バンコクマダム連載コラム『タイ生活』より  第6話・・・「男前」

突然の来客があった。
夫の友達が数年振りに訪ねて来たのだ。
この人は、夫が南タイから上京し、バンコクで暮らし始めた時に初めて友達になった友人第一号のパノムさん。
曲がったことが大嫌いで友達想いの熱い男だ。
夫が事あるごとに「パノムは、タイ人にとっては飛び切り男前だ」と言う。
なるほど、よく見ると俳優になってもおかしくない整った顔立ちをしている。
しかし、いつもちょっと間抜けでズッコケなところばかり見えてしまいカッコ良さは仮面に隠れたように見えていなかった。

私と夫が結婚してから少し後に、パノムさんも北タイ出身の奥さんと結婚した。素朴な感じの女性で、頭が小さく手足がスラリと長い。パリコレのモデルでもできそうな体型のおとなしそうな人だ。一姫二太郎に恵まれ、幸せそうに見えた。
その後、パノムさんたちはバンコクを離れ、会えないまま月日が流れていた。
そのパノムさんが訪ねて来たのだ。

数年振りに会ったパノムさん。顔が何だか以前と違う・・・
失礼をかえりみずジロジロ眺めると、左の目の下から顎近くにかけて縦の線がくっきり入っている。
枕の端っこに顔を押し付けるように寝て、その跡が残ったままになってるんやろー、とからかおうとしてㇵッとなった。
・・・・・ひょっとして、「切り傷」、いや「切られ傷」?と思い率直に尋ねた。
「どうしたん?その顔の『線』。」

「ああ、これは、切られた傷。妻に。」

「えーっ。ええーっ。」
驚きを隠せず「なんで?なんで?なんで???」と芸能レポーター並みの質問攻めをした。

パノムさんは、私が思っていた以上にタイ人女性の心を惹きつけてやまない男前だったらしい。
彼は、浮気性の男ではなく、ズッコケだし、女性を口説いたりするのも下手そうな感じなのだけど、女性の方が彼を放っておかず自然と近づいてきてしまうのだ。
それが奥さんには心労の種だった。
ストレスを溜めこんでしまった奥さんは、ある日衝動的にパノムさんに
「この男前の顔がいけないっ!!!」
と、ウイスキーの瓶を叩き割り、それで切りつけたというのだ。
かなり出血し、70針も縫ったとか。
恐ろしや・・・・・
それにしても激しすぎる展開。

奥さんは、自分の中の嫉妬の嵐に疲れ切り、パノムさんと別れることに決め、田舎に帰ってしまったらしい。
昔、樹木希林さんが「美人て疲れるわ~」って名セリフを言うフィルムのCMがあったけど、タイでは男前も疲れるものらしい・・・・・



❁お読みいただきありがとうございます。❁
これは、タイのフリーペーパー『バンコクマダム』に2013年から連載させてもらっているコラムをちょこっと編集し、まとめておきたくて書き留めています。

思う存分サポートしてやってくださいっ。「よ~しっ!がんばるぞ!」という気になってもっとがんばって書きます。