辻村君
小学校の三年生だか四年生頃、クラスに辻村君がいた。
多分転勤族のご家庭の息子さんだったのか転校生としてクラスに入ってきて高学年には見かけなかったからまたどこかへ転校して行ったのだと思う。
仲が良かったわけでもないのに辻村君のことはとてもとても印象に残っているのだ。
なぜなら、国語の時間、先生に当てられた辻村君が音読する時間が私は大好きだったからだ。
私は、音読が大の苦手だった。音読だけでなく、人前で発表することがそもそも苦手だった。
恥ずかしくて顔が真っ赤になって、なんだか声も出なくなってしまう。
辻村君は、音読がとても上手だった。
ちよっと鼻に抜けるような透き通った声で詰まることもなくスラスラと流暢に読み上げる。
そして、それだけではなかった。
辻村君の音読は特別だった。
私は大阪生まれの大阪育ち。それも河内のど真ん中。
同じクラスの友達、いや、学校中ほぼ100%に近い割合の人が関西弁を話す。
音読の時も関西特有の読み方。そして、それが普通。
辻村君は、関西弁ではなかった。
今思えば普段の会話のイントネーションもみんなと違っていたはず。
普通に標準語を話していたんだと思う。
しかし、周りに関西弁の人しかいない環境で育つと標準語は現実的でなく「テレビの中の言葉」と捉えていた。
だから、辻村君の音読を聞く度に
「すごいなあ。アナウンサーみたいや。」
と思っていた。
私の中では、辻村君はアナウンサーみたいに本を読めるすごい人だったのだ。
辻村君が先生に音読で当てられると、私はいつも聞き入ってしまい
「ずっと辻村君が読み続けてほしい‥‥」
と心の底から願った。
でも、いいところで先生はあっけなく次の人を指名しちゃうのだ。
思う存分サポートしてやってくださいっ。「よ~しっ!がんばるぞ!」という気になってもっとがんばって書きます。