バンコクマダム連載コラム『タイ生活』より 第5話・・・「火傷の薬」
タイ人の夫と結婚する前のことだからかれこれ20年近く前のことだ。
(執筆当時に20年前だけど今からだと30年近く前だ~)
その頃、夫はサムイ島に住んでいた。
遊びに行っていた私も一緒に夫の友達の家を訪ねた。
友達の家はサムイ島のリゾート客が溢れる地域から外れたのんびりしたところにあった。
島の人々の暮らしに必要な生活用品雑貨屋さんを古くからやっている。
シャンプー、石鹸、歯ブラシ、タワシから調味料、米、服、下着に文房具と何でも御座れの小さな店だ。
お客さんの出入りも多い。
夫のバイクの後ろに乗り店に到着。
夫がバイクを停めている間に私は先に店の前に行こう・・・としたところで左のふくらはぎに強い衝撃を感じた。
「うわっ」
何が起こったのか分からず声だけあげた。
隣に停められていたバイクの横を通り抜けようとした時に左ふくらはぎがそのバイクのマフラーに触れてしまったのだ。
そのバイクはどうやら停めたてのホヤホヤだったらしくマフラーはまだアツアツ状態だったのだ。
触れた部分の肉がジュッと焼かれ焼肉、いやひどい火傷になってしまった。
長さ10㎝ほどの楕円形の傷は、表皮が剥けてしまいズキズキと痛む。
火傷のことを知った夫の友達のお母さんが奥から薬を持って出てきてくれた。
「わあ!ひどい。
火傷にはこれが一番効くのよ。
これをたっぷり塗っておけば大丈夫。」
と自信満々に白い軟膏を傷口にたっぷり塗ってくれた。
白い軟膏は傷口からしみ出してくる血と混ざり合った。
薬にしては何だか甘く爽やかで親しみを感じる香りが鼻をかすめる。
傷みと火傷をしたショックで傷口ばかりに目をやっていたけれど
親しみ深い香りにフッと我に帰り友達のお母さんの手元を見て
何かの間違いか?!と目を疑った。
白い軟膏は、歯磨き粉だった。
「えっ・・・・、この薬って、歯磨き粉・・・・」
と驚きを隠せない私に
「そう。火傷にはこれが一番!」
と友達のお母さん。
その後病院へ。
既に乾ききってカチカチになっている歯磨き粉を消毒液を浸したコットンでこすって落としてもらう時の痛さといったら・・・・・
ドクターに「こんなもの塗ったらいけません」と叱られてしまった。
今もこの時の傷跡はしっかり残っている。
タイではふくらはぎに私と同じような傷跡のある人をよく見かける。
❁お読みいただきありがとうございます。❁
これは、タイのフリーペーパー『バンコクマダム』に2013年から連載させてもらっているコラムをちょこっと編集し、まとめておきたくて書き留めています。
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