バンコクマダム連載コラム『タイ生活』より  第10話・・・「ナマズ」

夫が妙なものにハマった。「ナマズ釣り」だ。
一時間30バーツで、その間に釣ったナマズは全て持ち帰りOKのナマズ釣り堀に友達に誘われて何気なく付き合ったら思いのほか面白くてハマってしまい時間があればナマズ釣りに出向くようになった。
釣って持ち帰ったナマズは飲み友達と料理して飲み会のアテにする。
夫は、鶏でも魚でも仲間の中で一番さばくのが上手いらしく何匹ものナマズを持ち帰っては庭でさばいて切り身にし、いつも飲み会の会場になる友達の家に持って行って料理する。

ナマズをさばく時、バケツにナマズを入れ、塩を振り入れてフタをする。
バタバタバタと数秒暴れてナマズは死んでしまう。

私は、ナマズ料理は大嫌い。しかし、ヤム・プラ―ドゥックフー(揚げナマズのほぐした身の辛くて酸っぱいサラダ)だけは別扱いで大好きなのだ。
庭でナマズをさばかれるのもとても嫌だ。そこで、「ナマズ持ち帰り禁止令」を発令したのだけど意地悪夫は聞き入れない。

そんなある日のこと、夫がまた数匹の大きなナマズを持ち帰った。
その日は時間も遅かったので夫は「明日さばくことにする。」とナマズを大きめのバケツに入れてフタをし、重石を載せた。威勢のいいナマズは、ジャンプしてバケツから飛び出す可能性があるからだ。
夫は、ナマズの入ったバケツをよくチェックしてから庭の真ん中に置いて家の中に入っていった。

その後、私は怖いもの見たさでソーッとバケツのフタを開けてみた。大きなナマズが三匹、バケツの底でじっとしていた。いや、じっとしているしかできなかったのだ。だって、バケツには水がナマズの体がどうにか浸かるぐらいしか入ってないのだ。
「かわいそうに・・・。明日には料理されてしまうのに今夜ぐらい自由に泳ぎ回りたいやろうに。こんなちょっとしか水入れてないし・・・。」
私は、最後の夜ぐらいナマズに楽しく泳がせてあげよう、と気を利かし、水をバケツいっぱいに入れ、フタをし、重石を載せた。
「ナマズさんたち、思い切り楽しく泳いでね。」と。

夜、寝る前に夫がもう一度ナマズをチェックしに庭に出た。
そして、大きな声で怒鳴った。


「誰だーっ。ナマズのバケツに水をいっぱい入れたのはーっ。」


水を入れたのは言わずと知れた私だけど夫が怒っている理由がさっぱり見当つかない。
「水が少なすぎてナマズが泳げないから水をいっぱい入れてあげた」と説明すると、
「それがいけなーいっ!」と夫。
・・・・・なんでやねん。

ナマズは、狭い場所に数匹入れておく場合、自由に泳げないようにしておかないと口の横に鞭のようなヒゲを武器を持っていて相手を攻撃するらしい。
そんなこと知らんし・・・・・

夫は慌ててバケツの中のナマズをチェックした。
あああ~、案の定戦いがあったらしく、ナマズはみんな傷ついていた。仕方ないと夫は夜遅いのにボロボロになったナマズをさばき始めた。

もーっ!ナマズのアホ。
仲間と一緒に楽しく泳げばいいものを、なんで仲間に意地悪せなあかんのやっ。ほんまにアホや。根性が腐りきってる。・・・・と、ますますナマズが嫌いになった。

その数か月後、ナマズ釣り堀は埋め立てられてなくなってしまった。
夫がナマズを持ち帰ることもなくなり、めでたし、めでたし。



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これは、タイのフリーペーパー『バンコクマダム』に2013年から連載させてもらっているコラムをちょこっと編集し、まとめておきたくて書き留めています。


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