を振りまく「水曜日のダウンタウン」において、またもや問題作が登場した。

それが「S(スベリ)‐1グランプリ」である。なんと、M-1やR-1の逆を張って、「日本一面白くない芸人を決めるグランプリ」である。性格が悪い事この上ない。面白いというのはまあ個人的な好みはあれどある程度ウケ方で納得感があるものである。が、その反対となると無音かどうかというわけでもないだろうし。

コンセプトとしては「日本一面白いをひっくり返したらどうなるのか?」ということである意味わかりやすいが、実現はなかなかハードルが高い。
本編を見る前に気になった点が以下の3点である。

1.「面白くなさ」をどうやって本気で競わせるのか
2.何を基準に「面白くない芸人」を選ぶのか
3.芸人を公式に「面白くない」存在としていいのか


1.「面白くなさ」をどうやって本気で競わせるのか

これは、大会コンセプトがわかってしまえば本気でネタをやるわけがなく、ぶっちゃけ騙すしかない。番組では「S」をスベリではなくシングルと伝えることでそこをカバー。それもたまたま選ばれた芸人が全員ピン芸人だったというラッキーにも恵まれたネーミングだ。また全員芸歴16年以上というところに年季と狂気が感じられる。
しかしコンビがいない理由として「相方がいたら面白く無さに途中でやめるか気づく」という話が出ていて、妙に納得させられた。孤高の存在となるには思い込み、というか勘違いし続けることが必要なのだなあ。

2.何を基準に「面白くない芸人」を選ぶのか

番組側で選んでしまうと、キャスティングの権力が悪い方に出てしまうだろう。何せさらし者を呼んでくるのだからそれこそお得意の炎上をしかねない。そこを、「地下を経験している芸人たちに推薦させる」という形をとったことでクリア。共に劇場に出演した経験があるからこそ、本物のつまらなさがわかるという説得力。いわばそれぞれが剣闘士を連れてきて代理決闘させるようなものである。

3.芸人を公式に「面白くない」存在としていいのか

遅かれ早かれテレビに出てしまうことで絶対に「面白くない奴」という理由で呼ばれていたことは本人にバレる。というか普通に考えたら収録後にバラすだろう。そうなると優勝者は「数多いる芸人の中でも最も面白くない」というありがたくない称号をいただくわけだ。別に今後面白くなるわけでもないのだからテレビに出て一瞬知名度が上がるだけでもマシだろう、とめちゃくちゃ上から目線の見方もできるが、まあ実際そういう側面があることに期待するしかない。仮に結果に絶望して引退とか自殺とかでもしたらとんでもないことになるが、ずっとスベリ続けても芸人を継続している強靭な精神力を考えたらそういう心配はないという判断か。

で、実際見てみたところ、まあとんでもない回だった。芸人同士の戦いとは思えないほどに静まりかえる会場。芸人によっては、下手したら葬儀場より静かなのではないかと思わせる空気を作り上げていた。当然入っているお客さんも普通に芸人同士のネタバトルだと思っているので、面白くなかった時の表情がスゴイ。まるで吐き捨てられたガムを眺めるかのような興味のなさ(また特にそういう虚無の表情こそカメラに抜かれる)。笑いが起きないことを推薦芸人たちが「強い」と表現するのを見ていると、なんか本当にウケないことが正義のような気がしてくるから不思議だ。さらに、少しでも笑いが起こると「くそっ」「何やってんだ」と文句を言われる理不尽。中には普通にウケてしまった芸人もいたが、ウケたシーンはスキップされるのがまた徹底している。普通のバラエティであれば考えられない暴挙である。

それにしても、笑いの波が全く起きず凪のような会場を見て、「スベリ続ける」とはこういうことか、という恐ろしさも感じられた。よくますだおかだの岡田圭右や、コウメ太夫などが「スベリ芸」と言われていじられたりされるが、失笑が計算できるというだけでレベルが全然違う。本当のスベリというのは、「なんか面白くない」のではなく「そもそも何をやっているのかわからない」次元にあるのだという発見が新しかった。シュールすぎるとか、勢いだけだとか、本物ってのはそんなもんじゃあないんだぜと強烈に分からされた。

ちなみに優勝はエンジンコータロー。終始何をやってるかわからないという、スベリの亜空間を見せられたような感覚だったが、本人のXを見てみると「爆笑しました」というコメントもついていて、人の好みってほんと色々だと思った。
何より、「面白くない芸人」として推薦されながらも、そもそもみんなテレビ出演を推薦してくれる仲間がいるという時点で捨てたもんではない。ホントに嫌われてたらそもそもこういう場で推薦されないだろうし。

この企画はさすがに二度と開催されないであろう。そういう意味では伝説の回と言える。(浅はかなプロデューサーだとすぐウケたので2回目やろうとか言いそうだが、少なくとも水ダウではないんじゃないかという根拠のない信頼)

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